放課後

クッキー石田

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何気のない会話

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 高校2年の二学期のテスト週間、放課後二人で残って勉強する、小説やアニメで使い古されたシチュエーション。

 実際には平日は部活で忙しい二人にとっては、先生も他の生徒もいない教室、上の教室では文化祭に向けて練習している軽音部の音が漏れてくる。

 家のリビングよりいるはずなのに普段とは違う状況は少し高校生活を実感する。こいつはそんなBGMなど無視してスマホで好きな音楽を爆音で流している、こいつが現代文の点数が低い原因はここにあるんじゃないかと思ったりする。

 あいつは得意な数学の問題集を黙々と解いている。これといって互いに教え合うことはあまりない。
 以前に現代文を教えてあげたときに自分の教え方が気に食わなかったのだろう、少し不満そうに聞いていた。お前の方が点数高いのにな。
 こんな時ぐらい、かっこいいところを見せてもいいじゃないか。

 形だけの勉強会は続いているのは互いにこの”非日常”を楽しんでるからだと思う。

特に会話するでもなく、あいつが清水翔太の曲を気持ちよく歌い、感極まっている。

一向に進まない問い3の問題の答えをカンニングしようとした時、

 「なぁ、マック行かね?今、月見バーガーやってるじゃん」 

「クーポン見てみるわ、今配信されてるよ」
 
「休憩がてら行こうぜ」

「全然進んでないけどいいよ、行こうぜ」



 清水翔太に月見バーガーの要素などあったのか、当然に言い出した。
 もし本人がそんな思いを込めて作っていて、コイツが気づくことができたならこいつは天才だ。現代文の成績も5段階評価の7である。

 もはや秋の風物詩の一つになっている「月見バーガー」10代の秋に食べた回数が多い食べ物ランキングを作ったら秋刀魚を超えて2位だろ。一位はもちろん芋だろう。異論は認めない。

 しかし、こいつは食べ盛りとはいえ、二言目に食のことしか言えない。アレクサの方がマシだ。なんてよくAIの音声認識ソフトに例えるツッコミがあるが、実際には相応の返答はしてくれる。
 そりゃ意味不明な質問をされたら「すみません、よくわかりません」と言われる。家電やスマートフォンに向かってそんなことを言っている人間の心理状況のことを馬鹿にしているかもしれない。



 財布と携帯だけを持ち、教室を出ていく。他の教室にいる友人と身内ノリやネタを話する。たまにカップルで勉強している教室を見てお互いに妬み、愚痴もいう。そうして校門まで向かう。

 自慢ではないが高校からマックまで往復5分もかからない距離にある。さらに自慢ではないがマックしかないのだ。
放課後に閉まってしまう売店、コンビニまで行くには一度坂を降りなければならない

 ここにコンビニを作れば繁盛とは行かずとも安定した利益は出せるのではないかとか、そんなことを考えながら目的地に向かう。


 月見バーガーだけではなく当然のようにサイドメニューのポテトも食べる。
 
 もうすぐチャイムが聞こえてくるような午後4時過ぎによく食べるものだ。コイツの家は夕飯が遅い時間帯なのか、これが夕飯の代わりなのか、そんなことも考えていないのか、なんにせよ美味しそうに食べるものだ。

 初めて食べたような表情をしている、幸せそうだ。すぐに平らげ、満足したのか携帯をいじりながら噂話を始める。
 
 
 高校のテストとは学力がどのくらい身についているのかを試すものだが、区切りの一つでもある。特に恋愛において発展や後退しやすい時期でもある。

 テスト勉強を口実に二人で会うきっかけを作ったり、テスト勉強に集中したいからと距離を置くこともできる。
 「誰にも言わないでと」という枕詞で広まる様々な噂やゴシップの話を自分は多く知っている。
 単純に女子の友人が多いからだ。幸いコイツは口が固いため教えてもバレることはない。噂というカードを無垢な目をして驚きながら引く彼は何故か愛おしかった。

 相手に情報を教えるというの行為はいささか優越感に浸れることである。
 違うな、少し匂わせたり、勿体ぶることでコイツは聞きたそうにする、必要とされていることに優越感を感じている。
 そんなふうに他愛もない話をして時間は過ぎていく。数少ない部活の存在しない、誰もが描く高校の時間。

 文化祭で発表する曲を少しだけ聞いてしまった事、月見バーガーのクーポン、多感な高校生の恋愛の話、そんなことよりも、
 コイツと話せること、一緒にいられることそれが何よりも嬉しかった。頭の良さに関わらず一緒に勉強してくれる、コイツの友人でいられること。
 一向に進むことのないこの問題集。二人の国語力に助けられてるのかもしれない。

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