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第182話 救世主

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ドルゲルは上空から商業都市ガーゼイドの惨状を見下ろしていた・・・

「・・・随分と壊してしまった・・・またあいつにどやされそうだな・・・仕方ない・・・取り敢えずアレは邪魔だな・・・町の外に出しておけば何とかするだろう・・・よっと!!」

ドルゲルが真っ二つになったエビル・ヘルスパイダーに手をかざすと軽々と宙に浮く。そしてそのままエビル・ヘルスパイダーを町の外に放り投げた。

ずずぅぅぅん・・・

「ふう。これでよし!後は・・・外壁か・・」

(・・・仕方ない・・・乗り掛かった船だ・・・やってやるか・・)

ドルゲルは大きく破壊された街の外壁を見下ろし頭を掻きながら地上に降りて行った。



レオガルドの後に続き走るミラジリアが声を上げる!!

「レオガルド様!!あれを!!」

「むっ!何だ?!」

必死に走るレオガルドは半ば面倒くさそうにミラジリアの指差す方に目を向けると思わず脚を止めて立ち尽くす。

「な、何だと・・あ、あの巨体が・・・浮いている?!」

目線の先には10m級のエビル・ヘルスパイダーの巨体が浮かび上がっていた。呆気に取られているとエビル・ヘルスパイダーの死骸は軽々と街の外へと飛んで行った。レオガルドは宙に浮かぶ男を再び見上げる。

「な、なんと・・・こ、これも赤龍様のお力か・・・す、素晴らしい・・・むっ!いかん!赤龍様が地上に降りられるぞ!急げ!!」

「はい!!」

レオガルド達は見上げる男が地上に降りるのを見ると再び走り出した。そしてこの光景をギルドマスターのジルバを始めギルド職員達も目の当たりにしていた・・・


「・・・な、何なんだ・・この規格外な力は・・・一体あいつは・・何者だ・・」

ジルバはドルゲルから発せられた膨大な魔力を感じて全身の毛が逆立っていた。

「わ、分かりません・・ですが敵では無さそうです。エビル・ヘルスパイダーを倒し、その巨大な死骸を撤去してくれたのです。これで救助活動がし易くなります。」

「うむ。確かにな・・・この街の救世主と言っても過言ではないな。・・・よし!急ぐぞ!ナーガとリーグは俺について来い!ベルマは皆を率いて住民の救援活動を指揮しろ!行くぞ!!」

「「「はい!!」」」

ジルバはギルド職員に指示を出すとドルゲルの元へと再び走り出した。ジルバは空から降りてくるドルゲルを見据えながら一抹の不安を感じる。さっき男から感じた凄まじい魔力をまだ身体が覚えたいた。あの男の目的は何なのか。今から何をするつもりなのか。ジルバは緊張から自然と身体に力が入るのであった。


ドルゲルは地上に降り立ち破壊された外壁部分からガーゼイドの街の中へ入る。そして辺りを見渡していると悲鳴や泣き声荒げた怒号が飛び交っていた。

「誰かぁぁぁ!!娘が中にいるのよぉぉぉ!!誰か助けてぇぇぇぇ!!」

「お願いぃぃ!!!助けてぇぇ!!息子が瓦礫の下にぃぃ!!

「おい!!誰か手を貸せぇぇ!!こっちだ!!早くしろぉぉぉ!!」


(・・全く・・・人間とは脆弱な生き物だな。この程度の事で大騒ぎするとはな・・・)

「おい!!そこの若いの!!手を貸してくれぇぇ!!

「ん?」

ドルゲルが慌てふためく街の住民を呆れ顔で眺めていると突然声をかけられた。見れば獣人の男が倒れた大きな石壁を持ち上げようとしていた。石壁の下からは女性の腕と分かる汚れた白い腕だけが見えていた。

ドルゲルはその様子を見て困惑した。ドルゲルは人間や獣人がどうなろうが知った事ではないと思っていたが、自分の失敗で傷付き死にかけている者を見て少し心が痛んだのだ。


(・・・くっ・・し、仕方ない・・・外壁は後にするか・・・)

ドルゲルは崩壊した場所一帯に手をかざして魔力を広げる!!

(・・・閉じ込められている奴は・・・7人・・瓦礫の下にいる奴・・・12人・・まだ辛うじて生きてるな・・・獣人だけあって人間よりかは頑丈だな。)

「おい!お前!下がっていろ!!」

「な、何を・・・」

ドルゲルは瓦礫を支えている獣人に声を掛ける。そして一帯に広げた魔力により瓦礫で動けなくなっている者を確認するとそのまま魔力で全ての瓦礫を包み込み持ち上げた!

ごばぁぁぁぁ・・・

「・・・な、何だ?!な、何がどうなってやがる?!」

「な、何・・・ど、どうなってるの・・・」

今まで一帯に響いていた悲鳴と泣き声と怒号がピタリと止み皆が軽々と宙に浮く大量の瓦礫を腰を抜かして見上げていた・・・

「おい!!お前等!!ぼーっとするな!早く助け出せ!!早くしないと死ぬぞ!」

「お、おう!!そ、そうだ!!皆んな急げ!!」

「お、おう!」

ドルゲルが檄を飛ばすと呆けていた獣人達が肩を跳ね上げ我に返ると一斉に怪我人の救助を始めた。

「ミリィ!!!よ、よかったぁぁ!!本当に良かったぁぁ!!」

「こっちも大丈夫だ!!気を失ってるだけだ!!」

「おう!!怪我はしているが皆んな無事だ!!本当に良かった!!あのままだったら皆んな危なかったぜ!!」

ドルゲルは我が子を抱きしめ涙する者、皆が助け合い喜び合う姿を見てその湧き上がる安堵感に困惑していた。

(ふん・・・俺は何をほっとしているんだ・・・まぁいい・・俺は神として自分の尻を自分で拭いただけだ・・・どの道こいつ等は俺が支配するんだ。今のうちに喜んでおけ・・・)

「お、おい!!カリス!目を開けてくれ!!何とか言ってくれ!!」

ドルゲルが瓦礫を空き地に置き立ち去ろうとすると先程声を掛けた獣人が女性の獣人に縋り声を掛けていた。見るからに女性は生気が無く虫の息であった。

男は立ち去ろうとするドルゲルと目が合うと目を見開きドルゲルの脚に縋った。

「お、おい!!何の真似だ?!」

「な、なあ!!あ、あんた!!あんな凄え事が出来るんだ!!な、何とか出来るんだろう?!な、なあ!!た、頼む!!カリスを!俺のカリスを助けてくれぇぇ!!か、金なら払う!!お願いだぁぁぁぁぁ」

「・・ば、馬鹿かお前!!俺は・・・」

ドルゲルは言おうとした言葉を止めて必死で足元で懇願する男を見下ろし考えていた。ドルゲルは元暗黒神なのである。誰かを癒した事も治した事もないのである。まして回復魔法など暗黒神が使えるわけが無かった。しかしドルゲルは心の何処かで神として出来ないと言う事が許せなかった・・・

「・・・どけ。この俺に出来ない事は無い!!」

「・・・ぅぅぅ・・た、頼む・・・」

ドルゲルは脚に縋る男を振り解くと横たわる女性の前に立ち自分の魔力で包み込む。そして怪我の状態を確認するように身体に魔力を流して行く。

(・・・ちっ・・骨が何箇所も折れて内臓に刺さってやがる・・・ふん・・いいだろう・・骨格は骸骨騎士を見てるからな・・想像は出来る・・・だが・・内臓や血管は時間が掛かる・・取り敢えず魔力で覆って止血するしか無いか・・・)

男が悲痛な表情で見守る中ドルゲルが魔力を流し数十秒経つと女性の顔色が良くなり呼吸も落ち着いてくる。そして薄らと女性の目が開いた。

(ふう・・・よし!さすが俺だ!回復も出来る暗黒神だぞ!・・・でも慣れない事して少し疲れたぞ・・・)

「・・・わ、私・・い、生きて・・るの?」

「カ、カリス!!お、お前・・大丈夫なのか!?うおぉぉ!!カリスゥゥゥ!!」

「あぐっ!!」

意識を取り戻した女性が目をはっきりと開いて覗き込んでいた男と目が合う。男が女性を抱きしめようとするとドルゲルが男の襟首を捕まえた。

「おい!まだ動かすな!俺は回復魔法は使えん。だが骨は繋いだ。あと内臓と血管は時間が掛かる。後で回復士にでも頼め!」

「うぅぅぅ・・・ありがとうぉぉぉ!!ありがとうぉぉぉ・・うぅぅぅ・・・本当にありがとうぉぉぉぉ・・・」

男はドルゲルに振り向くとなり振り構わず土下座し足元で泣きながら手を合わせる。すると周りで様子を見ていた獣人達もドルゲルの周りに集まって来た。そして集まった獣人達が全員ドルゲルの目の前で両膝を付いた。

「な、何だ・・・お前等・・・」

目の前の光景にたじろぐドルゲルを他所に先頭の獣人の男が顔を上げる。

「救世主様!我らは貴方様に最上級の感謝を捧げる!!願わくば貴方様のお名前をお教えください!!」

(あ・・う・・な、なんか同じ事があったような・・だ、だがここは・・決める所だ!)

ドルゲルは腹を決めて襟を正すと下っ腹に力を入れる。

「うむ!よく聞け!獣人共!俺は暗黒神ドルゲル!このガーゼイドの街を救い来たのだ!!」

男は一瞬目を見開くが敬意を払う相手に疑う事もせずに素直に受け入れた。

「・・・暗黒神ドルゲル様・・・この度は我等をお助けくださりありがとうございました!我らに出来る事があれば何なりとお申し付けください!!」

ドルゲルは獣人達の迫力に後退る。

「お、おう・・・お、俺はまだやる事がある。お前等は怪我人を見てやれ!」

「おぉ・・何と慈悲深いお言葉・・・この恩に必ず報います!それでは失礼致します!」

「お、おう・・・」

獣人達は何度も頭を下げながら怪我人を介抱しにドルゲルの元を離れるのであった。

(な、なんかやっぱり慣れんな・・・崇められるのは悪い気はしないが・・・ふう・・さあ・・あいつ等が来る前に・・・)

ドルゲルが肩をすくめながら踵を返すと再び跪く集団が目の前に現れた・・・

「うおっ!!!な、なんだお前等は!!」

そこにはレオガルドを始めとする赤龍教の面々が跪いていた・・・
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