アリスは眠らないで

鏡上 怜

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3、あまくて、からい。

クローブを思わせる辛さに

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「えっ……?」

 朝、教室に入ると前の黒板には、柿本かきもとくんとわたしの名字が添えられた相合傘が描いてあって、そのすぐ近くには使いかけのコンドームの箱がマグネットで貼り付けられていて。

「えっ、えっ?」

 慌ててカバンの中をまさぐってしまう。
 いつも学校帰りに寄っているから、もしかして、学校のカバンのなかに入れてあるのを……!? そう思って捜したら、わたしたちが使っているものはちゃんとしまってあった。けど、そういうわたしを見た周りの目が一気に冷ややかになっていくのがわかってしまった。

「え、だ、誰?」
 訊いても誰も答えてくれない。
 わかってた、こんなことをする人はきっと、認めない。
「誰だよ、教えてよ! 誰がこんなの描いたの!?」
 けど、口から出るのはそういう言葉だけ。
 わたしだって見ていたのに、こういう目に遭った人が勝てることなんてないのは、知ってるのに。
「消さなきゃ、消さなきゃ……!」
 誰も手伝ってくれない。
 誰も消してくれない。
 残しっぱなしじゃ、嫌だから。
 わたしだけならいい、でも、柿本くんにまで迷惑がかかる。

「すっごい慌ててない?」
「わー、有栖ありすもそーゆーことしてんだねぇ……」
「イメージと違い過ぎて、なんか引く」
「図星図星~」

 ずっと、背中を声で刺されてしまう。痛い、痛い、痛い、痛い。けど、ずっと耐えているしかない。たぶん、騒いだらもっと面白がられる。わたしで止めなきゃ。わたしがこうやって言われるくらいで止めておかなきゃ。ていうか、なんでこんなに言われるの? みんなだって誰かと付き合ってるんじゃないの?
 みっちゃんが大学生のセフレになってるの、知ってるよ?
 しぃのチョーカーって、絞められた手の跡を隠すためなんでしょ?
 さっちの制服の下、彼氏に殴られた跡でいっぱいなんだよね?
 えりだって、浮気された仕返しにオフパコしまくってるって言ってたよね?

 そういうみんなのとわたしのって、何がどう違うの? どうしてわたしだけこんな風に言われなきゃいけないの? 誰がやったの? ていうか、どうやってわたしたちのこと知ったの?
 なんで、なんで、なんで、なんで?
 頭の中がぐるぐるしてきたときに。
「キャラじゃないんだよ、彼氏作ってヤってるとかさ」
 不意に、誰かから投げかけられた言葉。

 ……キャラ。
 キャラじゃない。
 なに、キャラって、なに。
 まだそんなこと言われなきゃいけないの?

『隅っこでじっとしてりゃよかったのに』

 高校になったら、言われないと思ってたのに。
 言われないようにしようと思ってたのに。
 気を付けて努力して言われなかったのに。
 わざわざSNSでストレス発散してまで頑張ったのに。
 うるさい、うるさい、うるさい、うるさい、うるさい……っ!!!

 目の前が真っ赤になってくる。恥ずかしさと悲しさが、怒りに変わっていく。黒板消しを誰かに投げつけて叫び出してしまおう、そう思ったときに、見つけてしまった。

 消していった文字の中に、あったのだ。
 わたしが出会い目的で使っている、SNSアカウントの@ユーザー名が。
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