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プロローグ
待望の我が子を出産しました
しおりを挟む産まれて18年。
怪我一つせず育ち痛みを経験してこなかった私にとって、「出産」という大舞台は過酷なものだった。
丸2日も陣痛で苦しみ、いざ出産となるも今度は赤子の頭が出てこないという。……って話を、うっすらとした意識の中で耳にしていた。
まるでそれは、深海に居るような気分だった。
どこまでも苦しく、なにも見えてこない。
ここで私の人生が終わるんだ。我が子の顔も見れず。そう、何度思ったかわからない。
とにかく、痛みで全身が砕けそうなの。
生まれてきてから今まで、ずっとしていたはずの息の仕方がわからない。声を出そうとすると、そこからは別の何かが出てくるだけ。ああ、きっと私の顔は吐瀉物まみれになっていることでしょう。嫌だわ。これでも、王太子妃なのに。
こんなところを夫であるヴァレリー様に見られなくて良かったわね。そう思った時だった。
「う、産まれました! 女の子です! ああ、可愛らしい。なんて可愛らしい子なの。お嬢様、よく頑張りましたね」
隣でずっと手を握ってくれていた専属メイドのサフランが、うわずった声を出す。
でも、私はそれを半分も聞けていなかった。
「ああ……。ねえ、抱きたいわ。抱いて、ヴァレリー様にお見せしたい」
それよりも、我が子の産声を聞くので手一杯だった。
そんな気持ちをサフランもわかっているのか、
「わかりました! 周辺を整えますので、少々お待ちください」
と、これまたうわずった声……いいえ、泣いているわ。泣き声で、助産師と医師に「シーツを取り替えても良いか」を聞いてくれていた。
「お嬢様、よく頑張りましたね」
「先生、ありがとうございます……」
「大量の出血があるので、しばらくは動けないでしょう。子を抱きたい時は、私かメイドに一言おっしゃってくださいな」
「はい……。ヴァレリー様にも見せたくて」
「わかりました。こんな可愛らしい子ですから、絶対にお喜びになりますよ」
「ええ……。本当に、ありがとうございます」
助産師たちがベッドを整えてくれている中、医師と会話をしつつサフランに身体を拭いてもらい新しい服に着替えた。
全く動けなくて、シーツを変える時も2人がかりで身体を持ち上げてもらってしまったわ。何度もサフランと助産師に謝って、その度「お嬢様はもっと威張ってください。だって、こんな可愛い子を産んだのですから!」と言って涙を流してくれたの。
ああ、この高揚感。とても気持ちが良いわ。
早く、ヴァレリー様と共有したい。
そう思った時だった。
「産まれたのか!」
部屋の中に、ヴァレリー様が入ってきた。
とても嬉しそうなお顔で、助産師の抱く我が子に視線を向けている。体重や身長を測っていた途中だったらしく、裸のままの我が子が私からも見えた。
あの子には、どんな服が似合うかしら? 今から、それを選ぶのも楽しみだわ。
「ヴァレリー様! お呼びするまで、外でお待ちくださいと……」
「良いわ、サフラン。もう着替えは終わったし、大丈夫」
私は、怒るサフランを宥めつつヴァレリー様の言葉を待つ。
しかし、それは私が想像していたものとはかけ離れすぎていた。
「なんだ、女か」
ヴァレリー様の表情は、我が子を見た瞬間に無へと変わった。
そして、そのまま私とは目も合わせずに部屋を出て行ってしまわれたの。
今の出来事によって、部屋の中の物音が一瞬にして消え去る。でもそれは、私の中だけだった。
どうやら、私は我が子を抱かずにそのまま気絶したみたい。
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