上 下
53 / 81

第53話 ロディアス商会本店

しおりを挟む
「失礼致します。身分証を拝見致します・・」

長身で気怠そうな雰囲気の若い男がユフィリアとゼノアを見下ろす。

「あーはいはい。」

ユフィリアは懐から証明書を取り出すとどうだと言わんばかりに広げて見せた。

(セルバイヤ王国・・・ユフィリア・セルバン子爵・・・ふーん・・田舎貴族か・・・ん?あの後ろのガキは・・・これには子供は娘でアメリとあるが・・・)

「セルバン子爵様。ありがとうございました。時にそのお子様は・・・」

男は怪訝な顔でゼノアを見下ろす。

「あっ。そうね・・ゼノア君。アレを見せてあげなさい。」

「うん。」

ゼノアはカバンからアルバンから貰った札と証書取り出して警備の男に見せた。

「はい。これでいい?」

ゼノアが出した札と証書を見て警備の男の表情がみるみるうちに強張って行く・・・

「はぁぁっ?!ま、まさか!!そ、その札と証書は!!あ、あり得ん!!何故こんなガキが?!」

「あんた。言葉が汚くなってるわよ。聞いてないの?それはゼノア君がセルバイヤ王国からの帰路で盗賊に襲われたアルバン・ロディアスの命を救ったお礼よ。これがあれば貴族でなくても入れるわよね?分かったらさっさと道を開けなさい!!」

ユフィリアが苛つきながら一歩前に出る。しかし警備の男はあからさまに怪訝な表情を浮かべるとゼノアの手から札と証書を奪い取った。

「よこせ!!」

「あっ!何をするの!返して!!」

「ふん!駄目だな!!お前みたいなガキが盗賊からアルバン様を守った?!馬鹿馬鹿しい!!大方アルバン様から盗んだんだろう!!はん!確認が取れるまでこれは俺が預かってやるぜ!まっ、いつ確認取れるかは分からんがなぁ!!クックックッ・・・」

男はいやらしい表情を浮かべニヤついていた。

「・・・気持ちが良いくらいのクズね・・ロディアス商会の面汚しだわ・・・あんた早くそれを返さないと大変な事になるわよ?」

ユフィリア両眉を眉間に寄せ魔力を滲ませて男を睨みつける。その迫力に押されもう一人の男が後退りそのまま下がって行く・・・

「お、おい・・お、俺は知らないぞ・・・」

「ふ、ふん!腰抜けが・・・平民のガキは入れねぇって言ってるだけだ!おら!さっさとガキは帰れ!セルバン子爵様はお買い物をお楽しみください。」

男はユフィリアに嫌味な態度で頭を下げる。

「・・・これがクズって奴か・・・アルバンさんの感謝の気持ちを踏み躙るクズ・・・許さない・・ユフィリアさん・・・こいつ・・ぶっ飛ばしていい?」

ゼノアは爆破寸前の怒りを抑えながらユフィリアを見上げる。

「・・・えぇ・・私も今そう思っていた所よ。私が許すわ・・・死なない程度にぶっ飛ばしていいわ。」

ユフィリアはゼノアに頷くと獲物を見るような目で警備の男を見据える。

ゼノアも黙って頷くと警備の男を睨みつけ腰を落とす。

「はぁ?お前が俺をぶっ飛ばすって?何を言って・・・」

「五月蝿い・・黙れ!」

ゼノアはその場で軽く跳躍しその勢いで薄ら笑う男の顎を蹴り上げる!!

「なっ?!」

ばきゃぁぁぁ!!

「えぶおぉぉぉぉ!!!」

ゼノアの一撃を喰らい男の身体は身体は仰け反り顎は粉砕される!

「あ・・あぶ・・べぶ・・・」

男は何が起こったのかも分からず身体を起こそうとするが膝に入らずに崩れ落ちる。しかし崩れ落ちる瞬間に見たものは汚物を見るような眼差しで追撃の蹴りを放つゼノアの姿であった・・・

「あ・・・う・・や、やべべ・・・」

「クズは・・大嫌いだぁぁぁぁ!!!」

ゼノアは力強く踏み込み崩れ落ちる男の胸の真ん中に渾身の蹴りを放つ!

どがぁぁぁぁぁん!!!

「ごぶうえぇぇぇぇぇ!!!」

男の鎧は胸の部分はすり鉢状に凹み胸骨を粉砕しながらぶっ飛び店の入口の柱に激突する!

どっごおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉん!!!!

そしてその衝撃で入口の扉が吹き飛び装飾された色とりどりの窓ガラスが粉々に粉砕された・・・

「ふう。スッキリした!」

「うはー!ぶっ飛んだわねぇ!!これで邪魔なクズが一つ消えたわね・・・」

ユフィリアはそう言いながらもう一人の警備の男に獲物を見る目で視線を移す。

「えっ・・えぇっ?!あ、あの・・そ、その・・・」

男は目を丸くして危機感を覚える。そして咄嗟に落ちている札と証書にそそくさと駆け寄り拾い上げるとゼノアの前で両膝を付き丁寧に差し出した。

「た、大変失礼致しました。ようこそロディアス商会本店へ。ごゆっくりお楽しみください。」

(あ、あれが子供の攻撃力だと?!だ、駄目だ・・・逆らったら駄目だ・・・)

男は震える身体を抑え込みぎこちない笑顔を浮かべる。

「うん。ありがとう。」

ゼノアはさっきとは打って変わりニッコリ笑って札と証書を受け取った。

「そっ!じゃあ行きましょうか!後片付けよろしくね!」

「は、はい。かしこまりました・・・」

ユフィリアとゼノアは頭を下げて固まる男の隣を何事も無かったようにすり抜けて行った。そしてその二人の背中を見つめるアルバンとキメルの姿があった。

「お、遅かったか・・・あの男冒険者ギルドから臨時で雇ったと言っていたな。」

「はい。どうしても人がおらず今日一日だけ依頼したようです。」

「はぁ。キメル。冒険者ギルドにクレームを入れて修理代を請求しておいてくれ。それとゼノア君の事を全店舗に周知徹底するんだ。」

「はい。かしこまりました。早急に全店舗に周知致します。」

(・・とは言うものの・・・あの札と証書は全店舗でゼノア君を含めても五人しか持っていない物だ。何かとトラブルの元になりそうだな・・・だがゼノア君に関しては大丈夫だと思うが・・・)

ロディアス商会にとって札と証書は特別な物なのである。身内でも本当に認められた者にしか与えられない物であり欲しがる者も少なくないのである。その為ロディアス商会でも邪な考えを持つ者がゼノアにちょっかいを掛けた時の被害を目の前の有様を見て想像すると少し不安を感じるキメルであった・・・


ユフィリアとゼノアはロディアス邸に二日滞在した。その間ユフィリアはロディアス商会本店で気の済むまで買い物(無料)を楽しんだ。容赦のないユフィリアの買い物(無料)にアルバンとキメルの笑顔が若干引き攣っていたのは言うまでもない・・・


「ゼノア様ぁ!!本当にもう帰っちゃうのぉ?!」

イリアが身体をくねらせながら唇を尖らせる。

「うん。早く帰らないと・・・ね?」

ゼノアがアルバンの顔を見て苦笑いすると少し困った顔で笑顔を返した。そして荷馬車に詰め込まれた荷物に目をやる。

(ふっ・・・確かに・・・これ以上は・・)

「う、うむ。イリア。ゼノア殿にも帰る場所があって待っている人がいるんだ。聞き分けなさい。」

「うぶぶ・・・はい。」

イリアは全力で下唇を前に突き出して頷いく。

「まあ、私はもう少しいても良かったんだけどね!ゼノア君が帰るって言うから・・・」

ユフィリアが残念そうな顔でゼノアを見下ろすと頬を膨らませたゼノアが目を細めてユフィリアを見て小声で話す。

(もう!遠慮って事を知らないんだから!無料だからってやり過ぎだよ・・・)

(え・・あぁ・・まぁ、良いじゃない!こ、これは皆の命の代償と思えば安い物じゃない!私が護衛を買って出なかったら皆んな死んでたのよ?)

(・・・そ、それは・・そうだけど・・・)

ゼノアがユフィリアの言葉に怯むと空気を変えるようにアルバンが歩み寄りゼノアの手を取る。

「ゼノア殿。気にしないで欲しい。ゼノア殿がいなければ私はこの世には居ない。勿論ユフィリア殿が護衛をしてなければ同じ事だった。今後もゼノア殿が困った事があればこのアルバン・ロディアスが全力を尽くす事を約束する。何なりとお申し付けてくれ。」

「アルバンさん・・・」

ゼノアが固まっているとキメルもゼノアの元へ歩み寄り手を重ねる。

「ゼノア殿。私も微力ながらご協力させて頂きます。御用があればお近くのロディアス商会へお越しください。」

「はい。ありがとうございます。その時がきたらよろしくお願いします。」

ゼノアが笑顔で答えるとイリアも駆け寄って来る。

「わ、私は・・今度会う時はゼノア様を喜ばせるようなばいんばいんのボインになって待ってるわ!!」

「あ・・・そ、そう・・た、楽しみにしているよ・・・」

イリアの気合いの入った目に少しぎこちない笑顔を向ける。

(そ、そんな大っぴらに言われると・・・は、
恥ずかしいな・・・)

「さあ!行くわよ!」

「うん。それじゃあ!」

ユフィリアが意気揚々と修理された馬車に乗り込む。ゼノアも後を追いアルバン達に手を振りながら馬車に乗り込んだ。

馬車が走り出しゼノアが窓から顔を出すと小さくなっていくアルバン達が手を振り続けていた。ゼノアもそれに応え姿が見えなくなるまで手を振り続けるのであった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

S級冒険者の子どもが進む道

干支猫
ファンタジー
【12/26完結】 とある小さな村、元冒険者の両親の下に生まれた子、ヨハン。 父親譲りの剣の才能に母親譲りの魔法の才能は両親の想定の遥か上をいく。 そうして王都の冒険者学校に入学を決め、出会った仲間と様々な学生生活を送っていった。 その中で魔族の存在にエルフの歴史を知る。そして魔王の復活を聞いた。 魔王とはいったい? ※感想に盛大なネタバレがあるので閲覧の際はご注意ください。

神の手違い転生。悪と理不尽と運命を無双します!

yoshikazu
ファンタジー
橘 涼太。高校1年生。突然の交通事故で命を落としてしまう。 しかしそれは神のミスによるものだった。 神は橘 涼太の魂を神界に呼び謝罪する。その時、神は橘 涼太を気に入ってしまう。 そして橘 涼太に提案をする。 『魔法と剣の世界に転生してみないか?』と。 橘 涼太は快く承諾して記憶を消されて転生先へと旅立ちミハエルとなる。 しかし神は転生先のステータスの平均設定を勘違いして気付いた時には100倍の設定になっていた。 さらにミハエルは〈光の加護〉を受けておりステータスが合わせて1000倍になりスキルも数と質がパワーアップしていたのだ。 これは神の手違いでミハエルがとてつもないステータスとスキルを提げて世の中の悪と理不尽と運命に立ち向かう物語である。

退屈な人生を歩んでいたおっさんが異世界に飛ばされるも無自覚チートで無双しながらネットショッピングしたり奴隷を買ったりする話

菊池 快晴
ファンタジー
無難に生きて、真面目に勉強して、最悪なブラック企業に就職した男、君内志賀(45歳)。 そんな人生を歩んできたおっさんだったが、異世界に転生してチートを授かる。 超成熟、四大魔法、召喚術、剣術、魔力、どれをとっても異世界最高峰。 極めつけは異世界にいながら元の世界の『ネットショッピング』まで。 生真面目で不器用、そんなおっさんが、奴隷幼女を即購入!? これは、無自覚チートで無双する真面目なおっさんが、元の世界のネットショッピングを楽しみつつ、奴隷少女と異世界をマイペースに旅するほんわか物語です。

異世界へ全てを持っていく少年- 快適なモンスターハントのはずが、いつの間にか勇者に取り込まれそうな感じです。この先どうなるの?

初老の妄想
ファンタジー
17歳で死んだ俺は、神と名乗るものから「なんでも願いを一つかなえてやる」そして「望む世界に行かせてやる」と言われた。 俺の願いはシンプルだった『現世の全てを入れたストレージをくれ』、タダそれだけだ。 神は喜んで(?)俺の願いをかなえてくれた。 希望した世界は魔法があるモンスターだらけの異世界だ。 そう、俺の夢は銃でモンスターを狩ることだったから。 俺の旅は始まったところだが、この異世界には希望通り魔法とモンスターが溢れていた。 予定通り、バンバン撃ちまくっている・・・ だが、俺の希望とは違って勇者もいるらしい、それに魔竜というやつも・・・ いつの間にか、おれは魔竜退治と言うものに取り込まれているようだ。 神にそんな事を頼んだ覚えは無いが、勇者は要らないと言っていなかった俺のミスだろう。 それでも、一緒に居るちっこい美少女や、美人エルフとの旅は楽しくなって来ていた。 この先も何が起こるかはわからないのだが、楽しくやれそうな気もしている。 なんと言っても、おれはこの世の全てを持って来たのだからな。 きっと、楽しくなるだろう。 ※異世界で物語が展開します。現世の常識は適用されません。 ※残酷なシーンが普通に出てきます。 ※魔法はありますが、主人公以外にスキル(?)は出てきません。 ※ステータス画面とLvも出てきません。 ※現代兵器なども妄想で書いていますのでスペックは想像です。

称号チートで異世界ハッピーライフ!~お願いしたスキルよりも女神様からもらった称号がチートすぎて無双状態です~

しらかめこう
ファンタジー
「これ、スキルよりも称号の方がチートじゃね?」 病により急死した主人公、突然現れた女神によって異世界へと転生することに?! 女神から様々なスキルを授かったが、それよりも想像以上の効果があったチート称号によって超ハイスピードで強くなっていく。 そして気づいた時にはすでに世界最強になっていた!? そんな主人公の新しい人生が平穏であるはずもなく、行く先々で様々な面倒ごとに巻き込まれてしまう...?! しかし、この世界で出会った友や愛するヒロインたちとの幸せで平穏な生活を手に入れるためにどんな無理難題がやってこようと最強の力で無双する!主人公たちが平穏なハッピーエンドに辿り着くまでの壮大な物語。 異世界転生の王道を行く最強無双劇!!! ときにのんびり!そしてシリアス。楽しい異世界ライフのスタートだ!! 小説家になろう、カクヨム等、各種投稿サイトにて連載中。毎週金・土・日の18時ごろに最新話を投稿予定!!

異世界転生は、0歳からがいいよね

八時
ファンタジー
転生小説好きの少年が神様のおっちょこちょいで異世界転生してしまった。 神様からのギフト(チート能力)で無双します。 初めてなので誤字があったらすいません。 自由気ままに投稿していきます。

異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します

桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる

平凡すぎる、と追放された俺。実は大量スキル獲得可のチート能力『無限変化』の使い手でした。俺が抜けてパーティが瓦解したから今更戻れ?お断りです

たかたちひろ【令嬢節約ごはん23日発売】
ファンタジー
★ファンタジーカップ参加作品です。  応援していただけたら執筆の励みになります。 《俺、貸します!》 これはパーティーを追放された男が、その実力で上り詰め、唯一無二の『レンタル冒険者』として無双を極める話である。(新形式のざまぁもあるよ) ここから、直接ざまぁに入ります。スカッとしたい方は是非! 「君みたいな平均的な冒険者は不要だ」 この一言で、パーティーリーダーに追放を言い渡されたヨシュア。 しかしその実、彼は平均を装っていただけだった。 レベル35と見せかけているが、本当は350。 水属性魔法しか使えないと見せかけ、全属性魔法使い。 あまりに圧倒的な実力があったため、パーティーの中での力量バランスを考え、あえて影からのサポートに徹していたのだ。 それどころか攻撃力・防御力、メンバー関係の調整まで全て、彼が一手に担っていた。 リーダーのあまりに不足している実力を、ヨシュアのサポートにより埋めてきたのである。 その事実を伝えるも、リーダーには取り合ってもらえず。 あえなく、追放されてしまう。 しかし、それにより制限の消えたヨシュア。 一人で無双をしていたところ、その実力を美少女魔導士に見抜かれ、『レンタル冒険者』としてスカウトされる。 その内容は、パーティーや個人などに借りられていき、場面に応じた役割を果たすというものだった。 まさに、ヨシュアにとっての天職であった。 自分を正当に認めてくれ、力を発揮できる環境だ。 生まれつき与えられていたギフト【無限変化】による全武器、全スキルへの適性を活かして、様々な場所や状況に完璧な適応を見せるヨシュア。 目立ちたくないという思いとは裏腹に、引っ張りだこ。 元パーティーメンバーも彼のもとに帰ってきたいと言うなど、美少女たちに溺愛される。 そうしつつ、かつて前例のない、『レンタル』無双を開始するのであった。 一方、ヨシュアを追放したパーティーリーダーはと言えば、クエストの失敗、メンバーの離脱など、どんどん破滅へと追い込まれていく。 ヨシュアのスーパーサポートに頼りきっていたこと、その真の強さに気づき、戻ってこいと声をかけるが……。 そのときには、もう遅いのであった。

処理中です...