彼の瞳に映らないように

過去 ｰ SS短編そのまま読めます ｰ

湯汲みを断った日 ｰ 兄の場合 ｰ

◆

私がシュワット公爵家に来て
義兄であるカルリトに違和感を覚えたのは7歳の時

幼児の時からエレベーター式で持ち上がる貴族の名門学園に猛勉強して6歳の年で編入することができた私にも徐々に友達ができるようになり、家庭の話題が出るようになった時だ

「イザベルさん、お兄さんいましたわよね？」
「ええ」
「ワタクシも兄がいるのですけど、この前バッタリと入浴前に出くわしてしまって裸を見られてしまいましたのー！本当に最悪ですわ！！」

思い出したようで顔を真っ赤にしながら怒ってる友達の話に、ついていけず

「ねぇ、兄と一緒に湯汲みをするものではないのですか？」
「……イザベルさん、それはおかしいですわ。あれほど整ったお顔のお兄様が私の兄だったら、ええ考えなくも…いえでもダメです！直ぐにおやめになって！！もうそのような年ではありませんし、ましてや婚約者をつくれるようなレディの年になったのですから！！」

そっか、そういうものなのか。
これも義兄に妹離れさせるいい機会よね。



「イザベル、湯汲みの時間だよ」

ニコニコと含んだ笑みで一緒に入ろうという意味合いを含んだ声かけをされる。

「お兄さま」
「どうしたんだい、イザベル?」

5歳年上の義兄の顔を身長差もあり下から覗き込む形で見つめる。

「ワタクシは後で入ります、お先にどうぞ。」

「・・・イザベル、何かあったのかい?」 
一呼吸考える間の後、何か問題があったのかと聞いてくる


「いいえ、ワタクシも世間では婚約者ができてもいい歳になりましたので一人で浸かりたいです。」

「・・・それはあくまでも世間の話であり、まだ*月は来ていないのだろ?」

笑顔を崩さず耳を疑うような発言をしてくる。

「異性を気にする年齢になりましたので一人で浸かりたいです。」 
「そうか、イザベルも女性になったということか・・お祝いの食事を用意してもらわないとね」

なぜ、一緒に入ることを断っただけでそうなるのかしら。

「そっか、月が来たのか」

 しみじみはにかみ嬉しそうに私をハグしてくる義兄ヘンタイに内心ドン引きである。

一つ言いたい、魔法が発達している世界といえど7歳で生理になるほど私の器は成熟していない。

 「それなら仕方ないね。僕の可愛いイザベル、愛してるよ」

 ・・ひとすくいに横髪を指股に挟んでチュッと髪にキスをしてくれるな。

 「そういうことですのでどうぞお先に」
真顔でさっさと離れて欲しくて促す。

「僕は気にしないよ、イザベルの後でも「お兄様が後になるのなら私は一生入れませんわ」」

そんなわけはない。
ちゃんと桶を別にすればいいことなのだから、でもこれ以上真面目に聞いていたら気持ち悪い言葉を発しそうで割り込んで大げさに言ってみた。


「それは困るな、わかった。愛しいイザベルが病気になってはいけないからね、僕が先に入ってお湯を清めておいてあげるよ」

入った時点で汚れても清めれるわけがない、何をするつもりなのかしらね。

「いってらっしゃい、お兄様」
一歩後ろに小さく下がって、片腕を背に回して片腕で手を振りさっさと行けと言わんばかりの笑みで見送る。

「すぐに戻るからね、愛しのイザベル」 

その言葉に『一生戻って来なくて良いわよ』なんて、そんなことを思った時期もあったなと思い返す。



END
ーーーーーー
*月=生理です。