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第126話 神界では・・・

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仄かな灯りが灯る執務室で大きくゆったりとした椅子に疲れ切った身体を預けて天井を眺める男が一人・・・

「はぁ・・在庫管理の奴に口止めしておくべきだった・・・くそっ!在庫管理なんざ適当で良いのに・・クソ真面目な悪魔め!!・・そういえばルビラスの馬鹿のせいでこの世界に制御不能の炎獄級の魔物が解き放たれたんだったな・・・この世界に神獣八岐大蛇を倒せる奴はいないだろう・・あれから1ヶ月以上経つがどれだけの生物が死んだんだ・・・だけど冥界からは何も言って来ないな・・・まあ、取り敢えず見てみるか・・・はぁ・・」

暗黒神ドルゲルは炎獄級の封印の宝玉を紛失した責任を取らされ〈大暗黒神ラルフェラ〉から新たな封印の宝玉を作るようにに命ぜられたのだった。下界に放った炎獄級の魔物の事も忘れて新たな炎獄級の魔物を探して神界の広大な暗黒の森を1ヶ月以上も探し回ったのだ。

そしてドルゲルは恐る恐る執務室の大きな鏡に下界の様子を映し出した。

(確か・・あのサキュバスは東の方に向かったはず・・・おっ・・ここだ僅かだが神力が残っている・・・どれ・・)

ドルゲルは東の森の中を映し出すと八岐大蛇の神力を追って森の中を進んで行く。そして魔物が通ったはずの森に違和感を覚えた。

「んんっ?八岐大蛇がここを通って行ったのは確かなはずだが・・・森の中が綺麗過ぎる・・・もっと荒れていても不思議じゃないんだが・・・まあいい・・・んんっ?」

ドルゲルはある地点に差し掛かり息を飲んだ。そこには僅かに残る八岐大蛇の神力が爆発したように広がり途絶えていた。そして更に微弱な神力と1ヶ月経ってもはっきりと残る強力な神力が漂っていた・・・

「な、何だ・・・ここで何が起こったんだ・・?!まるで爆心地だ・・・八岐大蛇の神力がここで途絶えているという事は・・・ここで八岐大蛇を倒した奴等がいる・・・しかも1000体の強力な魔物を倒しながら・・・この脆弱な世界の住人共が?!信じられん・・・それにこの神力の残り香・・・あの村にいた奴とは違うな・・・一体この世界に何が起きているんだ・・・」

ドルゲルは森の中から出て周りを映すとウィランダの街が視界に入った。近付いて街の様子を見れば子供が走り回り、大人達も普通に笑い合っていた。まるで何事も無かったように・・・

「あの街・・・無事なのか・・?まさか・・あの街の奴等が?!・・・そんな訳・・・んんっ?!神力?!・・・弱いがさっき感じた神力だ・・どこだ・・・」

ドルゲルが神力を辿るとギルドの中の飲食スペースで女の子と談笑している男を見つけた。

「くっ!楽しそうにしやがって・・・こんな奴が神力を・・・んっ?!こいつの神力・・何処かで・・よし・・・捕まえて来たアレを使ってみるか・・・ククッ・・」


世界神ゼムスが顎を撫でながら首を傾げる。

「この世界に八岐大蛇・・・そしてドラゴニュートとコカトリスのスタンピード・・・おかしいのう・・ワイバーンやリザードマンなら分かるが・・・どう思うヘルビスよ・・」

ヘルビスもゼムスの質問に腕組みをする。

「確かにこの世界のバランスを著しく狂わすスタンピードである事は確かです。あのレベルの魔物がいる事自体がまず有り得ない事でしょう。しかし・・可能性があるとすれば・・〈大暗黒神ラルフェラ〉殿が管理する封印の宝玉なら・・・有りえるかと・・・」

「やはりそう思うか・・封印の宝玉は元は暗黒の森の生態系を守る為に突然変異で生まれた強力な魔物や大量発生した魔物を封印する為に出来た物だ・・・まず下界に居るはずが無いのだ・・・これは・・・確認する必要があるな・・・」


「ゼムス様・・お呼びでしょうか?」

ゼムス達の居る部屋に現れたのは、背はすらっと高く、黒く長い髪に肩を露にした漆黒のドレスがスタイルの良い身体のラインを流れるように包み込んだ美しい女性が立っていた。

「おぉ。ラルフェラ来たか。お主に聞きたいことがあるのだ。まぁ、座ってくれ。」

「はい。」

ラルフェラは優雅な所作で椅子に座り円卓に着いた。

「ふむ。早速だがラルフェラよ。1ヶ月前に地上でスタンピードが起こったのだ。その中にドラゴニュートやコカトリス・・・更には八岐大蛇がいたのだ。・・・何か心当たりはないか?・・ん?どうしたラルフェラ・・」

ラルフェラはゼムスの話しを聞き途中から俯き肩を震わせていた。

「も、も、申し訳ございません!!!い、1ヶ月に炎獄級の封印の宝玉が一つ紛失していました・・何度も確認したのですが見つからず・・・そ、それで管理を担当していた部下に1ヶ月間暗黒の森の調査と炎獄級の封印の宝玉の作成を命じたのですが炎獄級の魔物は居なかったと報告を受けております。」

ラルフェラは頭を円卓に付けんばかりに俯きゼムスの返答を待った。

「ふむ。やはりそういう事か・・・それでその担当は誰だ?」

「はい。ドルゲルでございます。」

ゼムス、ヘルビス、ユラミスは顔を見合わせて予想通りだと頷く。

「ラルフェラよ。頭を上げよ。起きてしまった事は仕方ない。これから同じ間違いをせぬように努めれば良い。」

「は、はい。肝に銘じます・・・あ、あの・・それで地上は・・地上は・・どうなったのでしょうか?」

ラルフェラは恐る恐る顔を上げて上目遣いでゼムスの顔を見る。

「あぁ・・その事か。全部地上の冒険者達が倒したぞ。だから心配せんで良い。」

「ふえっ?!・・・八岐大蛇を・・ですか?ドラゴニュートやコカトリスもいたはずですが・・・」

ラルフェラは疑いの眼でゼムスを見る。

「ゼムス様・・お気遣いは無用です。恐らく地上は危機に面したはずです。恐らく私の尻拭いをゼムス様がされたずです。大変申し訳ございません・・・私はこの責任を・・・」

ゼムスは大きなため息を一つ吐く。

「はぁ・・・ラルフェラよ!聞こえなかったのか?地上の冒険者達が倒したのだ!!何なら八岐大蛇はワンパンだ!ラルフェラよ!地上の冒険者達を甘く見るな!・・もう一度言う。これから同じ間違いを犯さないよう肝に銘じよ!もし、この件で礼をしたいのならこの者達にせよ!」

ゼムスは大きな鏡を指差した。ラルフェラは鏡に目を移して声が詰まる。そこには眉間に皺を寄せながらテーブルマナーの指導を受けるサーシャと女の子と談笑するログの姿があった。

「そ、そんな・・・こ、こんな子供が・・八岐大蛇を・・・ワンパン?!ゼ、ゼムス様・・冗談が過ぎます・・・」

「ふふっ・・ラルフェラ様、見た目だけで判断してはいけません。この女の子は〈大天界神の加護〉を持つ光のメイシスの使徒です。そしてこちらの男の子はヘルビス様の〈伝令神の加護〉を持っているのです。」

隣に座っていたユラミスが微笑みながらラルフェラに話しかけるとラルフェラの目がみるみる大きくなりユラミスの肩を揺らす。

「な、何ですって?!ヘルビス様の加護を?!こ、この子供が・・・な、何百年もお眼鏡にかなう者が無かったのに・・・世界を変動させる加護を・・・」

「ラルフェラ殿。このログという少年は今はまだ覚醒し始めたばかりだ。潜在能力は計り知れんぞ!これからますます楽しみだ!・・そうだ!ラルフェラ殿もたまには息抜きでここに来たらいい。面白いものが見れるぞ?」

ヘルビスがワイングラスを傾けながら楽しそうに笑うと少し頬を赤らめてラルフェラが目を逸らす。

「は、はい。・・・そ、それより・・光のメイシスの使徒が現れたという事は・・もしやルビラスの一件でしょうか?」

「うむ。・・3年後に覚醒するのだ。本来の神の力は無いが神界の力は使える。この力に対抗出来るのは光のメイシスの使徒だけだろう。だが心配する事はない。使徒でさえ八岐大蛇をワンパンで仕留めるのだぞ?皆で力を合わせれば大丈夫だ。それにルビラスの一件の責任はお前の父が取ったのだ。ラルフェラよ。そう気に病むな。・・・良いな?」

ゼムスは表情を緩ませ我が娘に語りかけるようにラルフェラを見た。

「・・はい。ありがとうございます・・・あの・・ゼムス様。またここに来てもよろしいですか?」

「うむ。いつでも来るといい。お主もその目で確かめたらいい。今の世界を。」

「は、はい・・ありがとうございます。それでは失礼致します。」

ラルフェラは少しびっくりした。ゼムス達が言う”大丈夫”と言う言葉がいまいち信じられなかったのだ。八岐大蛇をワンパンで倒したなど冗談としか思っていなかった。恐らく自分の事を気遣って言っていると思って困らせるつもりで言ったのだがゼムスの即答に困惑するのだった。



暗黒神ドルゲルの目の前に深い赤色と漆黒を基調とした着物を着た黒髪の冷たい表情の女性がいる。

「ククッ・・・お前は今日からイグと名乗って地上の様子を探ってくるんだ。・・・お前には拒否権はない。妙な真似をすればお前の仲間がどうなるか分かっているな・・・?」

「・・・はい・・・」

「それと困った事があったら魔王城のゼルビスを訪ねろ。いいな?」

「・・・はい・・・」

「ふん!愛想も糞もない奴だな・・・まあいい・・・〈転移〉!」

女性の足元に転移魔法陣が展開される。女性は転移魔法陣に消えて行く瞬間まで刺すような冷たい目でドルゲルを見ていたのであった。

はん!可愛げのない奴だ。それにしてもとんだ拾い物だったな。・・・それに俺は嘘は言ってないからな。言われた炎獄級は居なかったんだ。・・・だけど煉獄級はいたんだ。だって聞かれていないからな・・・だけどさすが煉獄級だったな・・・人質を取らずにまともにやり合ってたらどうなるか分からなかったぞ・・・冥界蛇イグ・・・神に近い力を持つ暗黒の森最強の魔物・・まさか本当にいたとはな・・・ククッ・・・
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