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第二章 ヒノデの国(下)

干渉

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 マルルゥが訪れた理由は大きく分けて三つ。
 一つはヒノデの国へハンターギルドを作るための調査とハンターという職を理解して貰う普及活動。二つは出現したS級の魔物の調査。最後はアルフレッド及び数名のハンターランク昇格の通達。
 既に魔物の調査を粗方終えたらしいギルド側が詳細な情報をラファエル達に聞かずともその功績を称えようという意見で合致したらしい。因みに昇格したのはアルフレッドとオヅラとマヅラだ。ラファエルとタリヤは除外された訳ではなく辞退した形になる。

「おまえ、おまえ、Sクラスだぞ…⁉︎それを辞退とか、おまえ⁉︎」

 辞退するといった時のオヅラの顔はそれは面白く、しばらくはそれを思い出しただけで笑えるほどおかしな顔だった。

「すごく名誉なことなんだけどね、僕一応貴族だからこれ以上ハンターとして名を上げるわけにはちょっといかなくて」
「貴族ぅ⁉︎」

 目玉が飛び出そうな程驚いている三人にからからと笑い、マルルゥはそれならしょうがないと納得してくれた。

「…オレもちょっとBから上がるわけにはいかねえっす。使いもんにならねえって判断させて城から逃げ出した身なんで」
「だろうな。お前程の魔術師を国が放っておくわけがねえ」
「そうなのよー。うちのタリヤちゃんすんごく有能なのにお城勤めが嫌すぎて合法的に逃げ出しちゃってるのよねえ。だからあんた達も今回のこと他言無用でお願いね」
「マジで城行きだけは勘弁なんでお願いします!あんな閉鎖的な環境絶対嫌っす。オレはオヅラさん達と冒険してたいんすよー」

 各々の事情がありアルフレッドはSクラスに、オヅラとマヅラはAクラスに昇格となった。

「はいそれじゃあ記念撮影しますよ皆さん寄ってくださーい」

 そうして魔術で出来たカメラのような道具を構えたマルルゥの言葉にアルフレッドはあからさまに嫌そうな顔をした。

「用途は」
「Sクラスハンター誕生の新聞を作ります。あとはこの国にもギルドができますよという広報も兼ねて」
「じゃあ顔載せなくていいだろ」
「何言ってるんですか!一番重要ですよ!さあさあ皆さん寄って!」
「僕はやめとくね」
「はい、ラファエルさんは絶対ダメです。でも表に出さないものも撮りましょう。素敵な思い出になると思います」

 渋るアルフレッドをマヅラが勢いで押して広報用のものにはアルフレッドとオヅラとマヅラが。思い出用のものには五人で写って、それは後日ギルドに来た時に渡すとのことだった。
 それから戦った龍についてマルルゥからの質問に全て答えていき、気がつくとそれなりの時間が経っていた。Sクラスのハンターが生ける伝説のような風潮があるようにS級の魔物も御伽噺で出てくる存在と周囲は認識しているからだ。

「ふんふん、なるほど。骨とか見せて頂きましたけど、確かにかなり大きかったみたいですね。それに加えて天候まで操るとなると住民の皆さんが魔物を神と崇めていたのもわかる気がします」
「まあアタシ達ヒノデの民はあれが神様だって教わって生きて来たのもあると思うわ。けど実在するなんて思わなかったし、目の前にしたらただおっかないだけだったけど」
「住民の方は神の祟りとかお怒りとか、そんな風に気にしている方々が多いようでしたがマヅラさん達は気にならなかったんですか?」
「マロンな。……そうねえ、そりゃあちょっとは引っ掛かったけどでもアタシも兄貴も魔物の存在は知っていたし、どんだけデカくてとんでもない力を使ったとしてもやっぱりアイツはバケモノよ。牙を剥いて来るならぶん殴らなきゃ」
「そこのバカが単騎で突っ込もうとしたから余計になぁ」

 親指で指されたラファエルは思わず苦笑した。

「あはは。でもまあ、みんなのおかげで倒せたし」
「相変わらずですねえラファエルさん。…魔物との戦闘が終わった後住民の皆さんと一悶着あったと伺ったんですが、もう大丈夫なんですか?私達も一応警戒されるべき外の国の住人ですが、ここに来るまで特に敵意というものは感じなくて」

 ああ、とタリヤを除く四人が心当たりがあるのか頷いてオヅラが呆れたような、けれどどこか嬉しそうな表情で口を開いた。

「…女ってのはどこの国でも強えってことだわな」
「ホントそうよねえ」
「あ、オレが寝てる間に登場したかっけえおばちゃんとお姉さんっすか?」
「ええ、もう縦横無尽の大活躍よ。アタシ達が寝てる間にまだ納得いってない男達を黙らせてチャキチャキ段取りしてまだ三日しか経ってないのに今日祭りをやるってんだから」

 海岸に置いたままだった龍の死骸はその日のうちに処理されたらしく今日はその首を祀って「龍神祭」を行うことになっていた。
 そして近日中にはそれを安置する神社も建造してきちんと神として祀るらしい。

「町上げて弔うんだから文句ないだろって、本当強いわ」
「すげえ、肝が据わってるんすね」
「その準備でテメエらに構ってられねえってのはあったと思うぜ。なんせヒノデの祭りは派手だからよ、準備で今頃てんてこ舞いだ」

 耳を澄ませば外から金槌で釘を打つ音や大きく指示を出す声、たまに子供の賑やかな声も聞こえてき”五人は表情を緩めた。住人全員がそれで納得しているわけではないと分かってはいるが、この暮らしを守ることが出来たのだなとようやく実感が湧いてきて胸の内が暖かくなる。

「──皆さん、お疲れ様でした」

 マルルゥが柔らかな声で告げる。それにそれぞれが笑ったり鼻を鳴らしたりと違った反応をしつつも皆表情は満足げだった。
 祭りが始まるのは今日の夕方。それまで各々ゆったりと時間を過ごした。


 △▼△


 上も下も広さもわからない真っ白な空間にぽかりと開いた大きな穴。
 そこには柔らかな顔をして笑う青年が映し出されていて、それを見下ろすように見ていた赤髪の大男はふん、と鼻を鳴らした。

「…相変わらず考え込んでんなあ、コイツ。もっと気楽に生きりゃあいいもんを」

 自身が気まぐれで加護を授けた青年は確かに好きなように生きているようだが何故だか生前よりも息苦しそうに見えた。それが自称神にはわからず何度も首を傾げたものだ。
 健康な身体に愛の溢れる家庭、頼りになる幼馴染におまけに死に辛くなるような加護まで授けてやったのにこの青年が心から楽しそうにしていたのは最初の頃だけ。
 それ以降は魂が陰ってしまって加護を授けたことを後悔した日もあったが、ここに来てどうやら持ち直して来たらしい。

「…まあこれからか。精々楽しめよ」

 再び輝きを取り戻しつつある魂に目を細め、神は錫杖で空間を軽く叩いて穴を閉じた。
 さて、一応神らしい仕事もするかと今度は何もない空間に球体を浮かばせた時だった。

「──…なんだ…」

 例えるなら張り詰めた糸を風が撫でたような、そんな違和感。
 正体を探ろうかと思ったが神は何もしなかった。

「……干渉か。まあ見逃してやろう、俺は気紛れで我儘だからな」

 少し意識を研ぎ澄ませると「それ」がなんなのかは大凡見当が付く。けれど神は何もしない。何故なら少し面白そうだと思ったからだ。

「楽しめ  」

 自身が消した青年の名前をこぼし、神は上機嫌に笑った。
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