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第一章 北の国の美味しいもの編

甘やかし過ぎているらしい元聖女

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 三人はそれからもネジュノで郷土料理をいくつか楽しみ、小銭を稼ぐ為にギルドで低ランクの依頼を受けて街の治安に貢献したり、リヴィウスの防寒具を買ったりと穏やかに数日を過ごした。そうして気が付けば明日にはネジュノを旅立つ日になっていた。

 長い日数世話になった宿もここまでくれば我が家に近い感覚になるが、ここも明日でお別れかと思うと少しだけ寂しい気もする。けれどその分次は別の場所に行くのだと思えばそれはそれで楽しみでもあるのだから、旅とは不思議なものだ。
 ステラは白紙のページが続く本に旅の思い出を書き記しながら次の目的地の事を考えていた。このまま陸続きに海の綺麗な国に行くのもいいけれど、少し遠出して砂漠の国に行くのもいいかもしれない。ああでも他にも行ってみたい国があるなと、テーブルに肘を着き上を見ながら考えていればガチャリと浴室の扉が開く音がした。

『あつーい!』

 まず飛び出てきたのはほかほかと湯気のたつてぷだ。元の姿に戻ったてぷは全身を湿らせたまま飛び回るものだからステラは椅子から離れ、ベッドに置いていた布を持って待ち構えた。

「てぷ様、どうぞ」
『わーい!』

 ぽふんとタオルの中に飛び込んできたてぷをしっかりと受け止めてステラはベッドに腰掛ける。膝の上でふわふわの布に包まれたてぷは居心地良さそうにきゅるきゅると喉を鳴らし目を細めている。その無限のかわいらしさにだらしなく頬を緩めながらステラは丁寧にてぷの体に付着した水滴を拭いていく。
 頭に生えた角や小さな手足はもちろん、背中のトゲや翼に至るまで少しの拭き残しもないように丁寧に拭い、最後にかつての旅の仲間に教えてもらった保湿作用のある植物のクリームを塗り込んで、入浴後のケアは完璧である。
 それから少しして出てきたのはリヴィウスだ。ぽたぽたと髪から水滴を垂らしながら出てきた姿に毎度のことながらステラは溜息を吐いた。

「リヴィ、せめて軽くでいいので髪を拭いてきてください」
「お前がやるから必要ない」
「……」
『ステラが甘やかし過ぎたよね』

 憐憫の目を向けてくるてぷからステラは目を逸らす他なかった。なぜならばその通りだからだ。ステラは世話焼き気質なのだ。困っている人がいたら放っておけず、ついつい世話を焼いてしまう。リヴィウスなんてその極地にいる存在だ。
 体は立派でもリヴィウスは人間初心者。人間の体がいかに脆いかも理解しておらず、始めは睡眠さえ摂ろうとしていなかったのだ。そんなリヴィウスは風呂上がりに髪を乾かすだろうか? 答えは否だ。

「…? 拭かないのか」
「拭きます…」

 当然だと言うようにベッドに座り、首を傾げる様子にステラは内心白旗を上げた。完敗だ。
 立ち上がり新しい布でリヴィウスの頭を覆うと雪のようにも月光のようにも見える白髪を優しく拭いていく。あまり強くやってしまうと髪質のせいか切れてしまうのだ。

 布で大体の水分を拭き取ると、今度はインベントリから髪に良いとされる花の油が入った瓶を取り出す。数滴程手のひらに出して馴染ませると毛先を中心に塗布していく。それも髪全体に馴染ませてから、今度は両手でリヴィウスの頭を撫でながら口の中で呪文を唱えた。
 そうすると手から温風が生み出され半乾きだったリヴィウスの髪から瞬く間に水分が抜けていきいつものサラサラとした髪質になる。けれど乾かしたばかりだからか空気を含んで若干ボリュームの出た髪を手櫛で整えるとてぷに塗布したものと同じ保湿剤をリヴィウスの手のひらに乗せる。

 それをきちんと顔に広げたのを見届けて、これで毎日の風呂上がりルーティンが終わる。
 満足感にふんす、と頷いているステラを見てぷがしみじみ。

『甘やかしてるなぁ…』

 その言葉にステラは何も言えず、そそくさと逃げるように今度は自分が浴室に向かうのだった。
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