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Diary1.旅立ち

3.海原へ

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「えっ!?」
 動き出した船。そんな、まだわたし乗ってるのに! びっくりしたし、それよりも怖かった。

 船はどんどん港から離れていく。
 パパとママが、桟橋から離れて街の方に戻っていく。
 わたしは船に乗せられて、どんどん海に流されていく。

「パパ、ママッ!!」
 わたし、まだ船下りてないよ! 必死で呼びかける。もしかしたら、わたしがいつの間にか船を下りていると思ってしまっているのかも知れない。だから、大きな声で呼んで気付いてもらうんだ。慌てて駆け寄ってきて、大きな声でわたしを呼んで、たぶん港にいる人に頼んでわたしを連れ戻してくれる……!

 ――ほんとにそう思う?

 うるさいうるさい、心の中でちょっと聞こえたなんて跳ね除けられるくらいの大声で、呼び続ける。届け、届け、届け、届け……! 喉が痛くなっても、叫ぶのをやめない、やめちゃいけない。そうしないと、もう会えないかも知れないから……っ!!

「パパーっ、ママーっ!!! ――っ、げほっ、げほっ」
 れた喉が痛くなって、思わず咳き込んでしまう。
 どうしよう、これじゃパパとママを呼べない、どうしよう!

 そう思っていたら、涙で霞んでしまった視界の向こうで、ママが振り向いたのがちょっとだけ見えた。
「ぁっ――」
 やった、気付いてくれた!
 もう1回、あともう1回だけ呼べれば、きっと気付いてくれる……!

「ま、――」

 だけど、その声は最後まで出せなかった。
 海を――わたしの方を見て泣きそうな顔をしたママと、そんなママの肩に手を置いて、重々しく首を振って何かを言うパパの姿を見てしまったから。どんなに認めまいとしても、もうどうしようもない。
 ママの手に握られた、大きな袋。
 泣いているママ。
 悲しそうなパパ。
 そんな……。
 たぶん、わたしのどこかにある糸がぷつん、って切れたんだと思う。思わずへたり込んでしまったときに、床に膝を思い切りぶつけてしまった。痛いけど、今はそんなの気にならない。ううん、痛みを感じられない。
 目の前が真っ暗になった気分だ。

 わかってしまったから。
 あの袋の中身はお金で。
 つまり、わたしは今日、お金で売られてしまったんだってことを。

 船は、どんどん動いていく。
 何もなくなったわたしを乗せて。
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