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第170話 自重

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「おい!これはどう言う事だ!!何故オーガ共が従っているんだ?!」

回復したレザルトが剣を片手に馬車に近付いて来る。するとライナードがレザルトの行手を遮る。

「あんた。そんなに殺気だって近付かない方がいい。せっかく拾った命が無駄になるぞ?」

「なんだと?!生意気なガキが!!ふん!余計な真似しやがって!オーガ如き俺一人で充分だったんだよ!!」

「・・・そうかい。じゃあ再戦してみるか?」

ライナードが呆れ顔で親指を立てて馬車の方を指差した。息巻くレザルトが馬車に目をやるとオーガ達が目を紅く光らせて立ち上がっていた。

「・・アルジサマノ・・ナカマ・・ブジョクシタ・・ユルサナイ・・・オマエ・・クウ。」

先頭に居たオーガロードが一瞬身体を沈ませると勢いよく大地を蹴り跳躍する。そしてその大きく逞しい身体からは想像出来ない程の飛距離を飛びレザルトの背後へと着地した。

どざんっ・・・・

オーガロードが鬼の形相でレザルトを見下ろした。

「なっ?!」

「あんた。再戦したいんだろ?ご自由にどうぞ。」

ライナードが数歩下がってにやけながら腕を組む。

「そうよね?余計な事しちゃってごめんなさいね?でも一人で何とか出来るようには見えなかったから手を出しちゃったんだけどね!さあ!見せてもらいましょうか!一人で何とか出来る所をね?」

カリンも意地悪く笑うとライナードの隣に並び腕を組んだ。

「お、おい・・・ま、待てよ・・・ぐはっ!!」

オーガロードは問答無用でレザルトの身体を鷲掴みにするとライナードを見る。

「コレ、クッテイイカ?」

「お、おい放せ!!食って言い訳ないだろう!!くそっ!!・・・ぐへぇっ!!」

「オマエ・・ウルサイ・・・」

ミキミキミキッッッッ!!

オーガロードは騒ぐレザルトを黙らせるように手に力を入れる。

「あんた。早くしないと喰われるぞ?」

「一人で何とか出来るんでしょ?早くしなさいよ!」

ライナードとカリンはレザルトを煽るように囃し立てる。

「くぞぉぉぉ!!見てないで助けやがれ!!俺はスレイド王国の・・・くべぇぇぇぇ!!」

ジタバタと叫び散らすレザルトを握る手に更なる力が入る!

「オマエ・・ウルサイ・・ダカラ・・クウ!」

「や、やべろぉぉぉぉ!!」

すると後ろからライナードの肩に手が置かれリベルトが前に出る。

「まぁ・・・その辺にしてやってくれ。そいつはスレイド王国第二王子レザルトだ。生簀ない奴だが目の前で王族が喰われるのをただ見てただけと言われたら問題だからな。」

「ヌッ・・・オマエカラ・・エントサマノチカラ・・カンジル・・・ワカタ・・コレクウヤメル・・・」

オーガロードが力を抜くとレザルトが地面に落とされる。

どさっ・・・

「痛っ!!・・はぁ、はぁ、はぁ・・・ふ、ふん・・リベルトか・・・貴様がここにいるという事は龍峰山でのクラインド王国の援軍ってのはお前らの事か!!」

「あぁ。その通りだ。お前の方は大方俺達を待たずに大見得切って出て来たのはいいがオーガ達の縄張りに入ってこのザマって事か?」

レザルトはよろよろと立ち上がり苦虫を噛み潰したような顔でリベルトの正面に立つ。

「・・ふ、ふん!き、貴様等の力など借りなくてもどうにかなったんだ!」

「ふう。はい、はい・・分かった、分かった・・・それでは俺達は王都へ急いでいるんだ。これで失礼する。」

リベルトは嫌味を込めて口調を丁寧にすると踵を返してイグが乗る馬へと歩いて行く。レザルトはその後ろ姿を忌々しく見ていた。

(チッ!・・・リベルトめ・・偉そうにしやがって・・・今に見てろよ・・・)

レザルトは整列する部下達に振り返る。

「お前等!!今見た事は忘れろ!!これから王都へ帰還する!!」

「はっ!!!」

(た、助かった・・・)

(あぁ・・今回はもう駄目かと思った・・)

(俺なんかお花畑が見えたんだぞ?!全く・・・リベルト王子が通らなかったら・・・俺達は今頃オーガの腹の中だったぜ・・・もっと自重して欲しいよな・・)

部下達は内心胸を撫で下ろしていた。このまま龍峰山へ向かうと言い出すのではないかと内心冷や冷やしていたのだ。部下達は毎回レザルト王子の無策に付き合わされ死ぬ思いをして来たのだった。


スレイド王国王都まではミハエル達の予想通り魔物に一度も出会う事なく二日程で到着した。レザルトの部下達はミハエル達を見失ったらまた魔物に襲われると必死でミハエル達が乗る馬車を追いかけるように付いて行った。そして王都に着く頃には全員疲労困憊で崩れ落ちるのだった。


ミハエル達は王宮に通され謁見の間でスレイド王の前で跪いていた。

「面をあげよ。楽にして構わん。」

「はっ!スレイド王。お久しぶりでございます。」

「ふっ。リベルト王子よ。最初に礼を言わねばならんな。我が愚息の窮地を救ってくれたようだな。礼を言うぞ。この通りだ。」

スレイド王は玉座から立ち上がると軽く頭を下げる。

「スレイド王。頭を上げてください。誰が窮地に陥った者を見捨てる事が出来ましょうか!私は当然の事をしたまででございます。」

「ふっ。さすがクラインド王国第一王子だ。クラインド王も鼻が高いであろうな・・・。ふむ。それでは本題に入ろうと思うのだがその前に説明して欲しいのだ・・・何故ここに女子供が居るのかをな。」

スレイド王は口元を緩ませながら玉座に腰を下ろすと横目でリベルトとセイルの後ろに立つイグとミハエル達を不思議そうに見下ろしていた。

(んーー・・やっぱりそうなるかぁ・・・セイルさんの説明では話が通っているって言ってたのに・・・面倒な事にならないと良いけど・・・)

ミハエルがフラグの立ちそうな事を思っているとリベルトが自信に満ちた顔で胸を張る。

「国王様!見た目で判断してはなりません!ここに居る三人は我が父クラインド王も認めるこの世界屈指の実力者です!そしてこの私の師匠でもあるのです!!」

(駄目だぁぁ・・・リベルト王子・・それは追い討ちを掛けるようなものだよぉぉ・・)

リベルト王子の声が謁見の間に響き渡りミハエルが項垂れると周りに控えて居る貴族や重臣がざわつき始める。

「ぷっ・・・ぷぷっ・・ふはははぁぁぁ!!」

「・・ぷっ・・ぷぷっ!子供が師匠?!笑わせる・・」

「ふんっ・・・あんな子供が世界屈指の実力者だと?クラインド王国は大丈夫なのか?」

そしてスレイド王や側に居る宰相や近衛隊長に至るまで吹き出し鼻で笑っていた。

「・・・ふっ・・ふふっ・・リ、リベルト王子よ・・・す、少し冗談が過ぎるぞ・・・そんな子供に何が出来ると言うのだ?!ま、まさかその子供が援軍なのか?ぷふっ・・・」

「わぁっはっはっはっはっぁぁぁぁぁ!!」

「クラインド王国は我らを馬鹿にしてるのか?!こんなガキ共をよこしやがって!!」

「クラインド王国ではこんなガキ共に教えを乞うておるのか?!笑わせるなぁぁ!!」

スレイド王が笑いを堪えながら話すと調子に乗った貴族や重臣の笑い声や怒声が飛び謁見間はクラインド王国への誹謗中傷が飛び交った。リベルト王子は我が父クラインド王を馬鹿にされ怒りでこめかみが震え・・・頂点に達する・・・

「だぁまれぇぇぇぇぇぇ!!!この節穴共がぁぁぁぁぁ!!事もあろうに我が国!我が父を愚弄するとはどう了見だぁぁぁ!!!」

リベルト王子は怒りに任せて闘気を解放する!!その勢いで口先だけの貴族や重臣達が壁に叩きつけられ大人しくなる。そしてリベルトから立ち昇る膨大な闘気を前にスレイド王や側近達が我に返り震えながら失言を後悔していた・・・

(ふーん・・あの闘気・・あの男リベルトとか言ったわね・・・意外とやるわね・・・んっ?!・・・こ、この気配は・・・不味いわね・・・)

イグは周りを見渡しながらそっと魔力障壁を纏うのであった・・・

「リベルト王子!落ち着いてください!スレイド王の前です!闘気を収めてください!」

セイルはリベルト王子の闘気をものともぜずに目の前に立ちリベルトの目を見据えるとリベルトは肩を落とし闘気を収めた。

「悪い・・・親父を馬鹿にされて・・カッとなった・・」

セイルは肩を落とすリベルト王子に微笑む。

「いいえ。当然の感情です。しかし・・・もう少し自重してください。もう少しで死人が出る所でしたよ。王子の力は自分が思っている以上に凄まじいのです。」

「あ、あぁ・・次から気を付ける・・・・んっ?!な、何だ・・こ、この気配は・・・」

リベルトは計り知れない程の力が膨れ上がるのを感じた。

「こ、これは・・・も、もっと自重しなければならない者達が・・・ここへ来る!!」

セイルは気付く・・・ミハエルを笑者にされて黙っていない者達の存在を・・・

(な、なぁ・・・こ、これって絶対不味いやつだよな・・・)

(う、うん・・・そ、そうだね。でも良いんじゃない?私もムカついたし・・・)

ライナードとカリンはミハエルを笑った大人達を見渡しこの後の惨状を想像するのであった・・・
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