74 / 105
第三章 東の国の大きなお風呂編
※悪態の語彙が少ない
しおりを挟む
それからのことはよく覚えていない。
というよりも忘れてしまいたい、というのが本音だ。つまり覚えている。
また距離が無くなって、リヴィウスと唇を重ねた。どうしてリヴィウスがそればかりしたがるのかはわからないけれど、ステラもなんとなくこの触れ合いが好きだった。だから手を伸ばしたのだ。
ステラよりもずっと広くて逞しい背中に腕を伸ばして、そして抱き着いた。
思えばそれが悪かったように思う。あの瞬間からリヴィウスの雰囲気が変わったと、朧げだがステラは理解している。
多分、この体にはもうリヴィウスが触れていない場所がない。文字通り頭の先から爪の先までリヴィウスはステラの全てに触れて、とても言葉には出来ないようなこともしている。
首筋どころか胸、腹、足、もしかしたら目には見えない場所にも吸い付かれた鬱血痕があるかもしれない。
……食べられているみたいだったと、ステラは思った。
「ステラ」
聞いたことがないくらいの熱っぽい声で名前を呼んで、ステラでも知らなかった場所にリヴィウスが触れた。そんなところ触らないでと涙ながらに訴えたのにやはりリヴィウスは聞いてくれなくて、でもそうまでして触れてくれるのだと思うと胸の奥から悦びが迫り上がった。
「大丈夫か」
嫌だと言っても触ってくるくせに、一番深くにまで入り込んできたくせに、それでも事あるごとにそう言って優しくするからステラは頷いたのだ。
服を纏っていない体に抱き着いて、お互いに汗ばんだ肌を重ねて、呼吸も境界線も曖昧になるくらいに互いを求めた。と、思う。
そんな爛れていたけれどこれ以上ないくらい満ち足りた時間をどれくらい過ごしただろうか。もう途中から記憶がない。「愛の雫」というあの魔族から生まれたらしいものを飲まされたステラの体はやはりいつもとは全く違っていた。
全てにおいて判断能力も思考力も狂っていた。体の感覚は特にだ。
どれだけ触れられても注がれてもステラの体は満足しなかった。むしろ与えられる分だけ飢えていったような気もする。それに嫌だと喚くステラを宥めたのもリヴィウスだ。あの時の己の痴態とも言える振る舞いを思い出すだけで顔から火が出そうだ。
「……ステラ」
体に回った腕に力が込められて、背中に比較的高い体温が触れる。ぴとりと吸い付くように触れ合うのは二人が服を着ていないからだ。
「……」
ステラの倍かそれ以上に逞しい腕がしっかりと体に巻き付いて、耳元で穏やかな低音が聞こえる。呼ばれているとわかっているけれど、ステラはとてもじゃないが顔を向けることが出来なかった。
「……おい」
「あっ、~~、見ないで、ください…っ!」
けれど体格差があれば力の差も歴然なわけで、ステラは簡単に組み敷かれて見下ろされてしまう。リヴィウスの目が、ステラを見ている。そうわかっただけでステラの顔は熟したリンゴのように真っ赤に染まった。
咄嗟に両手で顔を覆うけれど、赤くなった瞬間の顔は絶対に見られている。その証拠にリヴィウスが機嫌良さそうに喉を震わせて笑っている音が聞こえるのだ。
「何をそう隠すことがある。もう俺はお前の全てを見たぞ」
「リヴィの馬鹿……!」
ステラの精一杯の悪態にリヴィウスが軽く吹き出した。心底愉快そうに笑って、徐にステラの顔を覆う手首を片手で掴んだ。「あ」という間もなく腕を引き剥がされて、どこからどう見ても上機嫌な顔に見下ろされステラの眉間には深い皺が刻まれる。
「その馬鹿に何度も抱かれたのはお前だろう」
「~~~っ! ばか!」
今度は首や肩まで赤くなった。ステラは泣きそうなくらい羞恥を感じているのに、リヴィウスはとても嬉しそうでステラの表情はますます複雑に歪む。そんなステラの心境を知ってか知らずか不意に顔が近付いた。
掠めるように唇が触れ合って、ステラは目を丸くした。もうステラから媚薬は綺麗さっぱり消えている。そんなことはリヴィウスにだってわかっているはずなのに、そんなのは関係ないとばかりに触れ合う熱に、ステラの心臓は壊れそうだった。
というよりも忘れてしまいたい、というのが本音だ。つまり覚えている。
また距離が無くなって、リヴィウスと唇を重ねた。どうしてリヴィウスがそればかりしたがるのかはわからないけれど、ステラもなんとなくこの触れ合いが好きだった。だから手を伸ばしたのだ。
ステラよりもずっと広くて逞しい背中に腕を伸ばして、そして抱き着いた。
思えばそれが悪かったように思う。あの瞬間からリヴィウスの雰囲気が変わったと、朧げだがステラは理解している。
多分、この体にはもうリヴィウスが触れていない場所がない。文字通り頭の先から爪の先までリヴィウスはステラの全てに触れて、とても言葉には出来ないようなこともしている。
首筋どころか胸、腹、足、もしかしたら目には見えない場所にも吸い付かれた鬱血痕があるかもしれない。
……食べられているみたいだったと、ステラは思った。
「ステラ」
聞いたことがないくらいの熱っぽい声で名前を呼んで、ステラでも知らなかった場所にリヴィウスが触れた。そんなところ触らないでと涙ながらに訴えたのにやはりリヴィウスは聞いてくれなくて、でもそうまでして触れてくれるのだと思うと胸の奥から悦びが迫り上がった。
「大丈夫か」
嫌だと言っても触ってくるくせに、一番深くにまで入り込んできたくせに、それでも事あるごとにそう言って優しくするからステラは頷いたのだ。
服を纏っていない体に抱き着いて、お互いに汗ばんだ肌を重ねて、呼吸も境界線も曖昧になるくらいに互いを求めた。と、思う。
そんな爛れていたけれどこれ以上ないくらい満ち足りた時間をどれくらい過ごしただろうか。もう途中から記憶がない。「愛の雫」というあの魔族から生まれたらしいものを飲まされたステラの体はやはりいつもとは全く違っていた。
全てにおいて判断能力も思考力も狂っていた。体の感覚は特にだ。
どれだけ触れられても注がれてもステラの体は満足しなかった。むしろ与えられる分だけ飢えていったような気もする。それに嫌だと喚くステラを宥めたのもリヴィウスだ。あの時の己の痴態とも言える振る舞いを思い出すだけで顔から火が出そうだ。
「……ステラ」
体に回った腕に力が込められて、背中に比較的高い体温が触れる。ぴとりと吸い付くように触れ合うのは二人が服を着ていないからだ。
「……」
ステラの倍かそれ以上に逞しい腕がしっかりと体に巻き付いて、耳元で穏やかな低音が聞こえる。呼ばれているとわかっているけれど、ステラはとてもじゃないが顔を向けることが出来なかった。
「……おい」
「あっ、~~、見ないで、ください…っ!」
けれど体格差があれば力の差も歴然なわけで、ステラは簡単に組み敷かれて見下ろされてしまう。リヴィウスの目が、ステラを見ている。そうわかっただけでステラの顔は熟したリンゴのように真っ赤に染まった。
咄嗟に両手で顔を覆うけれど、赤くなった瞬間の顔は絶対に見られている。その証拠にリヴィウスが機嫌良さそうに喉を震わせて笑っている音が聞こえるのだ。
「何をそう隠すことがある。もう俺はお前の全てを見たぞ」
「リヴィの馬鹿……!」
ステラの精一杯の悪態にリヴィウスが軽く吹き出した。心底愉快そうに笑って、徐にステラの顔を覆う手首を片手で掴んだ。「あ」という間もなく腕を引き剥がされて、どこからどう見ても上機嫌な顔に見下ろされステラの眉間には深い皺が刻まれる。
「その馬鹿に何度も抱かれたのはお前だろう」
「~~~っ! ばか!」
今度は首や肩まで赤くなった。ステラは泣きそうなくらい羞恥を感じているのに、リヴィウスはとても嬉しそうでステラの表情はますます複雑に歪む。そんなステラの心境を知ってか知らずか不意に顔が近付いた。
掠めるように唇が触れ合って、ステラは目を丸くした。もうステラから媚薬は綺麗さっぱり消えている。そんなことはリヴィウスにだってわかっているはずなのに、そんなのは関係ないとばかりに触れ合う熱に、ステラの心臓は壊れそうだった。
109
お気に入りに追加
290
あなたにおすすめの小説
社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈
めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。
しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈
記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。
しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。
異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆!
推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!
幽閉王子は最強皇子に包まれる
皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。
表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。
悪役師匠は手がかかる! 魔王城は今日もワチャワチャです
柿家猫緒
BL
――北の森にある古城には恐ろしい魔王とその手下たちが住んでいる――……なんて噂は真っ赤なウソ!
城はオンボロだけど、住んでいるのはコミュ障で美形の大魔法使いソーンと、僕ピッケを始めとした7人の弟子たちなんだから。そりゃ師匠は生活能力皆無で手がかかるし、なんやかんやあって半魔になっちゃったし、弟子たちは竜人とかエルフとかホムンクルスとか多種多様だけど、でも僕たちみんな仲よしで悪者じゃないよ。だから勇者様、討伐しないで!
これは、異世界に転生した僕が師匠を魔王にさせないために奮闘する物語。それから、居場所を失くした子どもたちがゆっくり家族になっていく日々の記録。
※ワチャワチャ幸せコメディです。全年齢向け。※師匠と弟(弟子)たちに愛され主人公。※主人公8歳~15歳まで成長するのでのんびり見守ってください。
性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
【第1章完結】悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!
梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!?
【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】
▼第2章2025年1月18日より投稿予定
▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。
▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。
君のことなんてもう知らない
ぽぽ
BL
早乙女琥珀は幼馴染の佐伯慶也に毎日のように告白しては振られてしまう。
告白をOKする素振りも見せず、軽く琥珀をあしらう慶也に憤りを覚えていた。
だがある日、琥珀は記憶喪失になってしまい、慶也の記憶を失ってしまう。
今まで自分のことをあしらってきた慶也のことを忘れて、他の人と恋を始めようとするが…
「お前なんて知らないから」
【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺
福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。
目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。
でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい…
……あれ…?
…やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ…
前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。
1万2000字前後です。
攻めのキャラがブレるし若干変態です。
無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形)
おまけ完結済み
祝福という名の厄介なモノがあるんですけど
野犬 猫兄
BL
魔導研究員のディルカには悩みがあった。
愛し愛される二人の証しとして、同じ場所に同じアザが発現するという『花祝紋』が独り身のディルカの身体にいつの間にか現れていたのだ。
それは女神の祝福とまでいわれるアザで、そんな大層なもの誰にも見せられるわけがない。
ディルカは、そんなアザがあるものだから、誰とも恋愛できずにいた。
イチャイチャ……イチャイチャしたいんですけど?!
□■
少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです!
完結しました。
応援していただきありがとうございます!
□■
第11回BL大賞では、ポイントを入れてくださった皆様、またお読みくださった皆様、どうもありがとうございましたm(__)m
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる