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始まり
神様の我儘と全ての始まり
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神様ってのはな、案外我儘だ。好き嫌いがはっきりしていて、好きな奴には相応のことをしてやりたくなる。
それはお前たち人間でも同じだろう?
だから、俺は個人的に気に入っているお前にお節介を焼くことにした。なに心配することはない。ただ、成りかわるだけさ。
お前が欲しくて堪らなかった身体に。
海の底から海面へと浮上するような感覚で目が覚めた。ばちりと両の目を開け勢いのまま身体を起こして、そして違和感に瞬きを繰り返す。
慢性的に感じていた身体的な疲労感を感じず、思いのまま身体を起こせたことに夢でも見ているのだろうかと未だイマイチすっきりとしない頭で考えた。
目覚める間際に聞こえた声がいやに頭に残っていて思わず首を傾げ、そこで再び違和感に目を瞬かせた。視界の端に映る陽光を浴びて宝石のように輝く金。さらさらと流れるそれはどう見ても髪の毛で、思わず手を伸ばす。
「いた、」
思いがけず強い力で引っ張ってしまった。反射的に出た声とやけにリアルな痛みにますます首を傾げる。けれど自分の髪は黒髪で、それもこんなに長くない。だからこれはきっと夢だと頷いた。夢は幾度となく見てきたけれど、こんなにまでリアルなものは見たことが無い。まるで現実のようだと意のままに動く目で辺りを見渡した。
西洋風の家具にやけに広い部屋、今いるベッドもキングサイズなんじゃないかと疑うほどに大きくて天蓋まで付いていた。すん、と匂いを嗅ぐと仄かに花の香りがする。その道を辿るかのように香りの先へと顔を動かせば、見えたのは黄色い花。薔薇のようで、けれどそうじゃない。見たことのない花だった。
本当に現実みたいな夢だ。そう思いながら徐にベッドから起き上がる。夢の中でならいつだって思うように体を動かすことができた。今だってそう、だからこれは夢なんだと結論付けて柔らかな絨毯の上に足を下ろした。
目的地はあの黄色い花。ふわりふわりとまるで羽が生えているかのような軽い足取りでその側まで歩いていく。触れる距離にまで近づいて手を伸ばし、触れる。瑞々しい柔らかさとほんのりと冷たい花弁、微かに香る甘い匂いに自然と口角が上がった。
匂いまでリアルだ。始めは違和感を感じていたがここまで目に見えるもの触れるものが生々しいと逆に面白くなってきたのか笑みは深まる。花から視線を外して今一度室内をぐるりと見渡し、光を反射する大きな鏡を見つけてそして目を見開いた。
肩よりも少し伸びた、光を集めたかのような煌めく金の髪に雪のような白い肌。透き通るような青い瞳は大きくて、どこか甘さを含んでいる。鼻も口も神様からプレゼントされたかのような完璧な配置で、完成された美が、そこに映し出されていた。
「……綺麗な人」
吸い寄せられるように鏡に近づき、ぺたりと鏡面に触れる。
発せられる声は男のそれで、よく見れば喉仏だってある。男とも女ともつかない見た目だったが、どうやらこの人は男性らしい。どうして自分の意識がこの人の中に入っているのかわからないが、そんなことは考えても仕方のないことだ。なぜならこれは夢なのだから。
「けど痩せすぎ、というか筋肉ないな。もっと鍛えたらいいのに、これじゃ女の子と間違われるでしょ」
鏡の前で一度全身を見てみる。シルクのような肌触りの寝間着に包まれた体はどこからどう見ても貧弱で、華奢とはまた違うなと思考しながら袖をまくってみる。
すると現れたのはあまりにも頼りない細腕で、思わず眉を顰めた。見た目だけで言えば自分とそう変わりない年齢に見えるし体もこんなにも元気なのにどうしてこんなにも自分の腕と似ているのだろう。
もっと運動すればいいのに、勿体無い。
唇を尖らせてそんなことを思いながらまじまじとまるで枝のような腕を見ていた時、背後でがちゃりと扉の開く音がした。鏡越しに扉から入ってきた人物と目が合う、その瞬間その人物は目をこれでもかというくらいに大きく開いた。
それはお前たち人間でも同じだろう?
だから、俺は個人的に気に入っているお前にお節介を焼くことにした。なに心配することはない。ただ、成りかわるだけさ。
お前が欲しくて堪らなかった身体に。
海の底から海面へと浮上するような感覚で目が覚めた。ばちりと両の目を開け勢いのまま身体を起こして、そして違和感に瞬きを繰り返す。
慢性的に感じていた身体的な疲労感を感じず、思いのまま身体を起こせたことに夢でも見ているのだろうかと未だイマイチすっきりとしない頭で考えた。
目覚める間際に聞こえた声がいやに頭に残っていて思わず首を傾げ、そこで再び違和感に目を瞬かせた。視界の端に映る陽光を浴びて宝石のように輝く金。さらさらと流れるそれはどう見ても髪の毛で、思わず手を伸ばす。
「いた、」
思いがけず強い力で引っ張ってしまった。反射的に出た声とやけにリアルな痛みにますます首を傾げる。けれど自分の髪は黒髪で、それもこんなに長くない。だからこれはきっと夢だと頷いた。夢は幾度となく見てきたけれど、こんなにまでリアルなものは見たことが無い。まるで現実のようだと意のままに動く目で辺りを見渡した。
西洋風の家具にやけに広い部屋、今いるベッドもキングサイズなんじゃないかと疑うほどに大きくて天蓋まで付いていた。すん、と匂いを嗅ぐと仄かに花の香りがする。その道を辿るかのように香りの先へと顔を動かせば、見えたのは黄色い花。薔薇のようで、けれどそうじゃない。見たことのない花だった。
本当に現実みたいな夢だ。そう思いながら徐にベッドから起き上がる。夢の中でならいつだって思うように体を動かすことができた。今だってそう、だからこれは夢なんだと結論付けて柔らかな絨毯の上に足を下ろした。
目的地はあの黄色い花。ふわりふわりとまるで羽が生えているかのような軽い足取りでその側まで歩いていく。触れる距離にまで近づいて手を伸ばし、触れる。瑞々しい柔らかさとほんのりと冷たい花弁、微かに香る甘い匂いに自然と口角が上がった。
匂いまでリアルだ。始めは違和感を感じていたがここまで目に見えるもの触れるものが生々しいと逆に面白くなってきたのか笑みは深まる。花から視線を外して今一度室内をぐるりと見渡し、光を反射する大きな鏡を見つけてそして目を見開いた。
肩よりも少し伸びた、光を集めたかのような煌めく金の髪に雪のような白い肌。透き通るような青い瞳は大きくて、どこか甘さを含んでいる。鼻も口も神様からプレゼントされたかのような完璧な配置で、完成された美が、そこに映し出されていた。
「……綺麗な人」
吸い寄せられるように鏡に近づき、ぺたりと鏡面に触れる。
発せられる声は男のそれで、よく見れば喉仏だってある。男とも女ともつかない見た目だったが、どうやらこの人は男性らしい。どうして自分の意識がこの人の中に入っているのかわからないが、そんなことは考えても仕方のないことだ。なぜならこれは夢なのだから。
「けど痩せすぎ、というか筋肉ないな。もっと鍛えたらいいのに、これじゃ女の子と間違われるでしょ」
鏡の前で一度全身を見てみる。シルクのような肌触りの寝間着に包まれた体はどこからどう見ても貧弱で、華奢とはまた違うなと思考しながら袖をまくってみる。
すると現れたのはあまりにも頼りない細腕で、思わず眉を顰めた。見た目だけで言えば自分とそう変わりない年齢に見えるし体もこんなにも元気なのにどうしてこんなにも自分の腕と似ているのだろう。
もっと運動すればいいのに、勿体無い。
唇を尖らせてそんなことを思いながらまじまじとまるで枝のような腕を見ていた時、背後でがちゃりと扉の開く音がした。鏡越しに扉から入ってきた人物と目が合う、その瞬間その人物は目をこれでもかというくらいに大きく開いた。
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