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3、あまくて、からい。
にがくて、しょっぱい。
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無事に授業が始まるまでには全部消し終わって、それからは何事もなかったかのようにいつもの時間が始まった。けど、わたしは授業を受けているどころではなかった。
『キャラじゃないんだよ、彼氏作ってヤってるとか』
キャラじゃないってなに?
じゃあわたしはずっと、知らない人の気持ち悪い声聞きながら、したくもないことしなきゃいけないの? 誰かを好きになっちゃいけないの? 誰かを好きになっても、報われない想いをしてなきゃいけないの? ちょっとの幸せを感じることすら、しちゃいけないことなの? そこまでして守らなきゃいけないわたしのキャラって何なの?
わからない、わからないよ……っ!
もう、先生の言っていることが頭に入って来ない。指されたのだって、後ろの席の子に教えてもらってやっと気付けたくらい。こんなに苦しくなったのって、たぶん初めてしたあと何日かくらい以来かも知れない。怖い、怖い、怖い、怖い……!
休み時間になって、クラスで見かける数人で集まって話している光景も、わたしを嗤っているようにしか見えない――ううん、きっとそうだよ、だってこっち見た! やめてよ、怖いよ、気持ち悪いよ、嫌だよ、やめてよ、苦しいよ、もうやめてよ、放っておいてよ……っ!
耐え切れなくなって教室を出ようと立ち上がったとき。
ふっ、と目の前が暗くなって、身体の自由がきかなくなって。
――おい、倒れたぞ!
――やばぁ、被害者面ひどくない?
――保健委員~
――はぁ、めんどくさ……
そんな声が聞こえたような気がしたところで、もう何もわからなくなってしまった。
* * * * * * *
――い、おーい
うるさいなぁ、そっとしといてよ。
もう十分でしょ?
――有栖、もう大丈夫だよ。
何が大丈夫なの、もう起きたってみんなから嗤われるだけなのに……!
もう目を開けたくない、このまま消えてなくなってしまいたい。
そう思って起きるのを拒んでいると、不意に足下がずん、と沈んで、そのまま後ろから温かい腕で抱き締められた。
その温もりを、わたしは知っている。
「――――、」
「もう大丈夫だよ、有栖」
そう囁いてくれる優しい声だけが、わたしを守ってくれるんだ。
泣きそうになっていると、また背中から抱きしめる力が強くなる。どうしよう、何か言ったら泣きそうなのがバレる……!
「ごめんな、あのとき何も言えなくて」
後ろから静かな声が聞こえる。
……やめてよ、柿本くんは何も悪くないじゃん……!
胸が激しく痛むのを感じながら、それでも、確信していた。
彼が隣にいてくれるなら、きっとどんなに苦しくて悲しいことがあっても、全部甘い思い出の一部に変えてくれる。彼の腕や胸から伝わってくる体温と、昨日も感じていた柿本くんっぽい匂いに、身体の奥がまた熱くなる。
きっと、彼ならわたしを傷つけない。
傷つきそうになっても守ってくれる。
やっと信じられる人と出会えたんだ。
嬉しくてぎゅっと握った彼の手のひらは、とても熱かった。
『キャラじゃないんだよ、彼氏作ってヤってるとか』
キャラじゃないってなに?
じゃあわたしはずっと、知らない人の気持ち悪い声聞きながら、したくもないことしなきゃいけないの? 誰かを好きになっちゃいけないの? 誰かを好きになっても、報われない想いをしてなきゃいけないの? ちょっとの幸せを感じることすら、しちゃいけないことなの? そこまでして守らなきゃいけないわたしのキャラって何なの?
わからない、わからないよ……っ!
もう、先生の言っていることが頭に入って来ない。指されたのだって、後ろの席の子に教えてもらってやっと気付けたくらい。こんなに苦しくなったのって、たぶん初めてしたあと何日かくらい以来かも知れない。怖い、怖い、怖い、怖い……!
休み時間になって、クラスで見かける数人で集まって話している光景も、わたしを嗤っているようにしか見えない――ううん、きっとそうだよ、だってこっち見た! やめてよ、怖いよ、気持ち悪いよ、嫌だよ、やめてよ、苦しいよ、もうやめてよ、放っておいてよ……っ!
耐え切れなくなって教室を出ようと立ち上がったとき。
ふっ、と目の前が暗くなって、身体の自由がきかなくなって。
――おい、倒れたぞ!
――やばぁ、被害者面ひどくない?
――保健委員~
――はぁ、めんどくさ……
そんな声が聞こえたような気がしたところで、もう何もわからなくなってしまった。
* * * * * * *
――い、おーい
うるさいなぁ、そっとしといてよ。
もう十分でしょ?
――有栖、もう大丈夫だよ。
何が大丈夫なの、もう起きたってみんなから嗤われるだけなのに……!
もう目を開けたくない、このまま消えてなくなってしまいたい。
そう思って起きるのを拒んでいると、不意に足下がずん、と沈んで、そのまま後ろから温かい腕で抱き締められた。
その温もりを、わたしは知っている。
「――――、」
「もう大丈夫だよ、有栖」
そう囁いてくれる優しい声だけが、わたしを守ってくれるんだ。
泣きそうになっていると、また背中から抱きしめる力が強くなる。どうしよう、何か言ったら泣きそうなのがバレる……!
「ごめんな、あのとき何も言えなくて」
後ろから静かな声が聞こえる。
……やめてよ、柿本くんは何も悪くないじゃん……!
胸が激しく痛むのを感じながら、それでも、確信していた。
彼が隣にいてくれるなら、きっとどんなに苦しくて悲しいことがあっても、全部甘い思い出の一部に変えてくれる。彼の腕や胸から伝わってくる体温と、昨日も感じていた柿本くんっぽい匂いに、身体の奥がまた熱くなる。
きっと、彼ならわたしを傷つけない。
傷つきそうになっても守ってくれる。
やっと信じられる人と出会えたんだ。
嬉しくてぎゅっと握った彼の手のひらは、とても熱かった。
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