彼の瞳に映らないように

その後

温かいスープにホロりとしそうな夜

裏口から一度外に出て、
表の店の入り口から中に入る

カランカラン

「いらっしゃ・・・い」

女将さんの元気な声が聞こえたかと思うと驚いた顔で私を見ていた。

それもそうよね、数分後にこんな髪型をしているんだから驚いても無理はないと思うわ

「お邪魔します」

といったものの女将さんの掛け声に周りがチラリとこちらを確認するように見る目線を感じる。

お客さんは5、6人ほどしかいないけど、だからこそこちらへの視線になんだか居た堪れなくなり引き返そうかと1歩後ろに小さく下がる。

「あぁ、悪い悪い、ベルこっちへ来な!」

 女将さんはニコニコ笑顔で、カウンターの端のひと席を指差す。

「えぇ」

その席に向かってゆっくり1歩前に足を踏み出せば

「女将、お嬢ちゃんが怯えてんじゃねぇか!」

日焼けした筋肉ムキムキの強面のおじさんがガハハと女将さんに冗談めかしに声をかける。

「あぁ、あんたらみたいな怖い顔した男どもに怯えてるんだよ。もっと笑ったらどうなんだい?」 

片眉ピクリとあげたものの、
ニヤニヤしながら言葉に乗っかる女将

「ウルセェ!俺らの顔は元からこうだ!」

 言い方は乱暴だが、傷ついたようなそぶりを見せながら笑っている。

「わしを巻き込むな!」 

そのおじさんの近くのテーブルで飲んでた酒腹の大柄なおじさんが二人のやり取りに乗っかってくる。

女将さんに言われてる席に行くには2人の席の真ん中を通るしかないようで話が終わるまで待つか悩んだが、私の目を見て

「可愛いお嬢さん、ワシは女性たちから微笑みの貴公子と呼ばれておるんだ、よろしく」

そう言われて軽くカーテーシーをしかけたが、体を軽く前に倒して握手する代わりにペコっと頭を下げる。

隣からも、

「おいおい誰が微笑みの貴公子だ?俺だって歯抜けが可愛いって女どもから言われてんだよ!お嬢ちゃんそう言うことだからよろしくな!!」

ガハハと笑うと本当に前歯横が1本だけ抜けていた。軽く頭を下げて挨拶をする。

場の空気に合わせて笑うツボがイマイチ掴めないまま、ニコッと二人に微笑んでから女将さんの居るカウンターにたどり着く

「ベル、晩御飯まだだろ?用意したから食べな」

椅子に座ったら、カウンター越しに湯気の立つ料理が目の前に置かれて今日は卒業パーティだからと朝食後何も口にしていなかったこと思い出す。

もちろん卒業パーティーの最中に1口でも食べる暇も無いぐらいにすぐに大イベントが行われ連行されて今に至るわけで、目の前の食事の匂いにつられてグルルルルッと腸が動く音が小さく聞こえる。 

それが恥ずかしくて瞬時に手をお腹にあてがい、音よ止まれと願いながら撫でる。


女将さんにも聞こえたようで、ふっと優しい微笑みで 

「お腹空いてるんだろ、口に合うかわからないが遠慮せずに食べな」

とスプーンを渡してくれた。

「いただきます」

そう言って、口に運んだ今まで感じたことのない料理の暖かさと美味しさと女将さんの優しさに零れ落ちそうになる涙を我慢しながら完食した。

女将さんに言われた通り、食べた後も少しこの場所の空気感を静かに感じながら女将さんと常連客のやり取りにクスクスと笑たりしながら、これからがどうなるかわからないけど女将さんと出会えて本当に良かったと実感する。


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『今日は、いろいろあり過ぎて本当に疲れたわ。さあ明日から頑張らないと』

2階の自室に戻ってきて今日という日が
イザベル・シュワットとして

やっとこの17年の1度目の人生の終止点であり
2度目の人生の出発点になったことを

ベットの上で目をつむり
思い返していると自然と眠りについた。

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ベルになった日1日目