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第三章 東の国の大きなお風呂編

お預け、肉入り芋揚げへの道

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 打ち合わせ通り夜になりキキョウの案内のもと向かった海岸。そして出会った異常なほど大きな角と頭を持った、けれど身体は小さくアンバランスな不気味さが目立つモンスターと遭遇した。見た目の気色悪さとすばしっこさ、そしてその体からは想像が出来ないほどの怪力に苦戦するのだと、キキョウは言っていたがリヴィウスにかかれば一撃である。拳で。

「ンモオオオ⁉︎」

 悲痛な叫びを上げて一撃の拳骨の元に沈んだ牛鬼にキキョウはあんぐりと口を開けて驚き、ステラとてぷはまあ当然だよなと頷いた。完全に伸びてしまった牛鬼を一瞬で氷漬けにしたのはステラである。

「ええ⁉︎」
「鮮度保持には大事かと思いまして」
「角に縄を掛けて引っ張るか?」
「それじゃあ傷がついてしまいませんか?」
『なら風魔法で浮かせて行けばいいんだぞ』

 なるほどその手があったかと手を叩いたリヴィウスとステラを見ていたキキョウが悪夢を見ているかのように両手で頭を抱えた。

「……なんなのよあんたたち……」
「旅人、ですかね?」

 ステラはリヴィウスたちを見ながら首を傾げた。

「普通の旅人はこんなデタラメなことしないわ! ……はあ、夢を見てる気分だよ。とりあえずもうそれでいいや。一度お源さんのとこに行こう」

 溜息と一緒に呟かれた言葉にてぷはわっと声を上げた。

『これで芋揚げ食べられるのか⁉︎』
「すぐには無理だって言っただろ? 捌いたり熟成させたりって料理には手間が掛かるもんなんだよ。ほらそこの二人、あたしの後にちゃんと着いてくるんだよ」

 出会って間もないがどうやらてぷはキキョウのことが気に入ったらしく今はキキョウと手を繋いで歩いている。それに一抹の寂しさを感じながら、ステラたちは町へと戻っていった。


 ───


 牛鬼の肉は無事芋揚げ屋のお源の手元に渡った。言ったその日に物が届くとは思っていなかったらしく、氷漬けの牛鬼を持って行った時はあまりに驚きすぎて腰を抜かしてしまっていた。だが少しして復活した店主は採れたての牛鬼を見て目を輝かせていた。

「これだけありゃあいくらでも作れるぜ! でもうちだけじゃあ使い切れねえから他にも回させて貰うよ」

 一仕事終えたステラたちにはお源から感謝の芋揚げが手渡された。じゃがいもしか入っていない揚げ物だったが下味がいいのか、薄付きの衣の食感がいいのか、否その全てか。揚げたてというのも手伝って想像以上に美味しかったそれにてぷの目がきらきらと星のように輝いていた。

『普通の芋揚げでもすんごく美味しいんだぞ! これ、これ肉が入ったらもっと美味しくなるのか⁉︎』
「おうともよ! 捌いたりなんだりがあるから明日明後日じゃ食わせてやれねえけど、三日後には絶対に用意しておくからよ。それまでこのオーエドの飯と文化を楽しんどいてくれ」
『三日も掛かるのか…! でもわかったんだぞ。美味しいのは時間と手間をかけたほうが美味しくなるって、キキョウも言ってたんだぞ!』

 期待に表情を明るくしているてぷにお源の頬がデレっと緩んでいた。それを見てステラは「わかります」と深く深く頷いた。そのステラを見てリヴィウスはやれやれと首を振っていたがちゃっかり芋揚げのおかわりを要求していた。
 三日後にまた店に訪れるという約束をして、その日は解散となる予定だったが、宿に戻ろうとしたステラたちを引き止めたのはキキョウだった。
 まだ出会って一日も経っていないけれど、キキョウは常に読めない笑顔を浮かべていた気がする。けれど今ステラの前にいるのは真剣な顔をしたその人だ。

「……あんたたちに折り入って頼みがあるんだ」

 夜になって更に賑やかさが増した通りでもキキョウの声はよく聞こえた。

「一緒に調べて欲しいことがある」

 その真っ直ぐな目をステラはじっと見返した。きっと嘘はないだろうが、目的が見えないことに声を出さずにいると頭上から明るい声が聞こえた。

『いいぞ!』
「おい」
『大丈夫だぞ。キキョウは悪いヤツじゃないからな!』

 てぷの底抜けの明るい声にステラは無意識に入っていた肩の力を抜いて笑った。それにキキョウが少しだけ眉を寄せているのがわかった。きっと困惑しているのだろう。

「はい、わかりました」
「……いいのかい? どんな用件かも言っていないのに」
「てぷ様は悪い人を見抜くのがとびきり上手なので大丈夫かと」

 その言葉に今度はキキョウが肩の力を抜いて笑った。

「……末恐ろしい子供だねえ」

 キキョウの言葉にてぷは得意げに胸を張り『ふふん』と笑って見せたのだった。
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