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第三章 東の国の大きなお風呂編
いざ探そう、宿屋
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船がアズマヒの国の港に到着したのはそれから一週間後のこと。やはり絶海の孤島だけあって海路でも非常に時間が掛かる。久しぶりに揺れない土地に降り立った三人はまず思い切り体を伸ばすところから始めた。
「定期的に運動をしていてもやっぱり凝っていますね」
「海の上だしな、仕方がない」
『……なんか、なんかここ嗅いだことのない匂いがするんだぞ!』
アズマヒの国には主要な港が二つある。そもそもこの国は西と東にそれなりに大きな島が二つ分かれており、その二つを合わせてアズマヒの国と呼んでいる。ステラたちが降り立ったのは東側のオーエド領だ。
船が到着する大きな港がある町がそのままオーエド領の主要な街になっているらしく、少し離れた場所には高さがほとんど統一されている黒い瓦屋根の家が並んでいるのが見えた。
てぷの言葉を聞いてステラも大きく息を吸い込んでみるけれど、目立って慣れない匂いはしない。強いて言えば潮の匂いがするけれどもこれは港町ならば共通して漂っている香りだ。
「どんな匂いなんですか?」
気になって問いかけるとてぷはすんすんと神妙な顔つきで匂いを辿り、やがてキリッとした顔でステラを見た。
『わかんないんだぞ!』
「おい」
『だって初めての匂いだからわかんないだぞ。でもすごく香ばしいし、いい匂いだ』
いつからかてぷのことはリヴィウスが抱き上げるのが役目なったし、リヴィウスの手を握るのはステラの役目になった。今も流れるように手を繋ぐとリヴィウスも慣れた様子で握り返してくれる。
「じゃあいきましょうか。最初は泊まる場所を探しにいきましょう。もちろん、大きなお風呂がある場所を」
『おー‼︎』
弾けんばかりの笑顔を咲かせて片手を上げたてぷに笑みを浮かべ、三人は街に向かって歩き始めた。
アズマヒの国、四方を海に囲まれ、他の大陸とも距離があったため独自の文化と文明が発達した他のどの国にも似ていない個性を持った国だ。港から街に向かって歩き出すとまず最初に飛び込んできたのは独特な服を着た住人。
一枚の布から作られているらしいその衣装は一見すると動きにくそうなのに、住人の誰も彼もがしゃきしゃきと働いている様子は見ていてとても新鮮だし、街全体の活気に驚く。
石畳なので舗装された道ではないけれど、住人が踏み固めた地面は存外歩きやすい。真っ直ぐに伸びた道や、横道にそれたとしてもどこまでも見渡せるほどの真っ直ぐな道が続くこの街は賽の目状に区切られていて、どうやら大きな区画ごとに特出する部分が異なるようだった。
例えば港からやってきて一番に足を踏み入れる区画は商店と宿が混在する場所だが、宿の方が圧倒的に多い。ステラはこれは好都合とばかりに異国からの旅人を大きな声で呼び込んでいる一人の男に話しかけた。
「あの、すみません」
「はいなんでございましょ旅の方! お、もしかせずとも旅のお宿を探しておりますね? それならうち、竹取屋がおすすめですよぉ、なんてったって」
どういう原理でそうなっているのかわからに髪型に最初は目がいったけれど今は飛び出してきた矢のような言葉の数々にステラは圧倒されてしまった。そして思い出す。
(ああそうだった、この国の人たちはこうだった)
もう軽く一年ほど前になるかもしれない記憶を思い出してステラは苦笑した。そう、ここアズマヒの国の商人たちは皆一様に商魂が逞しいのだ。
さあ、いつ口を挟もうかと愛想笑いを浮かべながらタイミングを伺っていたステラの見兼ねてか、それとも好奇心が先行してか明るい声が客引きの話を遮った。
『お前のところ、ボクたち三人が一緒に入れるお風呂はあるのかっ?』
突然割って入ってきた、いかにも子供の声に客引きの男は狐のような目を見開いていたが顔を上げた先に見えた声の主と、それを抱き上げているリヴィウスを見て「おひょ」となんとも形容し難い声を上げて背筋を伸ばした。
「いやはや長々と喋り込んで申し訳ない。それで、小さな旅人さんは温泉をご所望ときた! こりゃあ本当に運がいいですよ御三方。なんとうち竹取屋はこのオーエド一のお湯を引いてる宿屋なんです!」
『本当か⁉︎』
「本当ですとも本当ですとも。あれなら一回うちに来てお風呂見てみましょ。だーいじょうぶすぐそこですから、すぐそこ。はいはいはいはい三名さま入りまーす!」
「いらっしゃいませー!」
あ、とも、う、とも言えない間にステラたちは背中を押されて宿屋「竹取屋」に足を踏み入れたのだった。
「定期的に運動をしていてもやっぱり凝っていますね」
「海の上だしな、仕方がない」
『……なんか、なんかここ嗅いだことのない匂いがするんだぞ!』
アズマヒの国には主要な港が二つある。そもそもこの国は西と東にそれなりに大きな島が二つ分かれており、その二つを合わせてアズマヒの国と呼んでいる。ステラたちが降り立ったのは東側のオーエド領だ。
船が到着する大きな港がある町がそのままオーエド領の主要な街になっているらしく、少し離れた場所には高さがほとんど統一されている黒い瓦屋根の家が並んでいるのが見えた。
てぷの言葉を聞いてステラも大きく息を吸い込んでみるけれど、目立って慣れない匂いはしない。強いて言えば潮の匂いがするけれどもこれは港町ならば共通して漂っている香りだ。
「どんな匂いなんですか?」
気になって問いかけるとてぷはすんすんと神妙な顔つきで匂いを辿り、やがてキリッとした顔でステラを見た。
『わかんないんだぞ!』
「おい」
『だって初めての匂いだからわかんないだぞ。でもすごく香ばしいし、いい匂いだ』
いつからかてぷのことはリヴィウスが抱き上げるのが役目なったし、リヴィウスの手を握るのはステラの役目になった。今も流れるように手を繋ぐとリヴィウスも慣れた様子で握り返してくれる。
「じゃあいきましょうか。最初は泊まる場所を探しにいきましょう。もちろん、大きなお風呂がある場所を」
『おー‼︎』
弾けんばかりの笑顔を咲かせて片手を上げたてぷに笑みを浮かべ、三人は街に向かって歩き始めた。
アズマヒの国、四方を海に囲まれ、他の大陸とも距離があったため独自の文化と文明が発達した他のどの国にも似ていない個性を持った国だ。港から街に向かって歩き出すとまず最初に飛び込んできたのは独特な服を着た住人。
一枚の布から作られているらしいその衣装は一見すると動きにくそうなのに、住人の誰も彼もがしゃきしゃきと働いている様子は見ていてとても新鮮だし、街全体の活気に驚く。
石畳なので舗装された道ではないけれど、住人が踏み固めた地面は存外歩きやすい。真っ直ぐに伸びた道や、横道にそれたとしてもどこまでも見渡せるほどの真っ直ぐな道が続くこの街は賽の目状に区切られていて、どうやら大きな区画ごとに特出する部分が異なるようだった。
例えば港からやってきて一番に足を踏み入れる区画は商店と宿が混在する場所だが、宿の方が圧倒的に多い。ステラはこれは好都合とばかりに異国からの旅人を大きな声で呼び込んでいる一人の男に話しかけた。
「あの、すみません」
「はいなんでございましょ旅の方! お、もしかせずとも旅のお宿を探しておりますね? それならうち、竹取屋がおすすめですよぉ、なんてったって」
どういう原理でそうなっているのかわからに髪型に最初は目がいったけれど今は飛び出してきた矢のような言葉の数々にステラは圧倒されてしまった。そして思い出す。
(ああそうだった、この国の人たちはこうだった)
もう軽く一年ほど前になるかもしれない記憶を思い出してステラは苦笑した。そう、ここアズマヒの国の商人たちは皆一様に商魂が逞しいのだ。
さあ、いつ口を挟もうかと愛想笑いを浮かべながらタイミングを伺っていたステラの見兼ねてか、それとも好奇心が先行してか明るい声が客引きの話を遮った。
『お前のところ、ボクたち三人が一緒に入れるお風呂はあるのかっ?』
突然割って入ってきた、いかにも子供の声に客引きの男は狐のような目を見開いていたが顔を上げた先に見えた声の主と、それを抱き上げているリヴィウスを見て「おひょ」となんとも形容し難い声を上げて背筋を伸ばした。
「いやはや長々と喋り込んで申し訳ない。それで、小さな旅人さんは温泉をご所望ときた! こりゃあ本当に運がいいですよ御三方。なんとうち竹取屋はこのオーエド一のお湯を引いてる宿屋なんです!」
『本当か⁉︎』
「本当ですとも本当ですとも。あれなら一回うちに来てお風呂見てみましょ。だーいじょうぶすぐそこですから、すぐそこ。はいはいはいはい三名さま入りまーす!」
「いらっしゃいませー!」
あ、とも、う、とも言えない間にステラたちは背中を押されて宿屋「竹取屋」に足を踏み入れたのだった。
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