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第二章 西の国の花の祭り編

駄目

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『ステラ、リヴィ!』

 弾むような声に二人の視線が結婚式から外れる。意識が向いた先はこちらに走ってやってくるてぷだ。

「てぷ様、おかえりなさい」
『ただいまだぞ! まだ食べ終わらないのか?』
「もう少しですよ。どうしました?」

 沢山はしゃいで来たのだろう。てぷのてっぷりとしたモチモチのほっぺは赤く染まり、呼吸も乱れて軽く肩が上下しているし額にはじわりと汗が滲んでいる。その汗を拭いながらどこかうずうずとしてる様子のてぷにステラは首を傾げる。

『良い店があったんだぞ! みんなで行きたい!』
「おいもう食い物は十分だぞ」
『食べ物じゃないんだぞ!』

 リヴィウスとてぷの興味の第一優先は食だ。だからここで落ち着くまでに三人、というよりリヴィウスとてぷは相当の屋台飯屋やご当地料理を食べている。その証拠に二人とも既に食事への興味が薄れてしまっていた。
 いつものように軽い言い合いをしている二人を横目にステラは気持ち急いで残りのパンケーキを頬張った。口内に広がる柔らかだけれどしっかりと甘さを堪能しつつ咀嚼して飲み込むと温くなった紅茶で喉を潤す。

「お待たせしました。行きましょう」
「急がなくても良かったんだぞ」
「てぷ様のお願いですから」

 席を立つとリヴィウスの「やはり甘い」と呆れを含んだ声が聞こえてきたけれどステラは聞こえない振りをすることにした。多分ステラにとってリヴィウスもてぷも甘やかさずには居れない存在なのだ。
 だからもうこれは、そう、しょうがない。しょうがないのだとステラはもういっそ開き直ることにした。

「ごちそうさまでした、美味しかったです」

 代金を支払って店員に声を掛けてから店を出て、少し離れた場所から見てもやはりうずうずそわそわしてるてぷの様子にステラは目を柔らかく細めた。

「てぷ様、どのお店ですか?」
『こっちだぞ!』

 てぷが指差したのは少しだけ露天商が連なる、祭りの賑わう大通りから少し外れた場所。人の往来は激しいけれども歩けない程ではなく走っていってしまったてぷを追うようにステラたちも少し早足に歩く。『ここだぞ!』追いついた二人を満面の笑みで待ち構えていたてぷの言う良い店に並ぶ商品のラインナップを見て、ステラは目を瞬かせた。
 そこにあったのは天然性や木材を使用したアクセサリーだ。てぷが言うのだからもっと派手でわかりやすく、子供が好きそうなものを見せてくると思っていたから正直意外だった。

『ここのは全部いいものだぞ。ボクが保証する』
「…──なるほど、確かに良い物だ」

 得意げに胸を張るてぷはまだ良いとして、リヴィウスまでもそう言ってくるのはさらに意外だった。

「お前、ここにある素材はどこから取ってきた」

 石畳の上に低い平台を置き、その上に並べられているアクセサリーの前に膝を着きその中からリヴィウスは何の加工もされていない天然石を手に取った。ステラから見たらそれら全ては等しく綺麗な商品だ。ステラには鑑定眼なんて大した代物はない。宝石とガラスと見分けも付かない程には美術品や加工品に対して造詣が深くないのだ。

「おっ、兄さんこの石の良さがわかるのかい。これはドワーフの国に行った時に手に入れた代物さ。どれもこれも俺が採掘して研磨した一級品だぜ」
「ドワーフか」

 なるほど、ともう一度呟いてリヴィウスが他の石も手に取る。その隣でてぷも楽しそうに商品を手に取って鼻歌まで歌ってしまう上機嫌だ。リヴィウスの隣に同じようにしゃがんだステラは感心したように呟く。

「……リヴィもてぷ様も、目利きがきくんですね」
「まあ、………それなりにはな」

 何かを言いかけて濁した様子にステラはなんとなく意味を察した。そもそも彼らはステラとは生きてきた年数がまるで違うのだ。その中で培われてきた教養が今発揮されているのだろう。

「そっちの兄さんはあんまりって感じだ、……こりゃ驚いた」

 露天商の店主がステラの顔を見て言葉通りの表情を浮かべて目を見開く。それにぱちぱちと瞬きをするとずいっと顔が近付いてきて、思わず距離を取ろうと身構えた瞬間目の前に大きな手が現れた。

「何の真似だ」

 すぐ側から地鳴りのような低音がして、どうやらリヴィウスが守ってくれたのだと理解する。

「ああいや申し訳ない。いやでも驚いちまって。なあ兄さん、あんたの目をもうちょっとしっかり見せてくれねえかい?」
「え、」
「駄目だ」
『駄目だぞ』

 ステラが答えるよりも先に声を揃えた二人に今度はステラが目を丸くするのだった。
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