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お礼

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 洞穴で3日目の朝を迎えた。
 目覚めてすぐに火を起こし、明かりと暖を得る。
 壁際に白いミームがマントに包まり、体を丸めて寝ていた。
 俺は奴を見つけなぜかホッとしていた。
 そして縄で拘束された手首を見て心が痛んだ。



 昨日はあれからも何回もこいつと交わった。
 干していた服が乾いて着替えようとしている時、俺が狩ってきた獲物で晩飯を真剣に作ってくれている時、夜寝ようと互いのマントの上にいて、なにげなく目が合ってしまった時、その度に俺は襲いかかった。
 奴も最初は抵抗するのだが、もうそれは形だけになっており、直ぐに俺を受け入れてくれる。
 交わる回を重ねるにつれ奴は乱れ、喘ぎ、快楽を奔放に受け入れるようになっていった。
 俺に抱きつき、可愛く喘ぎ、よがる姿を見て、俺は奴の事を愛おしいと感じてしまった。
 そして、奴も同じように想ってくれているようだった。

 だが、いざ寝る段になって俺は奴の手首を縛ることにした。
 愛おしいという想いと、身の安全を確保する事は別だ。
 俺が縄を持って奴に近づくと、少し悲しげな顔をして素直に腕を差し出す。
 心を鬼にして奴の腕を縛り、そのまま互いのマントの上で眠りについた。

 こいつがミームでさえ無ければ……。

 そう思いながら、胸を痛め少し後悔しながら俺は眠ったのだった。





 俺は奴を起こすと手の縄を解いた。
 縄を解く間も寝ぼけた様子で俺を見上げている。
 よく眠る奴だ。
 こんなに警戒心が薄くて、どうやって今まで生きてこれたのか?
 足の包帯を外し、傷の具合を見てみる。
 まだ傷痕は残っているが、傷口はしっかり塞がりかなり良くなっていた。
 ファームツリーの特効薬は優秀だが、あれだけ深い傷だとやはり治るまでに少し時間がかかったようだ。
 だが、この様子なら明日には跡形もなく完治しているだろう。

 俺が包帯を巻き戻していると、不意に頬に手が触れられる。
 顔を上げると、この上なく優しい顔で、奴が俺の頬をさすっていた。

「☆▲★●、♡♡ 」

 お礼を言っているのだ。
 最近何となくだが、奴が何を言っているのか分かるようになってきた。

 そして、その慈愛に満ちた顔を見て俺は苦悩する。

 もう、わかっている。
 俺にはこいつを殺せない……。

 ミーム狩りの儀式の期限を考えると、明日の朝にはここをたたなければならない。
 ミームの首を持って村に戻るなら、昨日そうしても良かったのだ。

 なぜそうしなかったのか?

 それは、こいつともっと一緒に居たかったからだ。
 短い時間だが、俺はこいつと接しすぎた。
 体を重ね合わせ、この白いミームに愛着を持ってしまった。

 もういっその事、村に帰るのはやめてこいつと一緒に暮らすというのはどうだ?
 本当にそんな事ができるのだろうか?
 生まれてからずっとファームツリーの加護の元に暮らしてきた俺に、そんな生活が出来るのだろうか?

 俺は悶々と悩んでいた。
 その様子を見て白いミームは怪訝そうな顔をする。
 小首を傾げ、心配そうに俺を見ている。
 俺は気をとりなおして笑顔で言う。

「おい、水浴びに行こうぜ。その後は狩りだ。今日はお前も一緒に来い!」

 奴の手を取り、マントの寝床から引き摺り出す。
 何を言っているかは分からないのだろうが、俺に引っ張られ奴は嬉しそうに声をあげる。
 その笑顔を見て俺も嬉しくなる。

 まだ時間はある。今日一日かけて考えればいい。

 そう思い、俺は問題を先送りにした。
 明日の朝までが、どうするのか決める期限だ。
 それまでに決めればいい。
 それに今日一日かけるのには、もう一つの理由がある。

 俺と一緒にいれば、少なくとも奴は『狩ら』れない。
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