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第二部 絆ぐ伝説
第九話一二章 このわたし
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「天命の巫女さまを人間に戻せる⁉」
メリッサの言葉に――。
ロウワンは思わず叫んでいた。その顔は驚愕の表情にこわばっている。その表情が徐々に溶けて言葉の意味が理解できていくとロウワンは、今度はメリッサとゼッヴォーカーの導師につめよった。
「だったら! 早く戻してくれ、一刻も早く!」
天命の巫女さまはもう千年もの間、人類と世界のために自分を犠牲にしてきたんだ!
その思いがある。
そんな犠牲からは早く解放してあげなくちゃ!
そう思う。
ずっと、ずっと、そう思ってきた。
だからこその叫び。食いつかんばかりの勢いでつめより、必死の形相で叫ぶ。その表情はまぎれもなく、愛する女性を救おうとする男のもの。
その表情を、その叫びを、メリッサがどのような思いで見、聞いていることか。それを想像するだけの余裕はいまのロウワンにはない。
「説明しよう、若き人間よ。まずは落ちつくのだ。そのように興奮されては話もできぬ」
「あっ……」
ゼッヴォーカーの導師に静かに諭されて、ロウワンはようやく自分の態度に気がついた。顔を真っ赤に染め、うつむいた。
「す、すみませんでした……」
恥じ入ったための朱に頬を染めて、そう呟く。それも一瞬。すぐにもとの男の顔に戻る。
「でもっ! 人間に戻してあげられるなら早く戻してあげたいんです! 天命の巫女さまは、もう充分に人類と世界のために尽くしてきた。もう、これ以上は……」
「説明しよう、若き人間よ。ことはそう簡単ではない」
「簡単ではない? でも、人間に戻す方法が見つかったって……」
ロウワンはとまどいながら尋ねた。答えたのはメリッサだった。
「たしかに、人間に戻す方法は見つかったわ。でも、それは簡単なことじゃない。そういうことよ」
「説明しよう、若き人間よ。その方法はとくに、そなたにとってつらいものとなるだろう」
「つらいもの? どういうことです?」
わからない。なにも、わからない。顔中にそのとまどいを浮かべてロウワンは尋ねた。ゼッヴォーカーの導師は答えた。
「説明しよう、若き人間よ。天命の巫女を人間に戻すためにはふたつの問題がある」
「ふたつの問題?」
「説明しよう、若き人間よ。ひとつは時期の問題。天命の巫女は自らを天命の曲を奏でつづける自動人形にかえることで、この世界が亡道の世界に呑み込まれることを防いできた。その天命の巫女が人間に戻るということはすなわち、天命の曲が途切れるということ。そして、亡道の世界が最接近しているいま、天命の曲が途切れてしまえば、この世界はたちまち亡道の世界に呑み込まれてしまう」
「あっ……」
言われて、ロウワンはようやく気づいた。というより、思い出した。天命の巫女の奏でつづける天命の曲。その曲がこの世界を覆っていなければ、亡道の司との戦いなどそもそも成り立たない。アリたちが巣穴に流し込まれた水に呑み込まれるように、抵抗する術もなく呑み込まれ、世界のすべてが滅びるのだと言うことに。
「……そうでした。ということは、今回の亡道の司との戦いが終わったあとに人間に戻すということですか?」
それは、ロウワンにとってはごく当然の答えだった。だが、メリッサは残念そうに首を横に振った。
「それでは、間に合わないのよ」
「間に合わない? どういうことだ、メリッサ」
「天命の巫女の奏でる天命の曲。その効果が弱まってきているのよ」
「なんだって⁉」
「正確に言うと、天命の巫女の生命力。それ自体が弱まってきているの。当然よね。千年もの間、天命の曲を奏でつづけきたんだもの。いくら、自分を自動人形にかえることで生命力の消耗を防いできたと言っても限界はある。そして、千年という時はあまりにも永すぎた。その限界がいままさに、やってきたのよ。
本来なら、それで問題はなかった。天命の巫女は千年の未来なら充分な準備ができているはずだと信じ、それまでの間、この世界を守るために自分を自動人形にかえた。天命の巫女は現代においてその役割から解放され、戦いは新たな世代に引き継がれる。そのはずだった。でも……」
――またか。
ロウワンは怒りと共にそう思った。
メリッサの口ごもった言葉。ロウワンはそれを正確に理解していた。
――おれたちはこの千年、身内同士の争いにかまけて亡道の司との戦いに備えてこなかった。そのせいで、天命の巫女さまはなお、解放されずにいる。おれたちは天命の巫女さまも裏切ったんだ。
ロウワンは怒りのあまり両手を握りしめた。爪さが皮膚に食い込み、血がにじむほどだった。
メリッサはつづけた。
「……でも、天命の巫女の思いは叶わなかった。わたしたちには亡道の司と戦うための充分な準備はできていない。天命の巫女には、まだまだ天命の曲を奏でつづけてもらう必要がある」
「でも、天命の巫女さまの生命力は衰えている……」
「そう。このままでは天命の曲の効果は急速に薄れ、この世界は亡道の世界に呑み込まれてしまう」
「じゃあ、どうすればいいんだ⁉」
「説明しよう、若き人間よ。我々はいままさに、その難題に直面しているのだ。我々はこの世界を守るために天命の巫女の生命力を回復させなければならない。しかし、そのためには天命の巫女を人間に戻す必要がある。しかし、天命の巫女を人間に戻せは、天命の曲は途切れ、この世界はたちまち亡道の世界に呑み込まれることになる」
「だから」と、メリッサ。
「わたしたちは、その問題を解決するためにある方法をとらなくてはならない」
「ある方法?」
「説明しよう、若き人間よ。新たなる生贄が必要だと言うことだ」
「生贄⁉」
ロウワンが驚きのあまり、叫んだ。その叫びに応えるようにメリッサがうなずいた。決意を込めたその表情。それがもし、別の人間であったなら、ロウワンもその決意の意味するところに気がついていたはずなのだが……。
「つまり、天命の巫女にかわって天命の曲を奏でる人間が必要だということ。もちろん、どんな人間でも天命の巫女のように、永きにわたって奏でつづけることはできない。でも、この際はそれでいい。代理が天命の曲を奏でている間に、天命の巫女を人間に戻す。そして……」
「そして?」
「……代理の人間と天命の巫女を融合させる」
「なんだって⁉」
「天命の理を使ってふたりの人間をひとりにする。そういうことよ。そうすることで天命の巫女の生命力を回復させて、再び天命の曲を奏でてもらう。千年後。今度こそ亡道の司との戦いに決着をつけるそのときまで」
「まってくれ!」
ロウワンは叫んだ。耐えられない、と、その全身が叫んでいた。
「それじゃ意味ないじゃないか! たとえ、一時的に人間に戻すことができてもそのあとはまた千年もの間、天命の曲を奏でつづける自動人形になってもらうなんて。そんな、一時だけの希望を与えるような真似をするぐらいなら……」
このまま天命の曲を奏でていてもらった方がマシだ!
ロウワンはそう叫んだ。
――自分が必ず人間に戻してみせる。
ロウワンがかつて、天命の巫女に対して立てた誓い。その誓いは決して、そんな半端な意味ではなかった。もう二度と自動人形に戻ることなく人間としての生を送ってもらう。そういう意味だった。そのロウワンにとって、メリッサやゼッヴォーカーの導師の言うことはとうてい受け入れられないものだった。
「それに、生贄なんて。そんな犠牲を払うような真似は……」
ロウワンの言葉にメリッサはしかし、あきらめを込めた表情で首を左右に振った。
「選択の余地はないのよ、ロウワン。それ以外に、亡道の世界からこの世界を守り抜く方法はないの」
「でも……」
「そうするしかないのよ」
メリッサは重ねて言った。その表情はもはや、妻として夫を諭すものではなかった。厳格な教師として生徒を導く。そういう表情だった。
「ロウワン。あなたは人と人が争う必要のない世界を作る。そう誓ったのでしょう? そのために、今回の亡道の司との戦いに勝利し、そのための時間を作ると」
「そ、そうだけど……」
「だったら、それを貫きなさい。出発前、名も無きひとりの兵士の同僚から言われたことを忘れた? あなたの指揮によって多くの人間が死んでいった。あなたはその人たちのために英雄でなければならない。引き返すことは決して許されないのよ」
「で、でも……」
ロウワンは口ごもった。その表情はいまにも泣き出しそうな子どものように弱々しいものになっていた。それは、メリッサの言葉の正しさを認めるしかない、なにひとつ反論することはできない、と、そうわかっているためだった。
「で、でも……生贄なんて、そんな人間がどこに?」
「人選を心配する必要はないわ」
「どういう意味?」
「うってつけの人物がすでにいるということよ。そもそも、この役割は誰でもこなせるものではないわ。いくつかの条件がある。まず、天命の巫女に充分な生命力を与えられるだけの若くて、健康な人間であること。同性であること。天命の巫女を人間に戻す間、その代理が務められるだけの天命の理の使い手であること。そして、最後に、自ら望んでその役割を果たす覚悟があること。
いくら、世界を守るためとはいえ、いやがる人間にむりやりやらせるわけにはいかないものね。そもそも、そんな精神状態では天命の巫女と融合しても役には立たない。天命の巫女と融合し、生命力を回復させるためには、その当人がこの世界を、人々を守り抜こう。そう決意していることが必要なのよ。つまり、自ら望んでその役割を担おうという覚悟のある人間でないとだめ」
「そんな条件を満たす人間がどこに?」
ロウワンは途方に暮れた。そんな条件を満たす都合のいい人間がいるとは思えなかった。いったい、どこの誰が、そんな役割を担うというのか。他人とひとつになって千年もの間、天命の曲を奏でつづける自動人形になるという役割など。
しかし、メリッサはきっぱりと言った。
「いるでしょう。あなたの目の前に」
「目の前?」
ロウワンは目をパチクリさせた。本来、ロウワンがその言葉の意味をわからないほど愚鈍であるはずがない。それなのに、わからなかった。それは無意識のうちに、その言葉の意味を理解することを拒んでいたからだろう。
メリッサはそんなロウワンの逃げを許さなかった。誤解しようのない、はっきりした口調で言った。
「このわたし。メリッサよ」
メリッサの言葉に――。
ロウワンは思わず叫んでいた。その顔は驚愕の表情にこわばっている。その表情が徐々に溶けて言葉の意味が理解できていくとロウワンは、今度はメリッサとゼッヴォーカーの導師につめよった。
「だったら! 早く戻してくれ、一刻も早く!」
天命の巫女さまはもう千年もの間、人類と世界のために自分を犠牲にしてきたんだ!
その思いがある。
そんな犠牲からは早く解放してあげなくちゃ!
そう思う。
ずっと、ずっと、そう思ってきた。
だからこその叫び。食いつかんばかりの勢いでつめより、必死の形相で叫ぶ。その表情はまぎれもなく、愛する女性を救おうとする男のもの。
その表情を、その叫びを、メリッサがどのような思いで見、聞いていることか。それを想像するだけの余裕はいまのロウワンにはない。
「説明しよう、若き人間よ。まずは落ちつくのだ。そのように興奮されては話もできぬ」
「あっ……」
ゼッヴォーカーの導師に静かに諭されて、ロウワンはようやく自分の態度に気がついた。顔を真っ赤に染め、うつむいた。
「す、すみませんでした……」
恥じ入ったための朱に頬を染めて、そう呟く。それも一瞬。すぐにもとの男の顔に戻る。
「でもっ! 人間に戻してあげられるなら早く戻してあげたいんです! 天命の巫女さまは、もう充分に人類と世界のために尽くしてきた。もう、これ以上は……」
「説明しよう、若き人間よ。ことはそう簡単ではない」
「簡単ではない? でも、人間に戻す方法が見つかったって……」
ロウワンはとまどいながら尋ねた。答えたのはメリッサだった。
「たしかに、人間に戻す方法は見つかったわ。でも、それは簡単なことじゃない。そういうことよ」
「説明しよう、若き人間よ。その方法はとくに、そなたにとってつらいものとなるだろう」
「つらいもの? どういうことです?」
わからない。なにも、わからない。顔中にそのとまどいを浮かべてロウワンは尋ねた。ゼッヴォーカーの導師は答えた。
「説明しよう、若き人間よ。天命の巫女を人間に戻すためにはふたつの問題がある」
「ふたつの問題?」
「説明しよう、若き人間よ。ひとつは時期の問題。天命の巫女は自らを天命の曲を奏でつづける自動人形にかえることで、この世界が亡道の世界に呑み込まれることを防いできた。その天命の巫女が人間に戻るということはすなわち、天命の曲が途切れるということ。そして、亡道の世界が最接近しているいま、天命の曲が途切れてしまえば、この世界はたちまち亡道の世界に呑み込まれてしまう」
「あっ……」
言われて、ロウワンはようやく気づいた。というより、思い出した。天命の巫女の奏でつづける天命の曲。その曲がこの世界を覆っていなければ、亡道の司との戦いなどそもそも成り立たない。アリたちが巣穴に流し込まれた水に呑み込まれるように、抵抗する術もなく呑み込まれ、世界のすべてが滅びるのだと言うことに。
「……そうでした。ということは、今回の亡道の司との戦いが終わったあとに人間に戻すということですか?」
それは、ロウワンにとってはごく当然の答えだった。だが、メリッサは残念そうに首を横に振った。
「それでは、間に合わないのよ」
「間に合わない? どういうことだ、メリッサ」
「天命の巫女の奏でる天命の曲。その効果が弱まってきているのよ」
「なんだって⁉」
「正確に言うと、天命の巫女の生命力。それ自体が弱まってきているの。当然よね。千年もの間、天命の曲を奏でつづけきたんだもの。いくら、自分を自動人形にかえることで生命力の消耗を防いできたと言っても限界はある。そして、千年という時はあまりにも永すぎた。その限界がいままさに、やってきたのよ。
本来なら、それで問題はなかった。天命の巫女は千年の未来なら充分な準備ができているはずだと信じ、それまでの間、この世界を守るために自分を自動人形にかえた。天命の巫女は現代においてその役割から解放され、戦いは新たな世代に引き継がれる。そのはずだった。でも……」
――またか。
ロウワンは怒りと共にそう思った。
メリッサの口ごもった言葉。ロウワンはそれを正確に理解していた。
――おれたちはこの千年、身内同士の争いにかまけて亡道の司との戦いに備えてこなかった。そのせいで、天命の巫女さまはなお、解放されずにいる。おれたちは天命の巫女さまも裏切ったんだ。
ロウワンは怒りのあまり両手を握りしめた。爪さが皮膚に食い込み、血がにじむほどだった。
メリッサはつづけた。
「……でも、天命の巫女の思いは叶わなかった。わたしたちには亡道の司と戦うための充分な準備はできていない。天命の巫女には、まだまだ天命の曲を奏でつづけてもらう必要がある」
「でも、天命の巫女さまの生命力は衰えている……」
「そう。このままでは天命の曲の効果は急速に薄れ、この世界は亡道の世界に呑み込まれてしまう」
「じゃあ、どうすればいいんだ⁉」
「説明しよう、若き人間よ。我々はいままさに、その難題に直面しているのだ。我々はこの世界を守るために天命の巫女の生命力を回復させなければならない。しかし、そのためには天命の巫女を人間に戻す必要がある。しかし、天命の巫女を人間に戻せは、天命の曲は途切れ、この世界はたちまち亡道の世界に呑み込まれることになる」
「だから」と、メリッサ。
「わたしたちは、その問題を解決するためにある方法をとらなくてはならない」
「ある方法?」
「説明しよう、若き人間よ。新たなる生贄が必要だと言うことだ」
「生贄⁉」
ロウワンが驚きのあまり、叫んだ。その叫びに応えるようにメリッサがうなずいた。決意を込めたその表情。それがもし、別の人間であったなら、ロウワンもその決意の意味するところに気がついていたはずなのだが……。
「つまり、天命の巫女にかわって天命の曲を奏でる人間が必要だということ。もちろん、どんな人間でも天命の巫女のように、永きにわたって奏でつづけることはできない。でも、この際はそれでいい。代理が天命の曲を奏でている間に、天命の巫女を人間に戻す。そして……」
「そして?」
「……代理の人間と天命の巫女を融合させる」
「なんだって⁉」
「天命の理を使ってふたりの人間をひとりにする。そういうことよ。そうすることで天命の巫女の生命力を回復させて、再び天命の曲を奏でてもらう。千年後。今度こそ亡道の司との戦いに決着をつけるそのときまで」
「まってくれ!」
ロウワンは叫んだ。耐えられない、と、その全身が叫んでいた。
「それじゃ意味ないじゃないか! たとえ、一時的に人間に戻すことができてもそのあとはまた千年もの間、天命の曲を奏でつづける自動人形になってもらうなんて。そんな、一時だけの希望を与えるような真似をするぐらいなら……」
このまま天命の曲を奏でていてもらった方がマシだ!
ロウワンはそう叫んだ。
――自分が必ず人間に戻してみせる。
ロウワンがかつて、天命の巫女に対して立てた誓い。その誓いは決して、そんな半端な意味ではなかった。もう二度と自動人形に戻ることなく人間としての生を送ってもらう。そういう意味だった。そのロウワンにとって、メリッサやゼッヴォーカーの導師の言うことはとうてい受け入れられないものだった。
「それに、生贄なんて。そんな犠牲を払うような真似は……」
ロウワンの言葉にメリッサはしかし、あきらめを込めた表情で首を左右に振った。
「選択の余地はないのよ、ロウワン。それ以外に、亡道の世界からこの世界を守り抜く方法はないの」
「でも……」
「そうするしかないのよ」
メリッサは重ねて言った。その表情はもはや、妻として夫を諭すものではなかった。厳格な教師として生徒を導く。そういう表情だった。
「ロウワン。あなたは人と人が争う必要のない世界を作る。そう誓ったのでしょう? そのために、今回の亡道の司との戦いに勝利し、そのための時間を作ると」
「そ、そうだけど……」
「だったら、それを貫きなさい。出発前、名も無きひとりの兵士の同僚から言われたことを忘れた? あなたの指揮によって多くの人間が死んでいった。あなたはその人たちのために英雄でなければならない。引き返すことは決して許されないのよ」
「で、でも……」
ロウワンは口ごもった。その表情はいまにも泣き出しそうな子どものように弱々しいものになっていた。それは、メリッサの言葉の正しさを認めるしかない、なにひとつ反論することはできない、と、そうわかっているためだった。
「で、でも……生贄なんて、そんな人間がどこに?」
「人選を心配する必要はないわ」
「どういう意味?」
「うってつけの人物がすでにいるということよ。そもそも、この役割は誰でもこなせるものではないわ。いくつかの条件がある。まず、天命の巫女に充分な生命力を与えられるだけの若くて、健康な人間であること。同性であること。天命の巫女を人間に戻す間、その代理が務められるだけの天命の理の使い手であること。そして、最後に、自ら望んでその役割を果たす覚悟があること。
いくら、世界を守るためとはいえ、いやがる人間にむりやりやらせるわけにはいかないものね。そもそも、そんな精神状態では天命の巫女と融合しても役には立たない。天命の巫女と融合し、生命力を回復させるためには、その当人がこの世界を、人々を守り抜こう。そう決意していることが必要なのよ。つまり、自ら望んでその役割を担おうという覚悟のある人間でないとだめ」
「そんな条件を満たす人間がどこに?」
ロウワンは途方に暮れた。そんな条件を満たす都合のいい人間がいるとは思えなかった。いったい、どこの誰が、そんな役割を担うというのか。他人とひとつになって千年もの間、天命の曲を奏でつづける自動人形になるという役割など。
しかし、メリッサはきっぱりと言った。
「いるでしょう。あなたの目の前に」
「目の前?」
ロウワンは目をパチクリさせた。本来、ロウワンがその言葉の意味をわからないほど愚鈍であるはずがない。それなのに、わからなかった。それは無意識のうちに、その言葉の意味を理解することを拒んでいたからだろう。
メリッサはそんなロウワンの逃げを許さなかった。誤解しようのない、はっきりした口調で言った。
「このわたし。メリッサよ」
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