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第153話 特級帝国騎士団
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特級帝国騎士団団長アグノス率いる500名の猛者達がスレイド王国領内に入りメルト村まで後半日程の所まで来ていた。先頭を行くのは真紅の鎧を身に纏った黒髪の男アグノス団長と副団長のクーランドである。
二人は旧友でありドルビナ王国に来た時からの仲であった。
「なぁ。アグノス。俺達が全員出動するって事はメルト村ってのはそんなにでかい村なのか?」
副団長のクーランドが馬上で肩をすくめる。
「分からん。だが、レバイト団長が率いる第一騎士団を敗走させた村らしい。侮れんぞ。」
「そうだったな!S級冒険者の豪剣ガインが村長なんだってな!今から腕が鳴るぜ!」
アグノスは粋がるクーランドを横目に表情を曇らせる。
「だがなその村長と同じくS級冒険者の賢者アンリルは俺の兄が帝都に連れ出している。主戦力が居ない村をこの人数で制圧など・・・大きな声では言えんが・・・気が進まん。」
「あぁ・・そうか・・帝国の面子の為に来たが下手をすると弱い者いじめと帝国の恥になりかねないって事だよな・・・ふぅん・・」
クーランドも表情を曇らせどうしたら良いか森の中で空を見上げた。するとこちらを見下ろす深緑のドレスを着た美しい女性が目に映った・・・
「んん?!お、おい・・・アグノス!あれは何だ・・・?」
アグノスもクーランドの目線を辿り森を見上げた。
「な、なんだ・・・な、何者だ?!」
「ふふふ・・私はエント。あなた達は一体何を勘違いしているのでしょうか?弱い者いじめをされるのはあなた達だと言うのに・・・」
浮いていたエントの姿が森に溶け込むように消えると目の前の大木の中からすり抜けるように現れた。
「何?!この特級帝国騎士団を弱い者呼ばわりだと?!・・・くっ・・何だこの纏わりつくような空気は・・・」
アグノスが声を荒げるが森の空気が重くなり声が震える。部下達は既に地面に膝を付き汗を滲ませ肩で息をしていた。
「ふむ・・あまり悪意は感じんが・・主様の村を襲うのならばここを通す訳には行かんな・・・」
「でも・・村に着いたとしても・・・ふふ。ミハエル様がいらっしゃるのですよ・・弱い者いじめにも程がありますわ。」
エントの両隣にいつの間にかベヒモスとクラーケンが並び立つ。
「アグノス・・こ、こいつらは・・・精霊だ・・これ程はっきりと人化した精霊は初めて見た・・・気を付けろ!精霊使いが近くに居るはずだ!」
「まさかメルト村にも精霊使いが居るとはな・・・だがしかしこちらにも精霊使いが居るんだ!クーランド!頼むぞ!」
「あぁ!任せとけ!来い!風の上級精霊〈ウィンデーネ〉!!」
クーランドが自分が従える最高精霊を呼ぶべく右手を空に掲げて叫ぶ。しかし何事もなく足元を風が吹き抜けて行った・・・
「ど、どうした?!〈ウィンデーネ〉!!何故出てこない?!」
(・・・無理・・・)
クーランドが辺りを見回していると不意に頭の上から声がして大きな気配を感じ勢いよく空を見上げる。
「何?!」
クーランドが見上げるとそこには感じた事の無い魔力を纏った風の最上級精霊ジンが隣にウィンデーネを連れて羽虫を見るような眼差しでクーランドを見下ろしていた。
「お前は馬鹿か?我らは最上級精霊。その前に上級精霊が出て来れる訳がないだろう。・・・お前等からは悪意があまり感じられん。今なら見逃してやる。主様も無用な殺生は好まれないからな。」
「ど、どうしたクーランド!何があった?!」
アグノスが話しかけるがクーランドは馬上でジンを見上げて唖然としていた・・・
「さ、最上級精霊・・・そ、そんな馬鹿な・・・神の域と言われる精霊だぞ。それを4体同時に行使だと・・・?」
すると不意にエントが口を開いた。
「少し宜しいですか?今、我が主様から呼ばれました。あなた達の処遇を決めてもらいます。警告しておきますが無駄な抵抗はやめておいた方が身のためですよ。前に来た帝国騎士団の二の舞になりますよ?」
「何だと?!」
エントはアグノスの声を無視すると空を仰ぎその場から忽然と消えるのであった。
ガイン達は床に両膝を付いているリーゲルトを冷たい目で見下ろしていた。
「ほう・・いい度胸だな・・リーゲルト。俺達を連れ出して村を襲わせるとは・・・どの面下げて俺達の前に出て来たんだ?」
「あんた達が監視しているのを知らなかったと思う?敢えて見せてあげたのに・・・やっちゃったわね・・・」
「リーゲルトさん。もう同情の余地は無いわ・・全力で排除させてもらうわ!」
(やはりそうだ・・・あの森を支配しているはサリア殿が行使している精霊だ・・・既に特級騎士団が向かっているのを知っているという事は・・・まずい・・早くしないと!)
「ち、違うんだ!!私は陛下を止めようしたんだ!!しかし陛下が先走ってしまったんだ!!俺はあんた達を敵に回す気は無い!!信じてくれ!!特級騎士団の団長は私の弟なんだ!!無駄死にさせたく無いんだ!!だから・・だから恥を忍んでここに来たんだ!!頼む!!弟を!アグノスを殺さないでくれ!!この通りだ!!頼む!!!!」
リーゲルトは弟の為に床に頭を擦り付け懇願した。リーゲルトにとってアグノスはたった一人の家族であった。両親は盗賊に殺され子供の頃から苦楽を共にして来たのだ。そして皇帝に実力を買われて兄弟で皇帝の元で腕を奮っていたのだった。
「ふん。あの施設にあった資料を読んだわ。攫われて捕まっていた子供達はドルビナ帝国に売られるはずだったのよ。あんたら・・散々人の家族を奪っておいて勝手な事を言ってんじゃないわよ!」
「ま、待ってくれ!!あの施設は違うんだ!私もあの施設で暮らしていたんだ。」
「えっ?!・・・じゃあ・・あなたも・・」
「違うんだ!あの施設は私がいた頃は親を亡くして身寄りのない子供達を受け入れる為の孤児院だったんだ。ある日レバイト団長が施設に来て〈神の使人〉である私達兄弟を金で買ったのだ。恐らく・・そこから歯車が狂って金儲けの手段となったのだろう。私もあれ程の惨状になっているとは夢にも思わなかったんだ!」
リーゲルトの言葉に悪意は無かった。ガイン達はリーゲルトの必死の懇願に顔を見合わせると黙って頷く。
「ふっ・・・お前の言っている事は本当のようだ。・・・俺達はとことんお人好しだな。」
サリアは肩の力を抜いてエントを見上げる。
「エント。殺さずに拘束して。お願い。」
「はい。かしこまりました。それでは。」
エントが一礼してその場から消える。
アンリルは立ち上がりリーゲルトの側に立った。
「はぁ・・・仕方ないわね。早く立ちなさい!!」
「えあっ?!そ、それじゃあ・・・」
リーゲルトは涙で濡れた顔を上げアンリルを見上げる。
「うちの村長が許すって言ってるのよ!!さっさと立って弟を説得しなさい!!・・・ほら!私の背中に手を当てて話しかけるのよ!」
「あ、あぁ!!わ、分かった!!頼む!!」
リーゲルトは濡れた顔を袖で拭きながら立ち上がるとアンリルの背中に右手を当てた。
「こ、これで良いのか?」
「えぇ。良いわ。行くわよ!!古代魔法〈マインドスピーチ〉!!」
アンリルはリーゲルトの声をアグノスに届けるべく魔力を集中するのであった。
「おい!前の帝国騎士団とはレバイト団長達の事か?!」
アグノスは心底震えていた。それを打ち払うよに声を荒げる。
「そうだな。そう呼ばれていたな。奴等は悪意に満ち満ちていた。そして再び村を襲うと相談していたのでな・・・排除した。」
「あやつ等は死んで当然なのです。今まで多くの村を襲い人を殺めて来たのです。神罰が降ったのですわ。そうは思いませんか?」
ベヒモスとクラーケンは魔力を滲ませながらアグノスを見据える。
アグノスは返す言葉に困った。帝国騎士団の中でもレバイト団長の噂は聞いていた。目の前の精霊達の言う通りそれが本当なら許される訳が無いとも考えていたのだ。
(・・・う、噂は本当だったのか・・・くっ・・誇り高き帝国騎士団が・・・何という事を・・・)
アグノスが精霊の言葉に返す言葉を失い唇を噛んでいると頭の中に声が流れ込んでくる。
(・・・アグノス!!聞こえるか?!私だ!リーゲルトだ!)
(・・・に、兄さん?!ど、どうして?!)
(詳しい事は後で話す!とにかく手を出すな!くだらない意地は捨てろ!すぐにその森から出るんだ!!・・・いいか・・メルト村の村長殿がお前を助ける機会をくれたのだ。それに、まだお前が生きているって事はお前達に悪意が無いからだ!もしその森でメルト村に悪意を持てば・・その森全てが襲って来るぞ!!直ぐに撤退の意思を伝えて戻るんだ!!頼む!!アグノス!!言う通りにしてくれ!!)
(だ、だが・・これは皇帝陛下の命令なんだ。行かないと・・・)
(馬鹿者!!ここでお前達が全滅したら誰がドルビナ帝国を護るのだ!!そうなれば皇帝陛下はメルト村と全面戦争を起こすぞ!そうなれば・・・ドルビナ帝国は滅亡するのだ!!皇帝陛下には私が掛け合う!!ここは引け!!アグノス!!死に急ぐな!!)
アグノスは兄リーゲルトの必死の訴えと皇帝陛下の命令の間で葛藤していた。するといつの間にか戻っていたエントが進み出る。
「アグノスとやら。たった一人の家族を悲しませるものではありません。リーゲルト殿は貴方を助けようとメルト村の村長殿に必死で懇願したのです。私達も主様が許した者に危害を加えるのは気が引けるのです。ですからこれが最後です。・・・来た道を戻りなさい。」
エントが神力を立ち昇らせると数え切れない程の森の草木が神力を纏い威嚇するようにアグノスたちに狙いを定める。
アグノスは生唾を飲み込み、唖然とするクーランドの肩に手を置く。
「・・ク、クーランド・・ひ、引くぞ・・」
「あ、あぁ・・・そ、その案に賛成だ・・」
アグノスは震えなから最上級精霊達に一礼する。
「お、俺達は撤退する。そ、それと・・レバイト団長の事・・すまなかった。そして・・ありがとう・・・」
こうしてアグノス率いる特級帝国騎士団は一人も欠けることなく森を抜けるのであった。
エント達が去ってゆく帝国騎士団の背中を眺めながら肩を落とす。
「・・・この私が人間を説得するとは・・私も主様達の影響を受けているようですね・・・」
「ふふ・・でも恥ずべき事ではないわ。主様達のような人間ばかりなら誰も泣く事のない世界が出来るのですから。」
「うむ。だがそれは無理と言うものだ。」
「そうだな。世界には善があり悪がある。我らも仕える主により善にもなり悪にもなりえるのだからな・・・」
二人は旧友でありドルビナ王国に来た時からの仲であった。
「なぁ。アグノス。俺達が全員出動するって事はメルト村ってのはそんなにでかい村なのか?」
副団長のクーランドが馬上で肩をすくめる。
「分からん。だが、レバイト団長が率いる第一騎士団を敗走させた村らしい。侮れんぞ。」
「そうだったな!S級冒険者の豪剣ガインが村長なんだってな!今から腕が鳴るぜ!」
アグノスは粋がるクーランドを横目に表情を曇らせる。
「だがなその村長と同じくS級冒険者の賢者アンリルは俺の兄が帝都に連れ出している。主戦力が居ない村をこの人数で制圧など・・・大きな声では言えんが・・・気が進まん。」
「あぁ・・そうか・・帝国の面子の為に来たが下手をすると弱い者いじめと帝国の恥になりかねないって事だよな・・・ふぅん・・」
クーランドも表情を曇らせどうしたら良いか森の中で空を見上げた。するとこちらを見下ろす深緑のドレスを着た美しい女性が目に映った・・・
「んん?!お、おい・・・アグノス!あれは何だ・・・?」
アグノスもクーランドの目線を辿り森を見上げた。
「な、なんだ・・・な、何者だ?!」
「ふふふ・・私はエント。あなた達は一体何を勘違いしているのでしょうか?弱い者いじめをされるのはあなた達だと言うのに・・・」
浮いていたエントの姿が森に溶け込むように消えると目の前の大木の中からすり抜けるように現れた。
「何?!この特級帝国騎士団を弱い者呼ばわりだと?!・・・くっ・・何だこの纏わりつくような空気は・・・」
アグノスが声を荒げるが森の空気が重くなり声が震える。部下達は既に地面に膝を付き汗を滲ませ肩で息をしていた。
「ふむ・・あまり悪意は感じんが・・主様の村を襲うのならばここを通す訳には行かんな・・・」
「でも・・村に着いたとしても・・・ふふ。ミハエル様がいらっしゃるのですよ・・弱い者いじめにも程がありますわ。」
エントの両隣にいつの間にかベヒモスとクラーケンが並び立つ。
「アグノス・・こ、こいつらは・・・精霊だ・・これ程はっきりと人化した精霊は初めて見た・・・気を付けろ!精霊使いが近くに居るはずだ!」
「まさかメルト村にも精霊使いが居るとはな・・・だがしかしこちらにも精霊使いが居るんだ!クーランド!頼むぞ!」
「あぁ!任せとけ!来い!風の上級精霊〈ウィンデーネ〉!!」
クーランドが自分が従える最高精霊を呼ぶべく右手を空に掲げて叫ぶ。しかし何事もなく足元を風が吹き抜けて行った・・・
「ど、どうした?!〈ウィンデーネ〉!!何故出てこない?!」
(・・・無理・・・)
クーランドが辺りを見回していると不意に頭の上から声がして大きな気配を感じ勢いよく空を見上げる。
「何?!」
クーランドが見上げるとそこには感じた事の無い魔力を纏った風の最上級精霊ジンが隣にウィンデーネを連れて羽虫を見るような眼差しでクーランドを見下ろしていた。
「お前は馬鹿か?我らは最上級精霊。その前に上級精霊が出て来れる訳がないだろう。・・・お前等からは悪意があまり感じられん。今なら見逃してやる。主様も無用な殺生は好まれないからな。」
「ど、どうしたクーランド!何があった?!」
アグノスが話しかけるがクーランドは馬上でジンを見上げて唖然としていた・・・
「さ、最上級精霊・・・そ、そんな馬鹿な・・・神の域と言われる精霊だぞ。それを4体同時に行使だと・・・?」
すると不意にエントが口を開いた。
「少し宜しいですか?今、我が主様から呼ばれました。あなた達の処遇を決めてもらいます。警告しておきますが無駄な抵抗はやめておいた方が身のためですよ。前に来た帝国騎士団の二の舞になりますよ?」
「何だと?!」
エントはアグノスの声を無視すると空を仰ぎその場から忽然と消えるのであった。
ガイン達は床に両膝を付いているリーゲルトを冷たい目で見下ろしていた。
「ほう・・いい度胸だな・・リーゲルト。俺達を連れ出して村を襲わせるとは・・・どの面下げて俺達の前に出て来たんだ?」
「あんた達が監視しているのを知らなかったと思う?敢えて見せてあげたのに・・・やっちゃったわね・・・」
「リーゲルトさん。もう同情の余地は無いわ・・全力で排除させてもらうわ!」
(やはりそうだ・・・あの森を支配しているはサリア殿が行使している精霊だ・・・既に特級騎士団が向かっているのを知っているという事は・・・まずい・・早くしないと!)
「ち、違うんだ!!私は陛下を止めようしたんだ!!しかし陛下が先走ってしまったんだ!!俺はあんた達を敵に回す気は無い!!信じてくれ!!特級騎士団の団長は私の弟なんだ!!無駄死にさせたく無いんだ!!だから・・だから恥を忍んでここに来たんだ!!頼む!!弟を!アグノスを殺さないでくれ!!この通りだ!!頼む!!!!」
リーゲルトは弟の為に床に頭を擦り付け懇願した。リーゲルトにとってアグノスはたった一人の家族であった。両親は盗賊に殺され子供の頃から苦楽を共にして来たのだ。そして皇帝に実力を買われて兄弟で皇帝の元で腕を奮っていたのだった。
「ふん。あの施設にあった資料を読んだわ。攫われて捕まっていた子供達はドルビナ帝国に売られるはずだったのよ。あんたら・・散々人の家族を奪っておいて勝手な事を言ってんじゃないわよ!」
「ま、待ってくれ!!あの施設は違うんだ!私もあの施設で暮らしていたんだ。」
「えっ?!・・・じゃあ・・あなたも・・」
「違うんだ!あの施設は私がいた頃は親を亡くして身寄りのない子供達を受け入れる為の孤児院だったんだ。ある日レバイト団長が施設に来て〈神の使人〉である私達兄弟を金で買ったのだ。恐らく・・そこから歯車が狂って金儲けの手段となったのだろう。私もあれ程の惨状になっているとは夢にも思わなかったんだ!」
リーゲルトの言葉に悪意は無かった。ガイン達はリーゲルトの必死の懇願に顔を見合わせると黙って頷く。
「ふっ・・・お前の言っている事は本当のようだ。・・・俺達はとことんお人好しだな。」
サリアは肩の力を抜いてエントを見上げる。
「エント。殺さずに拘束して。お願い。」
「はい。かしこまりました。それでは。」
エントが一礼してその場から消える。
アンリルは立ち上がりリーゲルトの側に立った。
「はぁ・・・仕方ないわね。早く立ちなさい!!」
「えあっ?!そ、それじゃあ・・・」
リーゲルトは涙で濡れた顔を上げアンリルを見上げる。
「うちの村長が許すって言ってるのよ!!さっさと立って弟を説得しなさい!!・・・ほら!私の背中に手を当てて話しかけるのよ!」
「あ、あぁ!!わ、分かった!!頼む!!」
リーゲルトは濡れた顔を袖で拭きながら立ち上がるとアンリルの背中に右手を当てた。
「こ、これで良いのか?」
「えぇ。良いわ。行くわよ!!古代魔法〈マインドスピーチ〉!!」
アンリルはリーゲルトの声をアグノスに届けるべく魔力を集中するのであった。
「おい!前の帝国騎士団とはレバイト団長達の事か?!」
アグノスは心底震えていた。それを打ち払うよに声を荒げる。
「そうだな。そう呼ばれていたな。奴等は悪意に満ち満ちていた。そして再び村を襲うと相談していたのでな・・・排除した。」
「あやつ等は死んで当然なのです。今まで多くの村を襲い人を殺めて来たのです。神罰が降ったのですわ。そうは思いませんか?」
ベヒモスとクラーケンは魔力を滲ませながらアグノスを見据える。
アグノスは返す言葉に困った。帝国騎士団の中でもレバイト団長の噂は聞いていた。目の前の精霊達の言う通りそれが本当なら許される訳が無いとも考えていたのだ。
(・・・う、噂は本当だったのか・・・くっ・・誇り高き帝国騎士団が・・・何という事を・・・)
アグノスが精霊の言葉に返す言葉を失い唇を噛んでいると頭の中に声が流れ込んでくる。
(・・・アグノス!!聞こえるか?!私だ!リーゲルトだ!)
(・・・に、兄さん?!ど、どうして?!)
(詳しい事は後で話す!とにかく手を出すな!くだらない意地は捨てろ!すぐにその森から出るんだ!!・・・いいか・・メルト村の村長殿がお前を助ける機会をくれたのだ。それに、まだお前が生きているって事はお前達に悪意が無いからだ!もしその森でメルト村に悪意を持てば・・その森全てが襲って来るぞ!!直ぐに撤退の意思を伝えて戻るんだ!!頼む!!アグノス!!言う通りにしてくれ!!)
(だ、だが・・これは皇帝陛下の命令なんだ。行かないと・・・)
(馬鹿者!!ここでお前達が全滅したら誰がドルビナ帝国を護るのだ!!そうなれば皇帝陛下はメルト村と全面戦争を起こすぞ!そうなれば・・・ドルビナ帝国は滅亡するのだ!!皇帝陛下には私が掛け合う!!ここは引け!!アグノス!!死に急ぐな!!)
アグノスは兄リーゲルトの必死の訴えと皇帝陛下の命令の間で葛藤していた。するといつの間にか戻っていたエントが進み出る。
「アグノスとやら。たった一人の家族を悲しませるものではありません。リーゲルト殿は貴方を助けようとメルト村の村長殿に必死で懇願したのです。私達も主様が許した者に危害を加えるのは気が引けるのです。ですからこれが最後です。・・・来た道を戻りなさい。」
エントが神力を立ち昇らせると数え切れない程の森の草木が神力を纏い威嚇するようにアグノスたちに狙いを定める。
アグノスは生唾を飲み込み、唖然とするクーランドの肩に手を置く。
「・・ク、クーランド・・ひ、引くぞ・・」
「あ、あぁ・・・そ、その案に賛成だ・・」
アグノスは震えなから最上級精霊達に一礼する。
「お、俺達は撤退する。そ、それと・・レバイト団長の事・・すまなかった。そして・・ありがとう・・・」
こうしてアグノス率いる特級帝国騎士団は一人も欠けることなく森を抜けるのであった。
エント達が去ってゆく帝国騎士団の背中を眺めながら肩を落とす。
「・・・この私が人間を説得するとは・・私も主様達の影響を受けているようですね・・・」
「ふふ・・でも恥ずべき事ではないわ。主様達のような人間ばかりなら誰も泣く事のない世界が出来るのですから。」
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