上 下
111 / 199

第111話 メルト村襲撃 5

しおりを挟む
レバイドは目の前に現れた四体の精霊達が年端も行かない子供に跪き、嬉々として四方に消えて行く姿を見上げていた。

「あ、あれは・・・せ、精霊なのか?あ、あんなにはっきり存在が見える精霊・・相当上位の精霊だぞ・・・そ、それが四体も・・・」

騎士団長レバイドは過去に一度だけ精霊を見た事があった。
過去にエルフの住む村を襲ったが村を守る精霊達に返り討ちにあったのだ。レバイドの脳裏に苦い思い出が蘇った。

(こ、この村は何なんだ?!・・・一体どんな村なんだ?!・・・そ、それにあのガキは・・・だ、だが・・俺達は誇り高き帝国騎士団なんだ!・・・こうなったら・・外にいる奴らも呼んで・・・)

しかしレバイドが部下に命令をしようとした時であった・・・

「ぎやぁぁぁぁぁ!!!」
「誰かぁぁ!た、助けてくれぇぇぇ!!!」
「俺の腕がぁぁぁ!!足がぁぁぁ!!」
「寄るなぁぁぁ!!来るなぁぁ!!うぎぁぁぁ!!!」
「止めてくれぇぇぇ!!助けてぇぇ!!」
「森が!!!森がぁぁぁ!!!ぎゃぁぁぁぁ!!!」

突然、村の四方から同時に男達の悲痛な悲鳴が轟いた・・・

「な、何だ?!どうした?!何が起こってる?!・・・誰か!!誰かぁぁぁ!!報告しろ・・・ほ、報告しろぉぉぉぉぉぉ!!!」

レバイドはメルト村の住人達の魔力と闘気に膝をカタカタと震わせていた。そして部下のものであろう悲鳴が鼓膜を震わせ恐怖の余り張り上げた声がメルト村に響き渡るのであった・・・



「お母さん・・・悪い人達が来ているの?」
「そうね。だけど大丈夫よ。お父さんや村長さん達がやっつけてくれるわ!」

母親がアイラの頭を撫でながら微笑みかけて抱きしめた。

ばりぃぃぃん!!!

「えっ?!な、何?!誰?!」

静寂を打ち破るように窓ガラスが砕け散り男が家に入って来た。

母親はアイラ前に出て我が娘を守るように立ちはだかった。

「誰?!何者?!」

「ふん!そのガキは人質だ!!もらって行くぞ!!”闇の力を持って敵を拘束せよ!〈シャドーバインド〉!!!」

「きゃっ!!!な、何を?!」

どさぁ!!

「お母さん!!!」

ゼガルが放った黒い影が母親を包むと身動きが出来ずに床に転がった。
アイラは縋るように母親に駆け寄りゼガルを睨みつける!

「何をするの?!止めて!!お母さんに酷い事しないで!!大人の癖に悪い事が分からないの?!」

5歳のアイラの言葉に痛い所を突かれゼガルは眉間に皺を寄せる。

「な、生意気なガキだ!!どうせこの村はもう終わりだ!!とっとと来い!!」

「止めなさい!!娘に触らないで!!!」

ゼガルは母親が叫ぶのをお構いなしにアイラに手を伸ばした。
しかしその瞬間!温かい魔力の波と共にアイラと母親が蒼白い光に包まれた!

「何だ?!この凄まじい魔力は?!何が起こってる?!」

ゼガルがアイラから飛び退いた。

「な、何・・・?この魔力は・・・凄いよお母さん!!・・・力が・・・」

アイラは自分の両手を見つめながら湧き出る力に震えていた。

(この魔力は・・ミハエル君ね・・・助かったわ・・・取り敢えずこの魔法を解かないと・・・)

「うんっ・・・!!はぁぁっ!!!」

母親が床に転がったまま魔力を高め気合を入れると身体から蒼白い光が湧き上がり身体に纏わりつく黒いモヤが消えた。
そして母親はゆっくりと立ち上がりゼガルにニヤリと笑いかける。

「な、何ぃぃぃぃ!!!こ、こんな村の女ごときに俺の魔法が打ち消されただと?!こ、この村の奴等はどうなっているんだ?!」

そしてゼガルは森で会ったニーナ達の事を思い出していた・・・

(あ、あんな馬鹿げた強さのガキ共の親か・・・クソッ!こ、この村は・・・不味いぞ・・)

「ふふっ・・あんた達は運が良いのよ・・・メルト村の最高戦力が観られるのだから・・その子にしてみればあなた達なんて吹けば飛ぶ塵みたいな物よ・・・今なら遅くないわ。大人しく自分のした事を懺悔して謝れば許してもらえるわ。どうする?」

母親が一歩前に出るとゼガルは母親から立ち昇る魔力に圧倒されて後ずさる。そしてゼガルは母親の言葉に違和感を感じた。

「くっ!・・最高戦力だって?!・・・ん?!・・ちょっと待て・・その子?!・・ま、まさかこの村の最高戦力は子供だと言うのか?!」

「ふふ・・そうよ。名前はミハエル君よ。私の20歳下よ!ミハエル君がこの村の女性や子供達をあんた達みたいな者から守る為に力をくれたの。あんた達ごときが人質に取れる人間はこの村にいないわ!!さあ!大人しく謝るか痛い目を見てから謝るか・・それとも・・死ぬ?」

母親は魔力を溢れさせて仁王立ちになる!

(くそっ!!こ、この村に盗賊や山賊が手を出さない理由・・・それは俺達の思う弱者がいないんだ・・・そう・・目の前の女子供にでさえ・・俺は・・勝てんのだ・・クソッ!ここは・・退却・・・っ?!)

しかしアイラはゼガルが逃げ腰になったのを感じて一瞬でゼガルの目の前に現れた。

「なっ?!」

「あんたはお母さんに酷いことをした・・・それは謝っても私は許さない・・・更にあんたは私を人質にして村をめちゃくちゃにしようとした・・・絶対に許さない・・・あんた達みたいなクズは絶対に許さない・・・メルト村は・・・あんた達を絶対に許さない・・」

アイラの闘気と魔力がミハエルの魔法を受けて爆発的に高まる!
アイラの称号は〈聖闘士〉超レアな称号である。それは魔力を闘気に変え爆発的な攻撃力を得られるのである。

アイラの小さな身体から赤い闘気が溢れ出し身体を包み込むとアイラの怒りを象徴するように髪の毛が闘気の流れに乗って逆立ち靡いていた。

(な、何なんだこの力は?!可視化出来るほどの力だと?!そ、それも・・・こんなガキが・・・う、動けん・・ここで背を向けたら・・やられる・・・)

「ま、待て・・待ってくれ・・わ、分かった!謝る!!お、俺が悪かった!!!」

しかしゼガルのその場凌ぎの言葉はアイラの耳には届く事は無かった・・

「絶対に許さない・・お母さんを傷付ける奴を・・喰らえ!!これはぁぁぁぁ!!!お母さんを傷付けた分よぉぉぉぉぉ!!!」

アイラは膨大な闘気を乗せた小さな拳を怒りのままゼガルに放った!
そしてゼガルがアイラの拳に見たものは巨大なドラゴンが口を開き迫り来る光景であった・・・

「た、助け・・・」

ずどぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉん!!!!

「ぐべぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」

(・・・や、やはり・・こ、この村に・・手を出すべきでは無かった・・・ごぶっ・・)

アイラの強烈なアッパーカットがゼガルの腹に突き刺さり家の屋根を突き破り吹っ飛んで行った。

「ふん!!大人の癖に大した事ないわね!」

アイラはパンパンと手を払い天井に空いた穴を眺めるのであった。



「ここだ!!行くよ!!・・うあっ!!」
「何だ?!何が起こった?!」

駆け付けたラルとイルグが何が壊れるような音を聞き見上げると屋根から打ち上げられ身体をくの字に曲げたまま吹っ飛んで行くゼガルの姿があった・・・

「あぁ・・・そうか・・ミハエル君の魔力をもらったアイラを・・怒らせたな・・・馬鹿な奴・・」

「はは・・ミハエル君の魔力を・・全て闘気に・・・はは・・少しだけ同情するよ・・・ぶるっ」

ラルとイルグは村の入り口の方へ飛んで行くゼガルを憐れみの目で見送るのであった。
しおりを挟む
感想 17

あなたにおすすめの小説

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。

落ちこぼれの烙印を押された少年、唯一無二のスキルを開花させ世界に裁きの鉄槌を!

酒井 曳野
ファンタジー
この世界ニードにはスキルと呼ばれる物がある。 スキルは、生まれた時に全員が神から授けられ 個人差はあるが5〜8歳で開花する。 そのスキルによって今後の人生が決まる。 しかし、極めて稀にスキルが開花しない者がいる。 世界はその者たちを、ドロップアウト(落ちこぼれ)と呼んで差別し、見下した。 カイアスもスキルは開花しなかった。 しかし、それは気付いていないだけだった。 遅咲きで開花したスキルは唯一無二の特異であり最強のもの!! それを使い、自分を蔑んだ世界に裁きを降す!

前世は最強の宝の持ち腐れ!?二度目の人生は創造神が書き換えた神級スキルで気ままに冒険者します!!

yoshikazu
ファンタジー
主人公クレイは幼い頃に両親を盗賊に殺され物心付いた時には孤児院にいた。このライリー孤児院は子供達に客の依頼仕事をさせ手間賃を稼ぐ商売を生業にしていた。しかしクレイは仕事も遅く何をやっても上手く出来なかった。そしてある日の夜、無実の罪で雪が積もる極寒の夜へと放り出されてしまう。そしてクレイは極寒の中一人寂しく路地裏で生涯を閉じた。 だがクレイの中には創造神アルフェリアが創造した神の称号とスキルが眠っていた。しかし創造神アルフェリアの手違いで神のスキルが使いたくても使えなかったのだ。  創造神アルフェリアはクレイの魂を呼び寄せお詫びに神の称号とスキルを書き換える。それは経験したスキルを自分のものに出来るものであった。  そしてクレイは元居た世界に転生しゼノアとして二度目の人生を始める。ここから前世での惨めな人生を振り払うように神級スキルを引っ提げて冒険者として突き進む少年ゼノアの物語が始まる。

休憩スキルで異世界無双!チートを得た俺は異世界で無双し、王女と魔女を嫁にする。

ゆう
ファンタジー
剣と魔法の異世界に転生したクリス・レガード。 剣聖を輩出したことのあるレガード家において剣術スキルは必要不可欠だが12歳の儀式で手に入れたスキルは【休憩】だった。 しかしこのスキル、想像していた以上にチートだ。 休憩を使う事でスキルを強化、更に新スキルを獲得できてしまう… そして強敵と相対する中、クリスは伝説のスキルである覇王を取得する。 ルミナス初代国王が有したスキルである覇王。 その覇王発現は王国の長い歴史の中で悲願だった… それ以降、クリスを取り巻く環境は目まぐるしく変化していく… ※小説家になろう、カクヨムでも掲載しております。

「残念でした~。レベル1だしチートスキルなんてありませ~ん笑」と女神に言われ異世界転生させられましたが、転移先がレベルアップの実の宝庫でした

御浦祥太
ファンタジー
どこにでもいる高校生、朝比奈結人《あさひなゆいと》は修学旅行で京都を訪れた際に、突然清水寺から落下してしまう。不思議な空間にワープした結人は女神を名乗る女性に会い、自分がこれから異世界転生することを告げられる。 異世界と聞いて結人は、何かチートのような特別なスキルがもらえるのか女神に尋ねるが、返ってきたのは「残念でした~~。レベル1だしチートスキルなんてありませ~~ん(笑)」という強烈な言葉だった。 女神の言葉に落胆しつつも異世界に転生させられる結人。 ――しかし、彼は知らなかった。 転移先がまさかの禁断のレベルアップの実の群生地であり、その実を食べることで自身のレベルが世界最高となることを――

おもちゃで遊ぶだけでスキル習得~世界最強の商人目指します~

暇人太一
ファンタジー
 大学生の星野陽一は高校生三人組に事故を起こされ重傷を負うも、その事故直後に異世界転移する。気づけばそこはテンプレ通りの白い空間で、説明された内容もありきたりな魔王軍討伐のための勇者召喚だった。  白い空間に一人残された陽一に別の女神様が近づき、モフモフを捜して完全復活させることを使命とし、勇者たちより十年早く転生させると言う。  勇者たちとは違い魔王軍は無視して好きにして良いという好待遇に、陽一は了承して異世界に転生することを決める。  転生後に授けられた職業は【トイストア】という万能チート職業だった。しかし世界の常識では『欠陥職業』と蔑まされて呼ばれる職業だったのだ。  それでも陽一が生み出すおもちゃは魔王の心をも鷲掴みにし、多くのモフモフに囲まれながら最強の商人になっていく。  魔術とスキルで無双し、モフモフと一緒におもちゃで遊んだり売ったりする話である。  小説家になろう様でも投稿始めました。

異世界転生した俺は平和に暮らしたいと願ったのだが

倉田 フラト
ファンタジー
「異世界に転生か再び地球に転生、  どちらが良い?……ですか。」 「異世界転生で。」  即答。  転生の際に何か能力を上げると提案された彼。強大な力を手に入れ英雄になるのも可能、勇者や英雄、ハーレムなんだって可能だったが、彼は「平和に暮らしたい」と言った。何の力も欲しない彼に神様は『コール』と言った念話の様な能力を授け、彼の願いの通り平和に生活が出来る様に転生をしたのだが……そんな彼の願いとは裏腹に家庭の事情で知らぬ間に最強になり……そんなファンタジー大好きな少年が異世界で平和に暮らして――行けたらいいな。ブラコンの姉をもったり、神様に気に入られたりして今日も一日頑張って生きていく物語です。基本的に主人公は強いです、それよりも姉の方が強いです。難しい話は書けないので書きません。軽い気持ちで呼んでくれたら幸いです。  なろうにも数話遅れてますが投稿しております。 誤字脱字など多いと思うので指摘してくれれば即直します。 自分でも見直しますが、ご協力お願いします。 感想の返信はあまりできませんが、しっかりと目を通してます。

成長チートと全能神

ハーフ
ファンタジー
居眠り運転の車から20人の命を救った主人公,神代弘樹は実は全能神と魂が一緒だった。人々の命を救った彼は全能神の弟の全智神に成長チートをもらって伯爵の3男として転生する。成長チートと努力と知識と加護で最速で進化し無双する。 戦い、商業、政治、全てで彼は無双する!! ____________________________ 質問、誤字脱字など感想で教えてくださると嬉しいです。

処理中です...