2 / 18
1、時計ウサギの囁き
退屈で、退廃的な
しおりを挟む
「ちゅ、くちゅ、ん……あ、はぁ……む、」
『はぁぁ、はぁ、はぁ、可愛い、すごく可愛いよ、カナちゃん、はぁ、はぁぁぁっ、はぁっ、』
「んっ、すごいえっちな声……、もっといっぱい聞きたいの、聞きながら、もっとさせて? はっ――――」
……うるさい、きもい、早く終わらせてよ。
そう言いそうになったのを堪えながら、わたしは電話向こうの彼に向かって声と音を聞かせ続けている。電話の向こうからはねちっこくて、まるで混ぜすぎた納豆みたいに糸を引きそうな喘ぎ声が聞こえてくる。
くぐもった声は、なんだか聞いているのが苦痛になるほど必死な喘ぎ声を漏らしていて、そのBGMはシュッ、シュッ、シュッ、という、何をしているのかは見なくても察することのできる規則的な音。
あぁ、いやになる。
なんか彼の声を聞いているスマホまで臭くなってきているような気がする。早くイッて、もうこの通話切らせてよ。なんて、思ったって言えるわけがないから、わたしはますます彼の欲望を揺さぶるような言葉を続ける。
そうやって、電話越しに臭いが移りそうな通話はそれからもしばらく続いて。それから彼の『うぅっ……!』という気持ち悪いうめき声で、ようやくわたしも演技を終える。
満足そうな声で浮かれた口調になっている通話相手が何か次の要求をし始めないうちに、「ちょっとトイレいくから」とか言って適当に通話を切る。あぁ、きもかった。
「はぁ~……」
思わず開いた口から、溜息が漏れてしまう。
で、そのたびに思うんだ、わたし何やってるんだろうって。自己嫌悪。でももっと深く感じる、暗い優越感。
「っていうか、カナじゃないし」
何度も呼ばれ続けた名前が耳にこびりつく前に、自分で否定しておく。じゃないと、なんか調子が狂ってしまう。最初の「マヤ」のときに学んだ。
これが、わたしの最近の日課。こないだ頻度とか調べてみたら、ほんとに毎日1回はしているみたいだった。
通話している相手と、電話越しで相互オナニーをして、お互いどうなってるかとかそういうのを実況して更に高まり合う、いわゆるオナ電。
毎回欲望まみれの声とか喘ぎ声とか聞かされて気持ち悪いのに、どうしてかやめられない。
たぶん、そこではわたしが求められているから。
どこかの高校の生徒とか、誰かの娘とか、どこの店員さんか、そういう肩書きじゃなくて、わたしを求められているのが、とても気持ちいいから。
だから、わたしは今日も退屈で気持ちの悪い遊戯を繰り返す。
……次は誰だったかな、ともだちのリストをスクロールしながら、あくびを噛み殺した。
『はぁぁ、はぁ、はぁ、可愛い、すごく可愛いよ、カナちゃん、はぁ、はぁぁぁっ、はぁっ、』
「んっ、すごいえっちな声……、もっといっぱい聞きたいの、聞きながら、もっとさせて? はっ――――」
……うるさい、きもい、早く終わらせてよ。
そう言いそうになったのを堪えながら、わたしは電話向こうの彼に向かって声と音を聞かせ続けている。電話の向こうからはねちっこくて、まるで混ぜすぎた納豆みたいに糸を引きそうな喘ぎ声が聞こえてくる。
くぐもった声は、なんだか聞いているのが苦痛になるほど必死な喘ぎ声を漏らしていて、そのBGMはシュッ、シュッ、シュッ、という、何をしているのかは見なくても察することのできる規則的な音。
あぁ、いやになる。
なんか彼の声を聞いているスマホまで臭くなってきているような気がする。早くイッて、もうこの通話切らせてよ。なんて、思ったって言えるわけがないから、わたしはますます彼の欲望を揺さぶるような言葉を続ける。
そうやって、電話越しに臭いが移りそうな通話はそれからもしばらく続いて。それから彼の『うぅっ……!』という気持ち悪いうめき声で、ようやくわたしも演技を終える。
満足そうな声で浮かれた口調になっている通話相手が何か次の要求をし始めないうちに、「ちょっとトイレいくから」とか言って適当に通話を切る。あぁ、きもかった。
「はぁ~……」
思わず開いた口から、溜息が漏れてしまう。
で、そのたびに思うんだ、わたし何やってるんだろうって。自己嫌悪。でももっと深く感じる、暗い優越感。
「っていうか、カナじゃないし」
何度も呼ばれ続けた名前が耳にこびりつく前に、自分で否定しておく。じゃないと、なんか調子が狂ってしまう。最初の「マヤ」のときに学んだ。
これが、わたしの最近の日課。こないだ頻度とか調べてみたら、ほんとに毎日1回はしているみたいだった。
通話している相手と、電話越しで相互オナニーをして、お互いどうなってるかとかそういうのを実況して更に高まり合う、いわゆるオナ電。
毎回欲望まみれの声とか喘ぎ声とか聞かされて気持ち悪いのに、どうしてかやめられない。
たぶん、そこではわたしが求められているから。
どこかの高校の生徒とか、誰かの娘とか、どこの店員さんか、そういう肩書きじゃなくて、わたしを求められているのが、とても気持ちいいから。
だから、わたしは今日も退屈で気持ちの悪い遊戯を繰り返す。
……次は誰だったかな、ともだちのリストをスクロールしながら、あくびを噛み殺した。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
上司は初恋の幼馴染です~社内での秘め事は控えめに~
けもこ
恋愛
高辻綾香はホテルグループの秘書課で働いている。先輩の退職に伴って、その後の仕事を引き継ぎ、専務秘書となったが、その専務は自分の幼馴染だった。
秘めた思いを抱えながら、オフィスで毎日ドキドキしながら過ごしていると、彼がアメリカ時代に一緒に暮らしていたという女性が現れ、心中は穏やかではない。
グイグイと距離を縮めようとする幼馴染に自分の思いをどうしていいかわからない日々。
初恋こじらせオフィスラブ
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
わたしのことはお気になさらず、どうぞ、元の恋人とよりを戻してください。
ふまさ
恋愛
「あたし、気付いたの。やっぱりリッキーしかいないって。リッキーだけを愛しているって」
人気のない校舎裏。熱っぽい双眸で訴えかけたのは、子爵令嬢のパティだ。正面には、伯爵令息のリッキーがいる。
「学園に通いはじめてすぐに他の令息に熱をあげて、ぼくを捨てたのは、きみじゃないか」
「捨てたなんて……だって、子爵令嬢のあたしが、侯爵令息様に逆らえるはずないじゃない……だから、あたし」
一歩近付くパティに、リッキーが一歩、後退る。明らかな動揺が見えた。
「そ、そんな顔しても無駄だよ。きみから侯爵令息に言い寄っていたことも、その侯爵令息に最近婚約者ができたことも、ぼくだってちゃんと知ってるんだからな。あてがはずれて、仕方なくぼくのところに戻って来たんだろ?!」
「……そんな、ひどい」
しくしくと、パティは泣き出した。リッキーが、うっと怯む。
「ど、どちらにせよ、もう遅いよ。ぼくには婚約者がいる。きみだって知ってるだろ?」
「あたしが好きなら、そんなもの、解消すればいいじゃない!」
パティが叫ぶ。無茶苦茶だわ、と胸中で呟いたのは、二人からは死角になるところで聞き耳を立てていた伯爵令嬢のシャノン──リッキーの婚約者だった。
昔からパティが大好きだったリッキーもさすがに呆れているのでは、と考えていたシャノンだったが──。
「……そんなにぼくのこと、好きなの?」
予想もしないリッキーの質問に、シャノンは目を丸くした。対してパティは、目を輝かせた。
「好き! 大好き!」
リッキーは「そ、そっか……」と、満更でもない様子だ。それは、パティも感じたのだろう。
「リッキー。ねえ、どうなの? 返事は?」
パティが詰め寄る。悩んだすえのリッキーの答えは、
「……少し、考える時間がほしい」
だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる