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第70話 大人のくせに・・

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ミハエルはアンリルの脇を肘で突く。

(アンリルさん!気付いてる?)
(えっ?あぁ、さっきから魔力が使いずらいわね・・?!)
(私は魔力が全然使えないですよ?!)

やっぱりね・・・でもこれで動きやすくなったよ。

ふう。これで此奴らは魔法は使えまい。だがこのマジックアイテムの欠点は自分達も使えなくなる所だな。

セルフィア王はアンリルから感じる魔力が小さくなり安心していた。

この謁見の間には〈魔力封じ〉の魔法陣が展開されていた。これは自分より優れた魔法使いが現れた時に捕える作戦であった。玉座の水晶玉と4個の水晶玉を五芒星の頂点に置くことで発動しこの部屋にいる者は魔力を使えなくなる。
そこを魔法を必要としない騎士により捕えるのだ。

安心したセルフィア王は気を取り直して深呼吸をするとアンリル達を見下ろす。

「賢者アンリルよ。遠路遥々よくぞ参った。
だがその前に・・話をしなければならぬ者がおるので暫し待ってくれ。」

セルフィア王がサリアを睨み付ける。

「サリア!!お前は何故〈八星魔導士〉達を裏切ったのだ?!事と次第によれば厳罰にするぞ!!」

しかしサリアはセルフィア王の威圧的な言葉をさらりと受け流し飄々と話す。

「はい。王様。私は裏切ったのではありません。ミゲル隊長から役立たずだと言われ先程解雇されました。隊長命令です。私はここを解雇され行き場を失った所を大賢者アンリルさんに拾って頂いたのです。」

「何?!それは誠か?!・・・よ、よし!わしがその解雇を取り消してやろう。それで良かろう?」

しかしサリアはゆっくりと首を振りセルフィア王を真っ直ぐ見つめる。

「恐れながら・・お断り致します。私はあんなグズの集団には2度再び戻りたくありません。あの人達は身体は大人ですが頭は子供です!セルフィア王国の恥と言っても過言ではありません!
私は魔導が好きなんです!私がどこまで出来るか試したい!!魔導を極めたいんです!!だから大賢者アンリルさんとミハエル君に付いて行きます!!
そしてアンリルさんとミハエル君の元で魔法を学び魔導の極みを目指します!!」


セルフィア王はサリアの決意に満ちた眼差しに圧倒されていた。
そしてサリアの言葉が胸に刺さった・・・
若かりし日の自分が同じ事を言っていたのだ。

「俺は魔導が好きなんだ!!」と・・・

セルフィア王は若かりし日の自分とサリアをダブらせた・・・しかしサリアは魔力測定で石板を金色に光らせたのだ。
自分より才能ある者を外へ出す訳には行かなかった・・・

「駄目だ!!お前はセルフィア王国で魔導を極めれば良い!!セルフィア王国から出る事は許さぬぞ!!」

セルフィア王が玉座から立ちあがろうとした瞬間!背筋に悪寒が走った・・・

ぐっ・・何だ・・この圧力は・・何が・・

「ねえ・・王様。何故サリアさんの人生を王様が決めるの?何故サリアさんがやりたい事を王様が握り潰すの?・・・王様だからって我儘が過ぎると・・・許さないぞ?!」

ミハエルは静かな怒りを吐き出し立ち上がると神力が溢れ出す!

「な、何故だ?!何故この部屋で魔力が使える?!何なんだお前は?!・・・いや・・まて・・それは魔力じゃ・・ない・・・?!」

セルフィア王は嫌な汗を垂らしながら昔読んだ文献の中の言葉に辿り着く・・・

〈人の魔力を昇華し神の魔力とする。即ちそれが・・・〉

「・・・神力・・」

無意識に口から溢れた・・

「ご名答!!王様の言う通りミハエル君は神力を使えるのよ!こんなチンケな〈魔力封じ〉ではどうにもならないわよ?
ちなみに私もミハエル君程ではないけど使えるわよ?ほら!」

アンリルは立ち上がり胸を張ると掌の上に拳大の氷を作り出した。

「な、な、何なのだ?!お、お前達は!!魔法でわしの常識を遥かに凌駕するな!!クラインド王国には何があるんだ?!わしを差し置いて魔法の何を隠している?!答えろぉぉぉぉぉ!!!!」

セルフィア王はミハエルの威圧の中無理矢理立ち上がりよろよろとアンリルに向かってくる。

しかしアンリルはあっけらかんとして鞄から赤い封蝋印のされた手紙を取り出しセルフィア王の前に差し出した。

「はい。これはクラインド王から預かった手紙よ!」

「な、何を・・・」

セルフィア王は震える手で手紙を受け取り封を切り手紙を広げる。


セルフィア・ガルンド王へ

久しくお顔を見ておりませんがいかがお過ごしでしょうか。

 先日、我が国の学園に魔獣を放った愚か者達を処分致しました。
その者が言うにはセルフィア王の命令を受けたとの事。
事の真相を確認すべく我が国最強の魔法使いを使いに出す事に致しました。
名はミハエルです。
おすすめはしないが争うもよし、謝罪するもよし、お好きにされたし。

追伸 次会うときに五体満足である事を祈っております。



くっ!クラインド王め・・・全て知った上で・・何と嫌味な奴だ・・・

セルフィア王はワナワナと震え感情に任せて手紙を握りつぶす。

「おのれぇぇ!!クラインド王め!!わしを馬鹿にしおって!!
貴様がミハエルだな?!お前には聞く事がある!!この国から出られると思うな?!
此奴らを捕らえて牢にぶち込んでおけ!!」

セルフィア王はいつものように感情に任せて声を上げると20人の騎士が槍を構えてミハエル達を取り囲んだ。

アンリルは呆れた顔でセルフィア王に指を指す!

「ふっ・・最後の警告よ!馬鹿な事はせずにさっさと頭を下げた方が良いわよ?」

アンリルさん・・だから・・それは挑発してるんだよ!!

「ふん!!強がりはよせ!!この状況で何が出来るんだ?!やれるものならやって・・・」

「〈パラライズ〉」

どさっ!どさっ!どさっ!ばたっ!!

ミハエルの一言で20人の騎士達が動けずに倒れて行く!そして床に転がって声も出せずにもがいていた。

「やってみましたけど・・な・に・か?」

ミハエルは口元を緩めて首を傾げた。

「な、何をした?!貴様!!何をしたんだ?!・・・くっ・・〈古代魔法〉か?!」

「そうだよ。王様は〈古代魔法〉を見たかったんだよね?・・言っておくけど王様には素質がないから〈古代魔法〉は使えないよ。」

「何だと?!お前に使えてこのセルフィア王に使えない訳はないわ!!」

ミハエルは肩をすくめてため息を吐く。

「はあ、、はいはい。何を言っても無駄だね。本当に大人のくせに子供だね。
クラインド王からは〈古代魔法〉をその身体に教えてあげなさいって言われてるんだよね・・・そんなに聞き分けが無いなら覚悟してね!」

セルフィア王は顔を真っ赤にして剣を抜きミハエルに襲い掛かる!!

「貴様ぁぁぁぁ!!!お前ごときに何が分かる?!ガキが調子にのるなぁぁぁぁぁぁ!!」

「仕方ないね・・・〈スロウ〉!」

ミハエルがセルフィア王の素早さを1/10にすると身体に重りを載せられたかのようにゆっくりと剣が振り下ろされる。

なっ?!こ、これが・・・〈古代魔法〉・・

「使い慣れない剣なんか振り回すと危ないよ!・・〈ベンドバー〉!」

セルフィア王の持つ剣がぐにゃりと真っ二つに折れ曲がる!!

古代魔法〈ベンドバー〉は鉄のような金属を曲げる魔法であり金属の武器相手に絶大な効果を発揮するのである。

セルフィア王は思うように身体が動かず剣は曲がりゆっくりと床に転がった。

ごとんっ・・・

お、おのれ・・・こんなガキに・・・いいように・・・

「ねえ・・聞き分けのない王様!これはクラインド王からの罰だよ!!
”セルフィア王!今日この時から己の我儘で他人の自由を奪うな!!”古代魔法〈ギアス〉!!」

ミハエルがセルフィア王に手をかざすと身体が薄らと輝きそのまま光がセルフィア王の中に消えて行った。

古代魔法〈ギアス〉・・相手に〈してはいけない事〉を禁じる魔法である。これを破るとその度に身体に耐え難い激痛が走るのである。当然その激痛は術者の力に比例するのであった・・・


ミ、ミハエル君・・えげつない魔法を使うわね・・・これは・・・セルフィア王に少しだけ同情するわ・・・ご愁傷様・・・

アンリルは容赦ないミハエルの魔法に戦慄が走るのであった。
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