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はじまり
しおりを挟む傷だらけの身体を庇うように、空中で羽根を静かに羽ばたかせながらある鉄骨塔の中へ入った。
そこは天空にそびえたつ真っ黒な鉄筋の骨組みであり、安全を保障する手すりや柵などが見渡す限り一つもない
人が二人すれ違うことが出来るのもギリギリなのに何故か落ちることへの不安を感じさせず、まるで地にいる時と同様に感じる。
そんな中で人々は鉄筋の骨組みを躊躇なく歩き回っていたり、それぞれに会話を楽しんでい姿がみてとれた。
ふと視界に入った彼は、柱の近くで腰を下ろして、外に向け足をぶらつかせている。
彼は、底が見えず安全柵もないこの鉄骨に平気で座っているが、不安は感じてないのだろうか。もしも、見ず知らずの誰かに急に背中を押されるかもしれないという可能性が、無きにしも非ずのこの状況は、彼にとって怖くないのだろうか。と、疑問を抱いた。
だが、彼に声をかける気にはならならず
また新たな疑問が脳を支配する。
その疑問は、此処にいる者たちは、本当に人間なのか。はたまた、人間の姿をした違う生き物の仮の姿なのか。…点々と存在している人物達を視野に、頭の中は、彼らが敵なのか味方なのか、と意識してしまう。
もし彼らが全員、敵だったらと思うと表現が難しい程の不安に駆り立てられながら、周りを見ていた。
傍から見れば、神経質すぎるかも知れないが、周りに対してこんなにも意識してしまうのには理由があるんだ。
それは俺が上空を利用して、ある人から死に物狂いで隠れ逃げ回っている時に見つけた場所であって、日頃から馴染みのある場所ではないってことが神経質にさせる1番の理由かもしれない。
そんな不安に支配されかけている一方で、安全かは不明だが、沢山の人々がいる場所に身を隠せるという安堵感が、どこからともなく湧き上がってくる。先程までの神経質すぎる不安があったが、あの人から身を隠せる希望が持てたことでウソのように一瞬で消えたんだ。
周りを見ながらもふらふらと鉄骨の上を歩いていた俺は、一つの囲いの中へと入っていったんだ。
そこからふと空を見上げてみた。
鉄骨の外は、どんよりした気持ちになるような雨雲。
目の前にガラスなどないはずだが、例えるなら室内から曇ったガラス越しで、外を見ているかのような感覚で目にフィルターがかかっている錯覚の中、雨が降っているのか降っていないのか判断がつかず、心が少しモヤっとしながら上空を眺めていたんだ。
あの人の存在がいないことに落ち着いた僕は思った以上にエネルギーが足らず認識力もだいぶ鈍っていることに気づいた。
少しでもエネルギーを回復したくて、何処か目立たない所に着地しようと辺りを見る。
ふと、あそこなら大丈夫じゃないかと羽根を羽ばたかせて着陸した俺に周りにいた者は誰も関心はなく驚きの声すらない。ただ、他人に興味はないんだと、理解できるほどに自分たちの空間を生きているように見て取れた。
着地した今いる場所から下を見ると螺旋階段の様に暗く、暗く深い闇に包まれ続いていた。
上を見渡しても下同様、空の色が見えることもなく内側も真っ黒な鉄筋の壁が続き天辺は暗く途方に続いていたんだ。
上も下も真っ暗闇にみえるけど、不安はなくて何処から湧いてくるのかわからない、今いる場所から天辺まではそう遠くはないと確信もないのに脳内で理解する。
ここなら大丈夫なんじゃないかと、本格的に雨が降り落ちていくザアザア音を聞きながらいつでも飛べるように広げていた羽根をしまい、鉄筋の影になる隅をみつけて、あの人に見つからないようにという気持ちも含めて柱に向かって体操座りをして、雨と風で、冷えた体を隠すように縮まったんだ。
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