アリスは眠らないで

鏡上 怜

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2、それはまるで夢の国

一本道の先に

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「おまたせ! ごめん、待たせちゃったかな!?」
「あ、ううん。別に……。だって、柿本かきもとくんだって、待ち合わせより早く来てるよね?」
「そうだけど、堀田ほったさんの方が早く来てるなんて……。先に来て待ってるくらいのつもりだったのに~」
「う、うん……」
「まぁ、いっか! じゃあ揃ったし、今日はたっぷり楽しも!」

 柿本くんと約束した週末。
 地域のランドマークになっている昔の偉い人っぽい銅像の前に息せき切ってやって来た柿本くんは、出会い頭にそう謝ってきた。もしかしたら元から顔見知り?っていうこともあるのかも知れないけど、今まで会ってきた人――といってもだけだけど――は「あれ、アリスちゃんだよね?」という確認から始まっていたので、そんな合流の仕方なんて初めてで、新鮮だった。

「まずどこ行く?」
「えっ?」
「え、」
「あの、えっと……どこでもいいの?」

 そんな風に言ってもらえるなんて、知らなかった。
 好きなところに行けるなんて選択肢を、わたしは知らなかった。だから、思わず泣きそうになっていたら「えっ、えっ?」ともろに焦ったような声を出されてしまった。どうしよう、早くいつものように戻らなきゃ。昨日だって、SNSであんなにいろんなことしてるのに、どうして面と向かうと何もできないの?
 両方、男の人であることには変わらないのに、同じようにしていればいいはずなのに。

「えっと、あの、あのねっ?」
 必死に元に戻ろうとして、それでも調子が戻らなくて。
 どうしよう、どうしよう、どうしよう……!
「大丈夫だよ、そんなに焦らなくても」
 だから、そう言ってもらえるとも思っていなかった。
 めんどくさいやつだって思われるって、「もう帰るわ」って言われるって、そんなことばかり思っていたから。

「緊張することってあるもんね。俺もそうだからさ、なんかそこまで想ってもらえてるんだな、って嬉しくなるっていうか、あー、なんつったらいいかわかんないんだけど、なんか、ね」

 あー、なんか。
 ちょっと、もう駄目だった。
 焦らなくていいだとか、緊張してるんだよねだとか、そんな言葉だけなのに。
 たったそれだけの言葉で、もう心がキャパシティを超えてしまって。

「えっ、うえっ、うぅぅっ……」
「わっ!? あの、ごめん! なんか変なこと言ったんだったら、ほんとごめんって!」
「ちがう、ちがうから……、…………っ、」

 溢れた心が目から雫れて止まらない。
「ちょっと、場所変えようか」
 ただ泣いていることしかできないわたしに、柿本くんは優しく言ってくれた。
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