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第二部 絆ぐ伝説
第七話一七章 突撃だ!
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「うおおおおっ!」
ロウワン。
ビーブ。
野伏。
行者。
メリッサ。
ルドヴィクス。
〝賢者〟を打ち倒すための決戦兵力として堪えにこらえ、その身を温存していた最強戦力がついに動き出した。咆哮をあげて突撃し、居並ぶ化け物たちを次々と両断する。稲光の穂先となって疾走し、堪えつづけた思いを叩きつける。その姿に――。
前線の兵士たちは歓声をあげた。
先陣を切るのは野伏だ。自らの背骨を削り出して作った太刀を右に、左に、正面に、化け物どもが目につくすべての場所に叩きつけ、なぎ払い、斬り裂き、斬り捨て、道を作る。
『斬って、斬って、斬りまくった』
どれほど精緻な表現を得意とする詩人であれ、そう表現することしかできない、まさに、そんな光景だった。
そのあとにロウワンがつづく。両手に握った〝鬼〟の大刀を振りまわし、化け物どもを叩き斬ると言うより粉砕して、突き進む。
「邪魔だ、どけ!」
とは、ロウワンは言わない。叫ばない。むしろ、来ればくるほど好都合。堪えにこらえてきた思いを思いきりぶちまけ、叩きつけるには、一体でも多くの化け物どもが来てくれた方がありがたい。
「いくらでも来い! すべて叩き斬ってやる!」
――そうなれば、ひとりでも多くの兵士が助かる。
その思いを込めて、ロウワンは〝鬼〟の大刀を振るいつづける。
そのロウワンの両隣をライオンの群れを率いるビーブと、衛兵隊の最精鋭を従えたルドヴィクスが固めている。
ビーブとライオンたちはこの世界の覇者たる誇りに懸けて、異形の化け物どもをたたき伏せ、踏みにじり、突き進む。ルドヴィクスとその配下の衛兵たちは祖国を蹂躙された怒りを、仲間を殺されたことに対する復讐心を、手にした武器に込めて叩きつける。
極限の武芸が、堪えつづけた思いが、覇者の誇りが、怒りと復讐心が、目に見えるほどの濃密な塊となって化け物の群れに叩きつけられる。その勢いのままに無人の野を征くがごとくに突き進む。
行く先に道ができる。
まさに、そう言うにふさわしい勢い。
ロウワンの後ろにはメリッサが従い、さらにその後ろ、最後尾は行者が固めている。
「シャアアアッ!」
裂帛の気合いと共に太刀が振るわれ、野伏が眼前に立つ最後の化け物を斬り捨てた。もはや、大公邸とロウワンたちの間を遮るものはない。突き進み、押しつぶし、殺すのみ!
「〝ブレスト〟、プリンス!」
ロウワンが走りながら叫んだ。
「〝賢者〟は必ず、おれたちが殺す!〝賢者〟たちがいなくなれば化け物たちも統制を失うはずだ。それまで、守りに徹して無理はするな。犠牲を最小限に抑えるんだ!」
「承知」
「任せろ!」
〝ブレスト〟とプリンスが口々に答える。
ロウワンたちは大公邸めがけて突き進む。目の前にそびえるは正面の扉。広く、高く、堅牢な作り。通常であれば、大砲の五つ六つも持ち出さなくては到底、破壊できない。しかし、いまのロウワンたちにとっては障害にもなりはしない。
「おおおおおっ!」
ロウワンと野伏が同時に叫び、手にした大刀を、太刀を振りおろす。大地を揺るがす衝撃波がうなりをあげて突き進み、扉に叩きつけられる。さしもの堅牢な扉も耐えきれずに吹き飛び、粉々に粉砕される。
まるで、カマキリの卵から一斉にわき出す幼虫のようだった。大公邸のなかに潜んでいた新たな化け物たちが、吹き飛んだ扉の奥からあふれ出す。その数、およそ数百。
いまさら、その程度の数の化け物たちがなんの役に立とう。ロウワンが〝鬼〟の大刀を渾身の力を込めて横殴りに振るう。大刀に込められた〝鬼〟の力があふれ出し、化け物たちをなぎ払う。さしもの、天命の理によって作られた化け物たちも〝鬼〟の力の前では紙くずも同然。粉砕され、吹き飛ばされ、一気に道が開く。
ロウワンたちは扉を越えて大公邸のなかに飛び込んだ。
「〝賢者〟たちはどこだ⁉」
「上よ!」
ロウワンの叫びにメリッサが答えた。
「この建物のずっと上。おそらく、最上階。そこに、〝賢者〟がいるわ」
「キキキ、キイ」
――お前、そんなことわかるのかよ?
「お姫さま扱いされたくて、一緒に来ているわけではないわ。わたしは天命の理の波動を感じることができる。〝賢者〟たちはまちがいなく、この建物の最上階にいる」
「最上階に向かう階段はこっちだ!」
ルドヴィクスが叫び、先陣を切って走り出した。
衛兵隊の隊長として、大公邸を守る任務を負っていたルドヴィクスである。大公邸の作りはよく知っている。〝賢者〟たちがどこにいるか、それさえわかれば迷う心配はなかった。
「ビーブ!」
ロウワンはルドヴィクスについて走りながら叫んだ。
「お前たちは扉を守ってくれ! 外の化け物たちを侵入させるな!」
敵の支配する建物に乗り込んだとき、もっとも警戒しなくてはならないのは前後からの挟み撃ちに遭うこと。その事態を避けるために、鉄壁の防衛線たる部隊を後方に配置しておく。ロウワンはその最も重要な役割をきょうだい分たるビーブに任せたのだ。
――任せとけ! 後ろはおれたちに任せて、お前は前だけを見て突き進め!
ビーブはライオンの群れと共にくぐってきた扉に向き直った。
体重二〇〇キロを優に超える巨体。その巨体に込められた、人間には及びもつかない野生の力と速さ、たくましさ。大きな牙と鋭い爪。それは、いかなる武器よりも頼もしい壁となってロウワンの背後を守る。この猛々しい生きた壁がいる限り、外の化け物たちはただの一体たりとて大公邸に侵入できるはずがなかった。
後方の守りをビーブたち獣士隊に任せ、ロウワンたちは大公邸を突き進む。馬鹿馬鹿しいほどに高い天井のもと、やはり、馬鹿馬鹿しいまでに広い廊下を渡り、階段をのぼる。そのロウワンたちの前に、地響きを立てて現われたものがいた。ゾウほどもある巨体に醜悪な老人の顔をもった巨大なクモ。そして、青白く光る二本脚で立つサンショウウオ。
「土蜘蛛か!」
野伏が叫ぶと、行者も言った。
「あの光るサンショウウオは『いひか』だね。この国はずいぶんと、東方の妖物たちをひいきにしているらしいね」
「六公爵の秘密兵器だ」
ルドヴィクスが言った。
「六公爵はそれぞれ、自分が権力を握る機会がきたときに備えて、東方の妖物を輸入し、飼い慣らしていると聞いた。そいつらだ」
ルドヴィクスの家は伯爵であり、六公爵に比べれば月の前のスッポンでしかない。しかし、大公邸を守る衛兵隊長に任命される程度には格式のある家柄。その伯爵家の跡継ぎとして生まれたルドヴィクスは当然、六公爵たちの闇の噂を聞いていた。
ゴアアアアッ!
おぞましい叫びをあげて土蜘蛛が、いひかの群れが、ロウワンたちに襲いかかる。その叫びをかき消す咆哮をあげたのは野伏だった。そして、行者も。
「やかましい! おれは怒ってるんだ!」
「今回は僕も本気なんだ。すべて、食わせてもらうよ」
野伏が太刀を振るい、ゾウほどもある土蜘蛛の巨体を真っ二つに両断する。
行者の額に生と死を司る月曜の空が表われ、いひかたちを次々と飲み込んでいく。
東方の妖物たちを一蹴するその様に、
ロウワンはホッとするものを感じた。
――やっぱり、このふたりも堪えにこらえていたんだ。
年長者として、ロウワンを諭す役割を自らに課し、表面上は平静を装っていた。それでも、その心の奥ではロウワンと同じ思いを、同じ怒りを抱いていた。そのことがわかって嬉しかったし、思いを同じくする仲間がいてくれることにこの上ない心強さを感じた。
大公邸の奥から次からつぎへとやってくる妖物たち。そのすべてを斬り裂き、斬り捨て、両断し、吹き飛ばし、ロウワンたちは突き進む。元凶たる〝賢者〟たちの潜む空間に向かって。
「あそこよ! あの扉の奥に〝賢者〟たちがいるわ!」
メリッサが前方を指さしながら叫んだ。
そこにあるものは『扉』と言うにはあまりにも堅牢。大きく、分厚く、まるで巨大な石の塊をはめ込んだような代物。普通であれば、そんなものをぶち破ってなかに入ることなど到底、不可能。しかし、あいにくといま、この場にやってきたものたちは『普通』ではなかったし、その胸に抱く思いももはや『普通』などではなかった。
「吹き飛べえっ!」
その叫びと共に、ロウワンが〝鬼〟の大刀を真っ向から振りおろす。ロウワンの意思に応じて大刀から〝鬼〟の力があふれ出し、石の塊のような扉に叩きつけられる。
さしもの堅牢な扉も、〝鬼〟の力の前では小石の集まりも同然。ビキビキと音を立ててひび割れ、崩れ落ち、嵐に巻かれた砂のように奥に向かって吹き飛ばされる。
〝賢者〟のもとへ向かう最後の障壁は消え去った。ロウワンたちは吹き飛んだ扉をくぐり、なかに入った。〝賢者〟たちの待ち受ける場所、千年に渡って過去の亡霊たちが潜みつづけた、この世の異界へと。
「〝賢者〟あっ!」
ロウワンは力の限りに叫んだ。
その叫びの前にいるのは陽光に満たされ、草花が生い茂り、チョウたちの舞う天界にそびえる巨大な樹木と、その前に居並ぶ醜悪な老人たち。
歴史を流れをとどめ、自分たちのものにしておこうとする過去の亡霊たちと、
誰も見ない未来を求める若者。
その両者がついに、相まみえたのである。
ロウワン。
ビーブ。
野伏。
行者。
メリッサ。
ルドヴィクス。
〝賢者〟を打ち倒すための決戦兵力として堪えにこらえ、その身を温存していた最強戦力がついに動き出した。咆哮をあげて突撃し、居並ぶ化け物たちを次々と両断する。稲光の穂先となって疾走し、堪えつづけた思いを叩きつける。その姿に――。
前線の兵士たちは歓声をあげた。
先陣を切るのは野伏だ。自らの背骨を削り出して作った太刀を右に、左に、正面に、化け物どもが目につくすべての場所に叩きつけ、なぎ払い、斬り裂き、斬り捨て、道を作る。
『斬って、斬って、斬りまくった』
どれほど精緻な表現を得意とする詩人であれ、そう表現することしかできない、まさに、そんな光景だった。
そのあとにロウワンがつづく。両手に握った〝鬼〟の大刀を振りまわし、化け物どもを叩き斬ると言うより粉砕して、突き進む。
「邪魔だ、どけ!」
とは、ロウワンは言わない。叫ばない。むしろ、来ればくるほど好都合。堪えにこらえてきた思いを思いきりぶちまけ、叩きつけるには、一体でも多くの化け物どもが来てくれた方がありがたい。
「いくらでも来い! すべて叩き斬ってやる!」
――そうなれば、ひとりでも多くの兵士が助かる。
その思いを込めて、ロウワンは〝鬼〟の大刀を振るいつづける。
そのロウワンの両隣をライオンの群れを率いるビーブと、衛兵隊の最精鋭を従えたルドヴィクスが固めている。
ビーブとライオンたちはこの世界の覇者たる誇りに懸けて、異形の化け物どもをたたき伏せ、踏みにじり、突き進む。ルドヴィクスとその配下の衛兵たちは祖国を蹂躙された怒りを、仲間を殺されたことに対する復讐心を、手にした武器に込めて叩きつける。
極限の武芸が、堪えつづけた思いが、覇者の誇りが、怒りと復讐心が、目に見えるほどの濃密な塊となって化け物の群れに叩きつけられる。その勢いのままに無人の野を征くがごとくに突き進む。
行く先に道ができる。
まさに、そう言うにふさわしい勢い。
ロウワンの後ろにはメリッサが従い、さらにその後ろ、最後尾は行者が固めている。
「シャアアアッ!」
裂帛の気合いと共に太刀が振るわれ、野伏が眼前に立つ最後の化け物を斬り捨てた。もはや、大公邸とロウワンたちの間を遮るものはない。突き進み、押しつぶし、殺すのみ!
「〝ブレスト〟、プリンス!」
ロウワンが走りながら叫んだ。
「〝賢者〟は必ず、おれたちが殺す!〝賢者〟たちがいなくなれば化け物たちも統制を失うはずだ。それまで、守りに徹して無理はするな。犠牲を最小限に抑えるんだ!」
「承知」
「任せろ!」
〝ブレスト〟とプリンスが口々に答える。
ロウワンたちは大公邸めがけて突き進む。目の前にそびえるは正面の扉。広く、高く、堅牢な作り。通常であれば、大砲の五つ六つも持ち出さなくては到底、破壊できない。しかし、いまのロウワンたちにとっては障害にもなりはしない。
「おおおおおっ!」
ロウワンと野伏が同時に叫び、手にした大刀を、太刀を振りおろす。大地を揺るがす衝撃波がうなりをあげて突き進み、扉に叩きつけられる。さしもの堅牢な扉も耐えきれずに吹き飛び、粉々に粉砕される。
まるで、カマキリの卵から一斉にわき出す幼虫のようだった。大公邸のなかに潜んでいた新たな化け物たちが、吹き飛んだ扉の奥からあふれ出す。その数、およそ数百。
いまさら、その程度の数の化け物たちがなんの役に立とう。ロウワンが〝鬼〟の大刀を渾身の力を込めて横殴りに振るう。大刀に込められた〝鬼〟の力があふれ出し、化け物たちをなぎ払う。さしもの、天命の理によって作られた化け物たちも〝鬼〟の力の前では紙くずも同然。粉砕され、吹き飛ばされ、一気に道が開く。
ロウワンたちは扉を越えて大公邸のなかに飛び込んだ。
「〝賢者〟たちはどこだ⁉」
「上よ!」
ロウワンの叫びにメリッサが答えた。
「この建物のずっと上。おそらく、最上階。そこに、〝賢者〟がいるわ」
「キキキ、キイ」
――お前、そんなことわかるのかよ?
「お姫さま扱いされたくて、一緒に来ているわけではないわ。わたしは天命の理の波動を感じることができる。〝賢者〟たちはまちがいなく、この建物の最上階にいる」
「最上階に向かう階段はこっちだ!」
ルドヴィクスが叫び、先陣を切って走り出した。
衛兵隊の隊長として、大公邸を守る任務を負っていたルドヴィクスである。大公邸の作りはよく知っている。〝賢者〟たちがどこにいるか、それさえわかれば迷う心配はなかった。
「ビーブ!」
ロウワンはルドヴィクスについて走りながら叫んだ。
「お前たちは扉を守ってくれ! 外の化け物たちを侵入させるな!」
敵の支配する建物に乗り込んだとき、もっとも警戒しなくてはならないのは前後からの挟み撃ちに遭うこと。その事態を避けるために、鉄壁の防衛線たる部隊を後方に配置しておく。ロウワンはその最も重要な役割をきょうだい分たるビーブに任せたのだ。
――任せとけ! 後ろはおれたちに任せて、お前は前だけを見て突き進め!
ビーブはライオンの群れと共にくぐってきた扉に向き直った。
体重二〇〇キロを優に超える巨体。その巨体に込められた、人間には及びもつかない野生の力と速さ、たくましさ。大きな牙と鋭い爪。それは、いかなる武器よりも頼もしい壁となってロウワンの背後を守る。この猛々しい生きた壁がいる限り、外の化け物たちはただの一体たりとて大公邸に侵入できるはずがなかった。
後方の守りをビーブたち獣士隊に任せ、ロウワンたちは大公邸を突き進む。馬鹿馬鹿しいほどに高い天井のもと、やはり、馬鹿馬鹿しいまでに広い廊下を渡り、階段をのぼる。そのロウワンたちの前に、地響きを立てて現われたものがいた。ゾウほどもある巨体に醜悪な老人の顔をもった巨大なクモ。そして、青白く光る二本脚で立つサンショウウオ。
「土蜘蛛か!」
野伏が叫ぶと、行者も言った。
「あの光るサンショウウオは『いひか』だね。この国はずいぶんと、東方の妖物たちをひいきにしているらしいね」
「六公爵の秘密兵器だ」
ルドヴィクスが言った。
「六公爵はそれぞれ、自分が権力を握る機会がきたときに備えて、東方の妖物を輸入し、飼い慣らしていると聞いた。そいつらだ」
ルドヴィクスの家は伯爵であり、六公爵に比べれば月の前のスッポンでしかない。しかし、大公邸を守る衛兵隊長に任命される程度には格式のある家柄。その伯爵家の跡継ぎとして生まれたルドヴィクスは当然、六公爵たちの闇の噂を聞いていた。
ゴアアアアッ!
おぞましい叫びをあげて土蜘蛛が、いひかの群れが、ロウワンたちに襲いかかる。その叫びをかき消す咆哮をあげたのは野伏だった。そして、行者も。
「やかましい! おれは怒ってるんだ!」
「今回は僕も本気なんだ。すべて、食わせてもらうよ」
野伏が太刀を振るい、ゾウほどもある土蜘蛛の巨体を真っ二つに両断する。
行者の額に生と死を司る月曜の空が表われ、いひかたちを次々と飲み込んでいく。
東方の妖物たちを一蹴するその様に、
ロウワンはホッとするものを感じた。
――やっぱり、このふたりも堪えにこらえていたんだ。
年長者として、ロウワンを諭す役割を自らに課し、表面上は平静を装っていた。それでも、その心の奥ではロウワンと同じ思いを、同じ怒りを抱いていた。そのことがわかって嬉しかったし、思いを同じくする仲間がいてくれることにこの上ない心強さを感じた。
大公邸の奥から次からつぎへとやってくる妖物たち。そのすべてを斬り裂き、斬り捨て、両断し、吹き飛ばし、ロウワンたちは突き進む。元凶たる〝賢者〟たちの潜む空間に向かって。
「あそこよ! あの扉の奥に〝賢者〟たちがいるわ!」
メリッサが前方を指さしながら叫んだ。
そこにあるものは『扉』と言うにはあまりにも堅牢。大きく、分厚く、まるで巨大な石の塊をはめ込んだような代物。普通であれば、そんなものをぶち破ってなかに入ることなど到底、不可能。しかし、あいにくといま、この場にやってきたものたちは『普通』ではなかったし、その胸に抱く思いももはや『普通』などではなかった。
「吹き飛べえっ!」
その叫びと共に、ロウワンが〝鬼〟の大刀を真っ向から振りおろす。ロウワンの意思に応じて大刀から〝鬼〟の力があふれ出し、石の塊のような扉に叩きつけられる。
さしもの堅牢な扉も、〝鬼〟の力の前では小石の集まりも同然。ビキビキと音を立ててひび割れ、崩れ落ち、嵐に巻かれた砂のように奥に向かって吹き飛ばされる。
〝賢者〟のもとへ向かう最後の障壁は消え去った。ロウワンたちは吹き飛んだ扉をくぐり、なかに入った。〝賢者〟たちの待ち受ける場所、千年に渡って過去の亡霊たちが潜みつづけた、この世の異界へと。
「〝賢者〟あっ!」
ロウワンは力の限りに叫んだ。
その叫びの前にいるのは陽光に満たされ、草花が生い茂り、チョウたちの舞う天界にそびえる巨大な樹木と、その前に居並ぶ醜悪な老人たち。
歴史を流れをとどめ、自分たちのものにしておこうとする過去の亡霊たちと、
誰も見ない未来を求める若者。
その両者がついに、相まみえたのである。
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