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Diary1.旅立ち
2・さよならも言えないまま
しおりを挟む 2人の後をついて行くうちに、あんまり来たことのない辺りまでやってきてしまった。
周りを見ると、まだ閉まってる酒場とか、どういうことをしているのかよくわからないお店の建物とか、とにかくよくわからない感じの建物が並んだ、全然日の当たらない通り。そういえば、近所のジョアンがこの辺りのことを裏通りって呼んでたっけ。
『おいメルル、この先にあるのって裏通りなんだぜ?』
『へぇー、何それ?』
『はっ!? んなこと、えっと、ん……。おこちゃまなお前にはわかんねぇよ!』
うん、何故か顔を赤くしてしどろもどろになって、そのうちに親方さんに呼ばれて行っちゃったけど、何かこの裏通りってそういうところみたい。周りを見ると、かなり汚れたボロボロの服を着ている人が多い。道路に寝てる人もたくさんいて、その中にはまだお昼なのにお酒臭い人もいた。
あと、服をちゃんと着ていないお姉さんの姿も見えて、寒くないのかな……と心配になる。
「ねぇ、パパ。あの人たちはどうしてこんな格好をしてるの?」
思わず尋ねたけれど、パパもママも返事をしてくれない。
こんな場所、早く通り抜けてしまいたい。2人の顔がそう言っていた。どうしたんだろう、2人ともいつもはもっと優しいのに。
あ、でも今日はいつもよりいいお洋服を着せてもらってる。
街で一番の仕立て屋さんにお願いしてくれたみたいで、誕生日でもないのにどうしたんだろう? それに、そんなプレゼントをくれるのに、どうして2人の顔は険しいんだろう?
そう思いながら歩いていたら、港に着いた。
街の中心にある港みたいに賑やかな感じなんて全然なくて、代わりに薄暗くて、そしてたった1艘。まるで小さい頃絵本で見たような海賊船みたいな大きな船があるだけだった。
「すごい」
小さい声で、わたしは言う。
怖いものだから、って絵本の中でしか見てこなかった海賊船。きっとこんな街中に海賊船が泊まるわけがないからよく似た普通の船なんだろうけど、ついいろんなところを見つめてしまう。
「…………、あいよ」
船の前にいた男の人がパパとママ、それからわたしを見て、ゆっくりとこっちを向く。
すごく体が大きい。身長も高いけど、横にも大きい。太ってる、というよりは体そのものがとても大きい――筋肉とか骨から太そうな感じの、黒髭のおじさんだった。
少しだけ厳しい目をしてから、今度はわたしを見る。
よいしょ、と声を上げてしゃがみこんで、わたしと同じ目線になってくれて。
「お嬢ちゃん、よかったらこの船の中を見学してみるかい?」
「うん!」
あっ、また考えずに言っちゃった。
よくそれで注意されるのに……そう思いながらパパとママを振り返ると、「見せてもらっておいで」と優しく言ってくれた。
タラップを踏み越えて、船の中に入っていく。
でも、そこでふと思った。
何で、パパとママはあんなに苦しそうな笑顔だったんだろう、って。
そのときすぐに振り返ってたら、違ったのかな? ううん、考えたって仕方ないけど。でも、わたしはもう見たことのない船の中に夢中だった。舵取り役のお兄さんとか、料理番をしているわたしと同じくらいの男の子とか、いろんな人に挨拶しながら船の中を見る。
考えてみたら、そのときに向けられた珍しいものを見る目でも気付けたかもしれないけど。
わたしが気付いたのは、もう引き返せなくなってから。
ちょっと船が揺れたような気がして、船室から出たわたしの前に広がっていたのは。
どこまでも青い空、その太陽を受けて輝く果てしない海原と。
徐々に遠ざかっていくアンファンハーフェンの街だった。
周りを見ると、まだ閉まってる酒場とか、どういうことをしているのかよくわからないお店の建物とか、とにかくよくわからない感じの建物が並んだ、全然日の当たらない通り。そういえば、近所のジョアンがこの辺りのことを裏通りって呼んでたっけ。
『おいメルル、この先にあるのって裏通りなんだぜ?』
『へぇー、何それ?』
『はっ!? んなこと、えっと、ん……。おこちゃまなお前にはわかんねぇよ!』
うん、何故か顔を赤くしてしどろもどろになって、そのうちに親方さんに呼ばれて行っちゃったけど、何かこの裏通りってそういうところみたい。周りを見ると、かなり汚れたボロボロの服を着ている人が多い。道路に寝てる人もたくさんいて、その中にはまだお昼なのにお酒臭い人もいた。
あと、服をちゃんと着ていないお姉さんの姿も見えて、寒くないのかな……と心配になる。
「ねぇ、パパ。あの人たちはどうしてこんな格好をしてるの?」
思わず尋ねたけれど、パパもママも返事をしてくれない。
こんな場所、早く通り抜けてしまいたい。2人の顔がそう言っていた。どうしたんだろう、2人ともいつもはもっと優しいのに。
あ、でも今日はいつもよりいいお洋服を着せてもらってる。
街で一番の仕立て屋さんにお願いしてくれたみたいで、誕生日でもないのにどうしたんだろう? それに、そんなプレゼントをくれるのに、どうして2人の顔は険しいんだろう?
そう思いながら歩いていたら、港に着いた。
街の中心にある港みたいに賑やかな感じなんて全然なくて、代わりに薄暗くて、そしてたった1艘。まるで小さい頃絵本で見たような海賊船みたいな大きな船があるだけだった。
「すごい」
小さい声で、わたしは言う。
怖いものだから、って絵本の中でしか見てこなかった海賊船。きっとこんな街中に海賊船が泊まるわけがないからよく似た普通の船なんだろうけど、ついいろんなところを見つめてしまう。
「…………、あいよ」
船の前にいた男の人がパパとママ、それからわたしを見て、ゆっくりとこっちを向く。
すごく体が大きい。身長も高いけど、横にも大きい。太ってる、というよりは体そのものがとても大きい――筋肉とか骨から太そうな感じの、黒髭のおじさんだった。
少しだけ厳しい目をしてから、今度はわたしを見る。
よいしょ、と声を上げてしゃがみこんで、わたしと同じ目線になってくれて。
「お嬢ちゃん、よかったらこの船の中を見学してみるかい?」
「うん!」
あっ、また考えずに言っちゃった。
よくそれで注意されるのに……そう思いながらパパとママを振り返ると、「見せてもらっておいで」と優しく言ってくれた。
タラップを踏み越えて、船の中に入っていく。
でも、そこでふと思った。
何で、パパとママはあんなに苦しそうな笑顔だったんだろう、って。
そのときすぐに振り返ってたら、違ったのかな? ううん、考えたって仕方ないけど。でも、わたしはもう見たことのない船の中に夢中だった。舵取り役のお兄さんとか、料理番をしているわたしと同じくらいの男の子とか、いろんな人に挨拶しながら船の中を見る。
考えてみたら、そのときに向けられた珍しいものを見る目でも気付けたかもしれないけど。
わたしが気付いたのは、もう引き返せなくなってから。
ちょっと船が揺れたような気がして、船室から出たわたしの前に広がっていたのは。
どこまでも青い空、その太陽を受けて輝く果てしない海原と。
徐々に遠ざかっていくアンファンハーフェンの街だった。
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