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1、時計ウサギの囁き
眠りへのいざない
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校章の色で同学年なのはわかった。でも、どうして知らない人がわたしのことを知ってるの? それがたまらなく怖い。思わず、ベッドの上で後じさりしてしまう。
「えっ、あの、だれ、」
「あ、ごめん! そうだよね、あんま話したことないやつから色々言われたって、なんか気持ち悪いよね……」
ベッド脇にいきなり現れた彼は、困ったように頬を掻いている。そんなことされても困る。だって、怖いのはわたしなんだから、もう怖かった。なんでこの人の手をいきなり握ってしまったのかもわからない。でも、たぶんこの人がここにいるのはわたしが彼の手を握ってしまったからだから。
「え、あの、大丈夫です。いきなり手握ったりなんかして、その……ご迷惑おかけしました。もう大丈夫ですから……もう大丈夫です」
言葉が喉から溢れてしまう。
伝えたいことを順序立てて伝えることができない。
実際、喉がひりついているし、まだ気持ち悪いし、なにより、ベッドの近くで男の人とふたりきりという状況が怖くて仕方なかった。どうしよう、また……? また……!?
怖い、怖い。
もう、あんな怖い思いはしたくない。
その後も惰性で続いた関係で心を壊されていく感覚も、のめり込んでしまいそうで怖くて。
のめり込む?
不意に浮かび上がった気持ちが、自分でも理解できなかった。
それも怖い。自分がわからないなんて、なかったのに。
自分のことは、よくわかる。
だって、あの日からずっと、通話しながら男の人のオナニーを聴いているときも、もう今では関係の切れた彼と惰性でセックスして、いろんなことを教え込まれていたあのときも、どんどん自分が自分から離れていくようだったのに。
俯瞰からずっと見下ろしているような感覚。
どんどんいやらしいことに慣れていく自分も気持ち悪かったし、そんなわたしを見てニヤニヤ笑っている彼のことを何度殺したいと思ったかわからない。でも、自分を見下ろしているのは、誰にも触れられないわたしだったから。何もできずに、ただ彼のモノで膣内を犯されていく感触ばっかり広がって……。
「いやだ、」
思い出したくないよ。
「やだ、」
考えたくないよ。
「あの、」
なんでわからないの?
「ごめんなさい、」
わたしのことが、わからない。
怖い、気持ち悪い。
嫌だよ、怖いよ。
叫び出してしまいたくなる。もう、わけがわからなくなってしまいそうで。
だから、助けを求めてしまった。
「たすけて」
「わかった」
「え、」
答えてくれたのは、目の前にいるその同学年の男子だった。言ってから自分の言葉がわかったみたいに「あ」と声を上げて、照れくさそうにしている姿が妙に印象的な彼は、そのあと「まぁ、元々堀田さんに用事があって来たからさ」と続けた。
「え?」
「俺、柿本 圭吾って言います。あの、手紙って、もう読んだかな?」
…………えっ?
「えっ、あの、だれ、」
「あ、ごめん! そうだよね、あんま話したことないやつから色々言われたって、なんか気持ち悪いよね……」
ベッド脇にいきなり現れた彼は、困ったように頬を掻いている。そんなことされても困る。だって、怖いのはわたしなんだから、もう怖かった。なんでこの人の手をいきなり握ってしまったのかもわからない。でも、たぶんこの人がここにいるのはわたしが彼の手を握ってしまったからだから。
「え、あの、大丈夫です。いきなり手握ったりなんかして、その……ご迷惑おかけしました。もう大丈夫ですから……もう大丈夫です」
言葉が喉から溢れてしまう。
伝えたいことを順序立てて伝えることができない。
実際、喉がひりついているし、まだ気持ち悪いし、なにより、ベッドの近くで男の人とふたりきりという状況が怖くて仕方なかった。どうしよう、また……? また……!?
怖い、怖い。
もう、あんな怖い思いはしたくない。
その後も惰性で続いた関係で心を壊されていく感覚も、のめり込んでしまいそうで怖くて。
のめり込む?
不意に浮かび上がった気持ちが、自分でも理解できなかった。
それも怖い。自分がわからないなんて、なかったのに。
自分のことは、よくわかる。
だって、あの日からずっと、通話しながら男の人のオナニーを聴いているときも、もう今では関係の切れた彼と惰性でセックスして、いろんなことを教え込まれていたあのときも、どんどん自分が自分から離れていくようだったのに。
俯瞰からずっと見下ろしているような感覚。
どんどんいやらしいことに慣れていく自分も気持ち悪かったし、そんなわたしを見てニヤニヤ笑っている彼のことを何度殺したいと思ったかわからない。でも、自分を見下ろしているのは、誰にも触れられないわたしだったから。何もできずに、ただ彼のモノで膣内を犯されていく感触ばっかり広がって……。
「いやだ、」
思い出したくないよ。
「やだ、」
考えたくないよ。
「あの、」
なんでわからないの?
「ごめんなさい、」
わたしのことが、わからない。
怖い、気持ち悪い。
嫌だよ、怖いよ。
叫び出してしまいたくなる。もう、わけがわからなくなってしまいそうで。
だから、助けを求めてしまった。
「たすけて」
「わかった」
「え、」
答えてくれたのは、目の前にいるその同学年の男子だった。言ってから自分の言葉がわかったみたいに「あ」と声を上げて、照れくさそうにしている姿が妙に印象的な彼は、そのあと「まぁ、元々堀田さんに用事があって来たからさ」と続けた。
「え?」
「俺、柿本 圭吾って言います。あの、手紙って、もう読んだかな?」
…………えっ?
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