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1、時計ウサギの囁き
新しい世界
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「う……、ぅぷ、」
もう何回も思い返して、慣れていると思っていた吐き気も、不意に襲ってきたものだとまたちょっと違う。苦しくてたまらない。眩暈もするし、お腹もキリキリ痛い。なんか、嘘が本当になったみたいな感じ? あぁ、本当に気持ち悪い。
頭の中で繰り返される、わたしのことを嘲り笑うような声。
『会うって、会って話すだけなわけないじゃん。あんだけいろいろ話してたじゃん』
『男はみんな、下心持って近付いてくるんだよ。それくらいわかってると思ってたけど』
『あれ、濡れてんじゃん。もしかして、期待してた?』
そんなわけない――そう言っても、彼の手は止まってくれなかった。
ひたすらわたしの中を弄って、掻き回して、それに飽きたら舌で、それから……。
痛かった、怖かった、信じられなかった、悲しかった。信じて、いろんなことを訊いて、教えて、いろんなところを見せて、見て、いろんな話をした。
寂しいときに声を聞かせてくれた。周りとうまくいかなかったときにも、たくさん優しい言葉をかけてもらった。周りが全然気にも留めてくれなかったようなことでも、細かいところまで褒めてくれた。
だから、信じてたのに。
ちょっとだけ不安がないわけではなかった。でも周りの声よりも彼の嘘を信じてしまった。
時間を戻せればいいのに――そう思っても遅くて。
わたしの初めては、嘘と欲望だらけの恐ろしいものだった。
でも、それで悟ったんだ。
わたしには、こうやって人に求められることができる。
無理をして周りに合わせようとしなくても、必要としてもらえる。どうしてだろう、そんなことにはまったく気付かなかったし、たとえ気付いていたとしても絶対にそんなことしないというくらいそういうことをする人たちへの嫌悪感を持っていたはずだったのに、いつの間にか抵抗なんてなくなっていて。
……それでわたしは、今に至る。
誰かに必要とされることが気持ちいいくせに、同時にとても怖い。
だって、それってわたしに対して何かしらの意図を持っているってことだから。それが、気持ち悪い。だけど、わたしを求めて必死になっている人たちの声を聞いているのは、とても気持ちいい。
矛盾したような心の板挟みになって、時々揺さぶられてしまう。
頭がグラグラする頻度が増えた。
足下がもつれやすくなった。
自分を俯瞰で見る自分みたいな感覚が生まれてきた。だから、わかる。
そのときのわたしはあまりにも冷静じゃなかった。だって、おかしいでしょ、保健室のベッド脇のカーテンにたまたま現れて「大丈夫ですか?」って訊いてきただけの人に、手を伸ばそうとするわけないじゃない。
手を握り返してきたのは。
「あっ、えっと……堀田さんだよね。大丈夫?」
戸惑った顔をしている、同学年のよく知らない男子だった。
もう何回も思い返して、慣れていると思っていた吐き気も、不意に襲ってきたものだとまたちょっと違う。苦しくてたまらない。眩暈もするし、お腹もキリキリ痛い。なんか、嘘が本当になったみたいな感じ? あぁ、本当に気持ち悪い。
頭の中で繰り返される、わたしのことを嘲り笑うような声。
『会うって、会って話すだけなわけないじゃん。あんだけいろいろ話してたじゃん』
『男はみんな、下心持って近付いてくるんだよ。それくらいわかってると思ってたけど』
『あれ、濡れてんじゃん。もしかして、期待してた?』
そんなわけない――そう言っても、彼の手は止まってくれなかった。
ひたすらわたしの中を弄って、掻き回して、それに飽きたら舌で、それから……。
痛かった、怖かった、信じられなかった、悲しかった。信じて、いろんなことを訊いて、教えて、いろんなところを見せて、見て、いろんな話をした。
寂しいときに声を聞かせてくれた。周りとうまくいかなかったときにも、たくさん優しい言葉をかけてもらった。周りが全然気にも留めてくれなかったようなことでも、細かいところまで褒めてくれた。
だから、信じてたのに。
ちょっとだけ不安がないわけではなかった。でも周りの声よりも彼の嘘を信じてしまった。
時間を戻せればいいのに――そう思っても遅くて。
わたしの初めては、嘘と欲望だらけの恐ろしいものだった。
でも、それで悟ったんだ。
わたしには、こうやって人に求められることができる。
無理をして周りに合わせようとしなくても、必要としてもらえる。どうしてだろう、そんなことにはまったく気付かなかったし、たとえ気付いていたとしても絶対にそんなことしないというくらいそういうことをする人たちへの嫌悪感を持っていたはずだったのに、いつの間にか抵抗なんてなくなっていて。
……それでわたしは、今に至る。
誰かに必要とされることが気持ちいいくせに、同時にとても怖い。
だって、それってわたしに対して何かしらの意図を持っているってことだから。それが、気持ち悪い。だけど、わたしを求めて必死になっている人たちの声を聞いているのは、とても気持ちいい。
矛盾したような心の板挟みになって、時々揺さぶられてしまう。
頭がグラグラする頻度が増えた。
足下がもつれやすくなった。
自分を俯瞰で見る自分みたいな感覚が生まれてきた。だから、わかる。
そのときのわたしはあまりにも冷静じゃなかった。だって、おかしいでしょ、保健室のベッド脇のカーテンにたまたま現れて「大丈夫ですか?」って訊いてきただけの人に、手を伸ばそうとするわけないじゃない。
手を握り返してきたのは。
「あっ、えっと……堀田さんだよね。大丈夫?」
戸惑った顔をしている、同学年のよく知らない男子だった。
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