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二.十二年合戦
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「マジかあ。ほれ、高校でおなじクラスだっただろうが」
なんのヒントにもならん。小学校も中学校も高校も、全部一クラスしかなかった。しかし、同級生であることは間違いなさそうだ。面長で福耳で顎に大きなホクロがある。ホクロ、ホクロ……そうだ、思い出した。
「バカヤスか?」
「バカヤスじゃねえ、貴康だろうが。そう呼ぶのはおめえとコータローだけだぞ」山川酒店のドラ息子が顔をしかめた。
「たしかにひでえ呼び方だな」
久慈さんがカウンターにスポーツ新聞と煙草を置くと、バカヤスはレジに戻ってバーコードをピッピと鳴らした。
「ところで、なんで久慈さんがこいつと一緒にいるんです?」
「ああ。実は瑞海がなあ、役場で一緒に働くことんなった」
「うそぉ」と呻くバカヤスは無遠慮な眼差しを私に投げ、なんどか首を振った。
「まあ、賑やかにはなりそうだからいいけどな。みんなにも言っとくわ……しかし、変わらんなあ、おめぇ」
「おまえはすこぶる様相が変わったな。ハゲちらかってるから、最初は誰かわからなかった。二十代とは思えぬオッサン加減だ。びっくりする」
「これぞ我が生き様の証よ」なぜか腕を組んでドヤ顔のコンビニ店長。
「同級生で積もる話もあるだろ。外で待ってるわ」
真新しい煙草のフィルムを破りながら久慈さんが店を出た。
「八年ぶりだな。あっちの生活はどうだった」
「有意義だった。ありとあらゆるものを身につけ帰ってきたぞ」
「例えば?」
「関東学生プロレス連盟の総合チャンプになった」
「マジか? むかしからプロレス好きだったもんな。やっぱ、リングネームとかあるのか」
「DBマスク・セカンドシーズンだ。アルファベットの『ディー』と『ビー』だ」
「……もしかしてドラゴンボールか? 豚がパンティおくれっていうやつか?」
へへへ、と得意げに笑うバカヤスを見て、改めて眼鏡美女の前で言わなくてよかったと強く思った。
「たわけ、もっと深い意味があるわ」
「そもそもセカンドシーズンってなんだ? そのDBマスクにはファーストシーズンがあるのか?」
「なんか、セカンドシーズンってすっごく響きがいいってか語感がいいだろう。海外の人気ドラマでもなんちゃらシーズンとかいうと超カッコいいだろ? ただ、サードシーズンぐらいになるとマンネリ感がでがちなんだよな。でも、マンネリを嫌って一話目か二話目でシーズンワンからのレギュラーをいきなり殺しちゃったりすると、なんかこっちは興ざめするよな。だからセカンドシーズンだ。ところで、いつダチョウを放し飼いにするつもりだ」
「も、なに言ってんだかわかんねえよ、おめぇは。でも、帰ってくるならあらかじめ知らせろよ、水くせぇ」
「素敵なニュースはちょっとしたサプライズでより華やかになるんだ」
「まあ、いいけどな。ほらよ」
レジ横からホットの缶コーヒーを取りだし放ってよこした。
「奢りだ。なんにせよ、帰ってきたんだな。よかったよ」
「もらっておく。ところで、ハゲヤスとバカヤス、どっちがいい?」
「もう、バカヤスでいいよ。とっとと帰れ、ボケウミ」
手を振って店をでると一陣の風が傍らを舞った。コーヒーはブラックだった。普段は飲まないが、ひとの好意は受けとるものだ。
煙草を燻らせる久慈さんの横でプルトップを開け、ひと口含む。
「苦っ」
堪らず「うへぇ」と唸った。
「お子さまかっ」久慈さんが笑った。
なんのヒントにもならん。小学校も中学校も高校も、全部一クラスしかなかった。しかし、同級生であることは間違いなさそうだ。面長で福耳で顎に大きなホクロがある。ホクロ、ホクロ……そうだ、思い出した。
「バカヤスか?」
「バカヤスじゃねえ、貴康だろうが。そう呼ぶのはおめえとコータローだけだぞ」山川酒店のドラ息子が顔をしかめた。
「たしかにひでえ呼び方だな」
久慈さんがカウンターにスポーツ新聞と煙草を置くと、バカヤスはレジに戻ってバーコードをピッピと鳴らした。
「ところで、なんで久慈さんがこいつと一緒にいるんです?」
「ああ。実は瑞海がなあ、役場で一緒に働くことんなった」
「うそぉ」と呻くバカヤスは無遠慮な眼差しを私に投げ、なんどか首を振った。
「まあ、賑やかにはなりそうだからいいけどな。みんなにも言っとくわ……しかし、変わらんなあ、おめぇ」
「おまえはすこぶる様相が変わったな。ハゲちらかってるから、最初は誰かわからなかった。二十代とは思えぬオッサン加減だ。びっくりする」
「これぞ我が生き様の証よ」なぜか腕を組んでドヤ顔のコンビニ店長。
「同級生で積もる話もあるだろ。外で待ってるわ」
真新しい煙草のフィルムを破りながら久慈さんが店を出た。
「八年ぶりだな。あっちの生活はどうだった」
「有意義だった。ありとあらゆるものを身につけ帰ってきたぞ」
「例えば?」
「関東学生プロレス連盟の総合チャンプになった」
「マジか? むかしからプロレス好きだったもんな。やっぱ、リングネームとかあるのか」
「DBマスク・セカンドシーズンだ。アルファベットの『ディー』と『ビー』だ」
「……もしかしてドラゴンボールか? 豚がパンティおくれっていうやつか?」
へへへ、と得意げに笑うバカヤスを見て、改めて眼鏡美女の前で言わなくてよかったと強く思った。
「たわけ、もっと深い意味があるわ」
「そもそもセカンドシーズンってなんだ? そのDBマスクにはファーストシーズンがあるのか?」
「なんか、セカンドシーズンってすっごく響きがいいってか語感がいいだろう。海外の人気ドラマでもなんちゃらシーズンとかいうと超カッコいいだろ? ただ、サードシーズンぐらいになるとマンネリ感がでがちなんだよな。でも、マンネリを嫌って一話目か二話目でシーズンワンからのレギュラーをいきなり殺しちゃったりすると、なんかこっちは興ざめするよな。だからセカンドシーズンだ。ところで、いつダチョウを放し飼いにするつもりだ」
「も、なに言ってんだかわかんねえよ、おめぇは。でも、帰ってくるならあらかじめ知らせろよ、水くせぇ」
「素敵なニュースはちょっとしたサプライズでより華やかになるんだ」
「まあ、いいけどな。ほらよ」
レジ横からホットの缶コーヒーを取りだし放ってよこした。
「奢りだ。なんにせよ、帰ってきたんだな。よかったよ」
「もらっておく。ところで、ハゲヤスとバカヤス、どっちがいい?」
「もう、バカヤスでいいよ。とっとと帰れ、ボケウミ」
手を振って店をでると一陣の風が傍らを舞った。コーヒーはブラックだった。普段は飲まないが、ひとの好意は受けとるものだ。
煙草を燻らせる久慈さんの横でプルトップを開け、ひと口含む。
「苦っ」
堪らず「うへぇ」と唸った。
「お子さまかっ」久慈さんが笑った。
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