彼の瞳に映らないように

奏 -sou-

文字の大きさ
上 下
11 / 26
その後

ベルという女性になる為の儀式

しおりを挟む
「ただいま戻りました」

 ひょっこりと覗くように厨房に顔を出して声を出す。

「はやかったね!おかえり」
「おかえり」

女将さんとバーナさんの出迎えの声になんとも言えない嬉しい気持ちになりながらペコっと軽く頭を下げて2階に上がる。

一度自室に戻って、お金をマットと金具の隙間に隠すように仕舞って購入した品物を持って洗面台に向かう


『誰もきませんよーに』

そう願いながら、紙袋から染め粉を取り出して説明書に沿って髪を染めながら待っている間にもう一袋に入ってる品物を取り出して使用方法に目を通す

『魔法でも使えたら一発なのに、私にはそんな力がないものね』

純粋なる貴族にだけ魔法を使える力が備わっているのに私には1ミリともその力がない。

仕方ないのでなるべく時間を置かなくていい魔法の力が入った染め粉を購入しておいた、ちなみにタイマーは無いけど10分で塗った表面が虹色に光るらしい。


10分といえどボーとしているには
もったいない時間なので今後のことを考える。


唯一金貨に変えることの出来るドレスも合計でどれだけの価値になるのかもわからないし、それだけでそれだけでずっと生活していけるとは思っていない。

ここにも縁があってお店の人手が足りないのをお手伝いする代わりに衣食住を提供してもらうことで契約をしたけど、それじゃあバーナさん夫婦に負担をかけすぎだし割に合わない。

ちゃんと独り立ちできるように、なんならこの国から本当は次の日にでも港から出国したかった けど流石に公爵家にいるときに手続きをしようもならバレてしまう可能性大ですぐに身元バレして家族の元に強制的に引き戻されることが目に見えてる。


ずっとここにいるのは迷惑だと理解しているから、夜はお仕事をここで手伝って少しでも恩を返して、昼間も目星をつけている宿付近のパン屋さんで雇ってもらう予定である。

服もずっとこの服だけをきておくことはできないから着回す服をもう1着買わないといけない、 いつかこの国を離れるためにお金も貯めていかないといけない。

一体一月でどの位稼げるかなんて想像 もつかないけどともかく頑張らなきゃ、ここにくる前に婚約破棄になったことでイザベルとしては大きな傷になったのだろうけど、ベルとしては傷ものじゃない、きっと大丈夫、新たな1歩を踏み出したばかりよ。


そうこう思いにふけていると虹色に髪色がゆらめく


手洗い場の水を出して
髪を水にさらして染め粉を流し落とす。


滑りが一通り感じなくなったところで蛇口を閉じて腰に巻いていた布をほどき絞った髪を布で拭きながら思った色に染まってることを願いながら頭を上げて鏡を見る。

『うん、いい感じに染まったわ、あとは乾かして頰にそばかすを書くだけね』

目の前の自分の髪の色が、薄紫から茶色に変わっており完成度に目をこらしながらこの染め粉でアタリだったと関心して次も同じのを購入することを決め、十分に布で髪の毛を拭いてから手櫛で整える。


ショートヘアーってこんなにも髪を乾かすのが楽なんだと思うとずっとロングだった私にとって些細なことだけど感動する。


あとは最終仕上げに
ポツポツと頬にそばかすを描いていく。



そして自室にゴミを持って行き、

何を言われても焦らないよう心の準備をし、一呼吸して1階に降りる。

しおりを挟む

処理中です...