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三.教えてケローッ!
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「あのーう」
背後からの声に振り向いた――で、私は息を飲む。そこにいたのは八重樫アナだった。
「どうかなさいましたか? なにかトラブルでも……」
「ちょうどよかった」
不思議そうに首を傾げる八重樫アナも素敵だ。落ち着きのあるスーツに少しタイトなスカートも似合っていてよろしい。ロケのときは動きやすいパンツ姿が多いが、こういう落ち着いたファッションもまたいい。
「えっと、どちら様でしたでしょうか」
「申し遅れました。私、こういう者です」華麗に名刺を差しだし、「地域発展企画ワーキング委員会会長の、葦原瑞海と申します」と、『会長』の部分をアクセントで強調した。
「多雨野の町役場の方ですか」
「ええ、ぜひ『教えてケローッ』の取材できていただきたいと思いまして」
「まあ、『教えてケローッ』で、ですか」
円らな目を輝かせ、八重樫アナが嬉しそうに両手を合わせた。
「ええ、『教えてケローッ』で」
断固たる覚悟を表情に漲らせ、強く頷いた。体中から『きて欲しいオーラ』出ろ、と強く念じる。コミュニケーションとは想いを相手に伝えることからはじまるのだ。
「あのう……八重樫さん、大丈夫ですか」
「大丈夫ですよ。ちょっと場所借りますね」
訝しむ受付嬢の声に笑顔で答えると、八重樫アナは私を来客スペースへと誘った。
そこで受けたいくつかの質問に、私は堂々と答えた。やはり八重樫アナも自分のコーナーには思い入れがあるようで、表情や口調から熱意がはっきりと伝わってくる。こちらも全力で多雨野の現状と、あか推の重要性を説きまくった。それをどうしてもテレビで世に伝えたいのだと。
「わかりました。ディレクターにはわたしから話しておきます。すぐに伺うとまでお約束できませんが、前向きに検討しますね」
「……話は変わりますけど、私の趣味は映画のDVD鑑賞なんですよ。やっぱりむかしの映画には名作が多いですよねえ。個人的には『ショーシャンクの空に』が大好きなんです」
「はぁ」
すっげえ、キョトンとされた。
「いや、余談でした。では、連絡をお持ちしております」
雑誌のモテる男特集で目にした――好きな映画に『ショーシャンクの空に』を挙げると知的にみられて好印象――という記事の真偽を確かめようとしたが、とくに効果は見受けられなかった。それでも古い名画を挙げるのが知的だとは思う。ダスティン・ホフマンの『卒業』のほうが女子のハートをくすぐれるだろうか。継続調査が必要だ――。
そんなこんなで今日の撮影に至った。これは多雨野繁栄の第一歩だ。私たちは歴史が変わる瞬間に立ち合おうとしている。
とにもかくにも私のお手柄だ。なにしろロケ隊を連れてきたのだから。
これは銅像が建つな。確実に。コンビニの駐車場を全部潰してそこに巨大な銅像を作るのはどうだ。観光名所にもなり一石二鳥ではないか。ついでにちょっといい椅子を町長にねだってみよう。やはりクルクルッて回転する椅子が欲しい。いまならいけるのではないか。
駅前で撮影すれば自然とコンビニが映る。バカヤスにとってもいい思い出になるだろう。なにせ、ゆくゆくはこの駐車場を潰して私の銅像が建つのだ。
いや、やっぱりダチョウを放し飼いするほうが話題性もあってよいのだろうか――悩ましいことだ。
背後からの声に振り向いた――で、私は息を飲む。そこにいたのは八重樫アナだった。
「どうかなさいましたか? なにかトラブルでも……」
「ちょうどよかった」
不思議そうに首を傾げる八重樫アナも素敵だ。落ち着きのあるスーツに少しタイトなスカートも似合っていてよろしい。ロケのときは動きやすいパンツ姿が多いが、こういう落ち着いたファッションもまたいい。
「えっと、どちら様でしたでしょうか」
「申し遅れました。私、こういう者です」華麗に名刺を差しだし、「地域発展企画ワーキング委員会会長の、葦原瑞海と申します」と、『会長』の部分をアクセントで強調した。
「多雨野の町役場の方ですか」
「ええ、ぜひ『教えてケローッ』の取材できていただきたいと思いまして」
「まあ、『教えてケローッ』で、ですか」
円らな目を輝かせ、八重樫アナが嬉しそうに両手を合わせた。
「ええ、『教えてケローッ』で」
断固たる覚悟を表情に漲らせ、強く頷いた。体中から『きて欲しいオーラ』出ろ、と強く念じる。コミュニケーションとは想いを相手に伝えることからはじまるのだ。
「あのう……八重樫さん、大丈夫ですか」
「大丈夫ですよ。ちょっと場所借りますね」
訝しむ受付嬢の声に笑顔で答えると、八重樫アナは私を来客スペースへと誘った。
そこで受けたいくつかの質問に、私は堂々と答えた。やはり八重樫アナも自分のコーナーには思い入れがあるようで、表情や口調から熱意がはっきりと伝わってくる。こちらも全力で多雨野の現状と、あか推の重要性を説きまくった。それをどうしてもテレビで世に伝えたいのだと。
「わかりました。ディレクターにはわたしから話しておきます。すぐに伺うとまでお約束できませんが、前向きに検討しますね」
「……話は変わりますけど、私の趣味は映画のDVD鑑賞なんですよ。やっぱりむかしの映画には名作が多いですよねえ。個人的には『ショーシャンクの空に』が大好きなんです」
「はぁ」
すっげえ、キョトンとされた。
「いや、余談でした。では、連絡をお持ちしております」
雑誌のモテる男特集で目にした――好きな映画に『ショーシャンクの空に』を挙げると知的にみられて好印象――という記事の真偽を確かめようとしたが、とくに効果は見受けられなかった。それでも古い名画を挙げるのが知的だとは思う。ダスティン・ホフマンの『卒業』のほうが女子のハートをくすぐれるだろうか。継続調査が必要だ――。
そんなこんなで今日の撮影に至った。これは多雨野繁栄の第一歩だ。私たちは歴史が変わる瞬間に立ち合おうとしている。
とにもかくにも私のお手柄だ。なにしろロケ隊を連れてきたのだから。
これは銅像が建つな。確実に。コンビニの駐車場を全部潰してそこに巨大な銅像を作るのはどうだ。観光名所にもなり一石二鳥ではないか。ついでにちょっといい椅子を町長にねだってみよう。やはりクルクルッて回転する椅子が欲しい。いまならいけるのではないか。
駅前で撮影すれば自然とコンビニが映る。バカヤスにとってもいい思い出になるだろう。なにせ、ゆくゆくはこの駐車場を潰して私の銅像が建つのだ。
いや、やっぱりダチョウを放し飼いするほうが話題性もあってよいのだろうか――悩ましいことだ。
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