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Diary1.旅立ち

4.聞きたくなかった言葉

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 そんな、どうして……? なんで? どういうこと?
 頭の中がグルグルして止まらない。
 ほんとだったら早く船の人にお願いして止めてもらったりして、それからアンファンハーフェンに戻らなきゃいけない――戻りたいのに、頭と体がちぐはぐになって、思うように動いてくれない。
 その間にも、船はどんどん陸から離れていく。

 ど、どうしよう。
 何とか身体を動かして、船の中を歩き回る。どこかに人がいるはずだから。
 そうしたらお願いするんだ、何でもするから船をアンファンハーフェンに戻してください、って。じゃなきゃ、このままパパとママと離れ離れになっちゃうから。いやだ、いやだよ、離れ離れなんて……!!

 だって、今日は2人とも笑ってたじゃない。
 2人とも、わたしには優しいけど、お互いの中はあんまりよくなかった。
 いつもちょっとしたことで喧嘩になってしまって、そのたびに胸が痛くなって。
 でも、今日はずっとニコニコしてた。
 段々港に近付くにつれて表情が変わってしまっていたけど、朝わたしが起きたときから、しばらく外を歩いているときまで、ずっと2人とも笑っていた。

 あぁ、よかった。
 神様がわたしのお願いを聞いてくれたのかも知れない。
 そう思ってたのに。
 その輪の中からわたしだけ追い出されるなんて、そんなのいやだよ……っ!!

 そのとき、ぐらっと船が揺れた。たぶん、波が当たったんだと思う。
「わっ!?」
 倒れそうになって、思わず手を伸ばす。何かに掴まりたかった。涙で前が見えなくて、どうしようもないけれど、それでも何か持たないと倒れてしまうから。
 たぶん、倒れたらもう起き上がれない。
 でも、あれ、どうしよう、掴まれるところない――――っ!!

「わぶっ」
「おっと……!」

 ん、何かにぶつかった。もしかしたら声もしてたから人かも知れない! 慌てて涙を拭いて見上げると、そこには凄く大きな体をしたおじさんがいた。おじさんは、わたしを見下ろして「こんなところでどうしたんだい?」と尋ねてきた。
「助けてください!」
 もう、この人が船の人だとかそういうのは関係なかった。

「助けてください、わたしはさっきの港に戻りたいんです! 戻ってください! パパとママが待ってるの、早くおうちに帰りたいの!」
「ん、あぁ、そうかそうか」
 おじさんは、わたしと目が合う高さまで屈んで、言った。

「ごめんな、お嬢ちゃん。それは無理な相談だ。だってお嬢ちゃんは、そのパパとママに売られてきたんだからね」

 ……やっぱり、そうなんだ。
 はっきり言葉にして伝えられた事実は、わたしの心に重くのしかかった。
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