21 / 41
第一章 北の国の美味しいもの編
甘やかし過ぎているらしい元聖女
しおりを挟む
三人はそれからもネジュノで郷土料理をいくつか楽しみ、小銭を稼ぐ為にギルドで低ランクの依頼を受けて街の治安に貢献したり、リヴィウスの防寒具を買ったりと穏やかに数日を過ごした。そうして気が付けば明日にはネジュノを旅立つ日になっていた。
長い日数世話になった宿もここまでくれば我が家に近い感覚になるが、ここも明日でお別れかと思うと少しだけ寂しい気もする。けれどその分次は別の場所に行くのだと思えばそれはそれで楽しみでもあるのだから、旅とは不思議なものだ。
ステラは白紙のページが続く本に旅の思い出を書き記しながら次の目的地の事を考えていた。このまま陸続きに海の綺麗な国に行くのもいいけれど、少し遠出して砂漠の国に行くのもいいかもしれない。ああでも他にも行ってみたい国があるなと、テーブルに肘を着き上を見ながら考えていればガチャリと浴室の扉が開く音がした。
『あつーい!』
まず飛び出てきたのはほかほかと湯気のたつてぷだ。元の姿に戻ったてぷは全身を湿らせたまま飛び回るものだからステラは椅子から離れ、ベッドに置いていた布を持って待ち構えた。
「てぷ様、どうぞ」
『わーい!』
ぽふんとタオルの中に飛び込んできたてぷをしっかりと受け止めてステラはベッドに腰掛ける。膝の上でふわふわの布に包まれたてぷは居心地良さそうにきゅるきゅると喉を鳴らし目を細めている。その無限のかわいらしさにだらしなく頬を緩めながらステラは丁寧にてぷの体に付着した水滴を拭いていく。
頭に生えた角や小さな手足はもちろん、背中のトゲや翼に至るまで少しの拭き残しもないように丁寧に拭い、最後にかつての旅の仲間に教えてもらった保湿作用のある植物のクリームを塗り込んで、入浴後のケアは完璧である。
それから少しして出てきたのはリヴィウスだ。ぽたぽたと髪から水滴を垂らしながら出てきた姿に毎度のことながらステラは溜息を吐いた。
「リヴィ、せめて軽くでいいので髪を拭いてきてください」
「お前がやるから必要ない」
「……」
『ステラが甘やかし過ぎたよね』
憐憫の目を向けてくるてぷからステラは目を逸らす他なかった。なぜならばその通りだからだ。ステラは世話焼き気質なのだ。困っている人がいたら放っておけず、ついつい世話を焼いてしまう。リヴィウスなんてその極地にいる存在だ。
体は立派でもリヴィウスは人間初心者。人間の体がいかに脆いかも理解しておらず、始めは睡眠さえ摂ろうとしていなかったのだ。そんなリヴィウスは風呂上がりに髪を乾かすだろうか? 答えは否だ。
「…? 拭かないのか」
「拭きます…」
当然だと言うようにベッドに座り、首を傾げる様子にステラは内心白旗を上げた。完敗だ。
立ち上がり新しい布でリヴィウスの頭を覆うと雪のようにも月光のようにも見える白髪を優しく拭いていく。あまり強くやってしまうと髪質のせいか切れてしまうのだ。
布で大体の水分を拭き取ると、今度はインベントリから髪に良いとされる花の油が入った瓶を取り出す。数滴程手のひらに出して馴染ませると毛先を中心に塗布していく。それも髪全体に馴染ませてから、今度は両手でリヴィウスの頭を撫でながら口の中で呪文を唱えた。
そうすると手から温風が生み出され半乾きだったリヴィウスの髪から瞬く間に水分が抜けていきいつものサラサラとした髪質になる。けれど乾かしたばかりだからか空気を含んで若干ボリュームの出た髪を手櫛で整えるとてぷに塗布したものと同じ保湿剤をリヴィウスの手のひらに乗せる。
それをきちんと顔に広げたのを見届けて、これで毎日の風呂上がりルーティンが終わる。
満足感にふんす、と頷いているステラを見てぷがしみじみ。
『甘やかしてるなぁ…』
その言葉にステラは何も言えず、そそくさと逃げるように今度は自分が浴室に向かうのだった。
長い日数世話になった宿もここまでくれば我が家に近い感覚になるが、ここも明日でお別れかと思うと少しだけ寂しい気もする。けれどその分次は別の場所に行くのだと思えばそれはそれで楽しみでもあるのだから、旅とは不思議なものだ。
ステラは白紙のページが続く本に旅の思い出を書き記しながら次の目的地の事を考えていた。このまま陸続きに海の綺麗な国に行くのもいいけれど、少し遠出して砂漠の国に行くのもいいかもしれない。ああでも他にも行ってみたい国があるなと、テーブルに肘を着き上を見ながら考えていればガチャリと浴室の扉が開く音がした。
『あつーい!』
まず飛び出てきたのはほかほかと湯気のたつてぷだ。元の姿に戻ったてぷは全身を湿らせたまま飛び回るものだからステラは椅子から離れ、ベッドに置いていた布を持って待ち構えた。
「てぷ様、どうぞ」
『わーい!』
ぽふんとタオルの中に飛び込んできたてぷをしっかりと受け止めてステラはベッドに腰掛ける。膝の上でふわふわの布に包まれたてぷは居心地良さそうにきゅるきゅると喉を鳴らし目を細めている。その無限のかわいらしさにだらしなく頬を緩めながらステラは丁寧にてぷの体に付着した水滴を拭いていく。
頭に生えた角や小さな手足はもちろん、背中のトゲや翼に至るまで少しの拭き残しもないように丁寧に拭い、最後にかつての旅の仲間に教えてもらった保湿作用のある植物のクリームを塗り込んで、入浴後のケアは完璧である。
それから少しして出てきたのはリヴィウスだ。ぽたぽたと髪から水滴を垂らしながら出てきた姿に毎度のことながらステラは溜息を吐いた。
「リヴィ、せめて軽くでいいので髪を拭いてきてください」
「お前がやるから必要ない」
「……」
『ステラが甘やかし過ぎたよね』
憐憫の目を向けてくるてぷからステラは目を逸らす他なかった。なぜならばその通りだからだ。ステラは世話焼き気質なのだ。困っている人がいたら放っておけず、ついつい世話を焼いてしまう。リヴィウスなんてその極地にいる存在だ。
体は立派でもリヴィウスは人間初心者。人間の体がいかに脆いかも理解しておらず、始めは睡眠さえ摂ろうとしていなかったのだ。そんなリヴィウスは風呂上がりに髪を乾かすだろうか? 答えは否だ。
「…? 拭かないのか」
「拭きます…」
当然だと言うようにベッドに座り、首を傾げる様子にステラは内心白旗を上げた。完敗だ。
立ち上がり新しい布でリヴィウスの頭を覆うと雪のようにも月光のようにも見える白髪を優しく拭いていく。あまり強くやってしまうと髪質のせいか切れてしまうのだ。
布で大体の水分を拭き取ると、今度はインベントリから髪に良いとされる花の油が入った瓶を取り出す。数滴程手のひらに出して馴染ませると毛先を中心に塗布していく。それも髪全体に馴染ませてから、今度は両手でリヴィウスの頭を撫でながら口の中で呪文を唱えた。
そうすると手から温風が生み出され半乾きだったリヴィウスの髪から瞬く間に水分が抜けていきいつものサラサラとした髪質になる。けれど乾かしたばかりだからか空気を含んで若干ボリュームの出た髪を手櫛で整えるとてぷに塗布したものと同じ保湿剤をリヴィウスの手のひらに乗せる。
それをきちんと顔に広げたのを見届けて、これで毎日の風呂上がりルーティンが終わる。
満足感にふんす、と頷いているステラを見てぷがしみじみ。
『甘やかしてるなぁ…』
その言葉にステラは何も言えず、そそくさと逃げるように今度は自分が浴室に向かうのだった。
69
お気に入りに追加
100
あなたにおすすめの小説
幽閉王子は最強皇子に包まれる
皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。
表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。
性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
勇者の股間触ったらエライことになった
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
勇者さんが町にやってきた。
町の人は道の両脇で壁を作って、通り過ぎる勇者さんに手を振っていた。
オレは何となく勇者さんの股間を触ってみたんだけど、なんかヤバイことになっちゃったみたい。
配信ボタン切り忘れて…苦手だった歌い手に囲われました!?お、俺は彼女が欲しいかな!!
ふわりんしず。
BL
晒し系配信者が配信ボタンを切り忘れて
素の性格がリスナー全員にバレてしまう
しかも苦手な歌い手に外堀を埋められて…
■
□
■
歌い手配信者(中身は腹黒)
×
晒し系配信者(中身は不憫系男子)
保険でR15付けてます
【BL】こんな恋、したくなかった
のらねことすていぬ
BL
【貴族×貴族。明るい人気者×暗め引っ込み思案。】
人付き合いの苦手なルース(受け)は、貴族学校に居た頃からずっと人気者のギルバート(攻め)に恋をしていた。だけど彼はきらきらと輝く人気者で、この恋心はそっと己の中で葬り去るつもりだった。
ある日、彼が成り上がりの令嬢に恋をしていると聞く。苦しい気持ちを抑えつつ、二人の恋を応援しようとするルースだが……。
※ご都合主義、ハッピーエンド
【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺
福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。
目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。
でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい…
……あれ…?
…やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ…
前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。
1万2000字前後です。
攻めのキャラがブレるし若干変態です。
無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形)
おまけ完結済み
傾国の美青年
春山ひろ
BL
僕は、ガブリエル・ローミオ二世・グランフォルド、グランフォルド公爵の嫡男7歳です。オメガの母(元王子)とアルファで公爵の父との政略結婚で生まれました。周りは「運命の番」ではないからと、美貌の父上に姦しくオメガの令嬢令息がうるさいです。僕は両親が大好きなので守って見せます!なんちゃって中世風の異世界です。設定はゆるふわ、本文中にオメガバースの説明はありません。明るい母と美貌だけど感情表現が劣化した父を持つ息子の健気な奮闘記?です。他のサイトにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる