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第一章 北の国の美味しいもの編

更生!もぐらブラザーズ!

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 ふよふよと浮いているてぷの手からハンマーが消え去り、そしていつの間にかリヴィウスの出していた炎も消えていた。急に暗くなったことでステラの視界には二人のシルエットくらいしかわからないが、声はしっかりと聞こえる。

「…何がどう駄目なんだ。こいつらは不必要な物だろう」
『ボクもこのヒトの子がいるのかいらないのかはよくわかんないけど、でも消したらステラが悲しむからダメ』
「…どうしてあいつが悲しむ。辟易している様子だったぞ」
『それでもさあ』

 ようやく暗闇に目が慣れ始め、月明かりの中で話すリヴィウスたちの姿を見る。

『ヒトは悲しむんだよ。自分とは全然関係ないヒトなのに、死んじゃうと悲しむんだ。だからダメ』

 再び静寂が訪れた。リヴィウスの髪と同じ色をした雪が舞い落ちて地面に積もっていく。

「……そういうものなのか」
『ボクにはわかんないよ。でもステラは僕たちのケンカにだって手加減しろって言う。だから消しちゃうのは多分ダメだ』

 てぷの高くてそして不思議と反響しているような複雑な響きをした声にリヴィウスは口を閉ざした。そしてゆっくりと、その視線がステラの方に向く。

「…こいつらが消えるのは悲しいのか」

 月明かりの中ではよくわからないが、それでも今リヴィウスの目が迷子のように揺れているのはなんとなくわかった。

「……悲しいとは思いません。けれど後味は悪いと思うし、何よりあなたを止めなかった自分を責めるでしょう」
「…責を負いたくないからか」
「いえ、あなたに必要のない行動をさせてしまったことに対してです」
「……人間はわからない。煩わしいものが多すぎる」
「それが人間なのだと思います」

 眉を下げて笑うステラが見えているのかリヴィウスは何も言わずに失神しているもぐらブラザーズの側から離れてステラの隣に戻る。人間に近付いているからといって、リヴィウスの体力や魔力は一般的な人間を遥かに凌駕する。その彼が見るからに疲弊している様子に思わず顔を覗き込むと視線が絡まった。

「…リヴィ?」
「……宿に戻りたい。あれをどうにかしろ」

 指差されたのは極寒の地に放り置かれているもぐらブラザーズの姿。ああ確かにこのままだと大変だとステラは小走りで近寄り伸びている二人の介抱を始めた。外傷はなくただ恐怖によって失神しただけだから数時間もしないうちに目を覚ますだろう。
 さて、後はどうしようかと思考したステラの後ろではてぷとリヴィウスが佇んでいた。

『あはは、お前のそんな顔初めて見た。やっぱりお前人間っぽくなってるぞ』
「…体だけかと思ったが、嗚呼、面倒だ」
『いいじゃん』

 てぷの喉からきゅるきゅると獣と似たような音がする。

『今の方が楽しそうだぞ、リヴィ』


 ───


 後日三人は再びレストランに顔を出していた。
 その日は以前と打って変わって店内は人で溢れており、どこかしこから賑やかな声が飛び交っている。そのあまりの代わりようにリヴィウスもてぷも目を丸くしていた。

「おー! 来てくれたか兄ちゃんたち!」
「店主さん、野菜は無事でしたか?」
「大丈夫だ! まさかあいつらもぐらに食わすんじゃなく売り捌くために野菜を盗んでたとはなぁ。 まあそのおかげで野菜に傷もねえし、こうしてすぐに商売が出来てんだけどよ!」

 店主が上機嫌に腹を叩くと忙しなく料理を運ぶ一人の男性がこちらを見て「ひい!」と声を上げた。「おいどうしたんだ兄弟、ひい!」厨房から出てきた男性もこちらを見て悲鳴を上げた。リヴィウスは片眉を上げて不思議そうにしていたが店主がカッと目を見開いた。

「くぉらもぐらブラザース! シャッキリ仕事しろ!」
「ヒィイ!」

 震え上がった二人は悲鳴を上げて仕事に戻り、それからは不慣れながらもきびきびと仕事をしているようだった。

『え、ここで働いてるの?』

 てぷの問いにステラは頷く。

「雇っていただけるように店主さんにお願いしたんです」
『どうして?』
「彼らに必要だったのはお説教ではなく居場所なんだろうなと思いまして」
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