鏡の中から覗くのは

鏡上 怜

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決意

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 夜が明けようとしている。“君”もこの暁空を見ることができればよかったのに――などと嘆いたところで、もう遅いことはわかっているけれど。

 それでも、ちゃんと“君”には伝えておかなくては。
 だっていつも言っていたでしょう、世界には愛が満ちているのだから……、って。
 その証明をしなくちゃね。

 “君”よ。
 この世界にあまねく息付き、浪費され、消費され、消化された名もなき唯一無二の命達よ。またひとり“君”は今日、喪われてしまったのだろうか?
 それとも、まだ痛みと苦しみを抱えて喪失の時を待っているのだろうか?

 “君”よ。
 まだ名前のついていない命達よ。
 命である意味すら知らぬ者達よ。
 私には、“君”の悲嘆に寄り添えない。
 私には、“君”の痛みを癒せもしない。
 私には、“君”の苦痛など代われない。
 私には、“君”が伸ばす手を握れない。
 私には、“君”を守るような体がない。
 私には、“君”を喜ばせるものもない。
 だけど、“君”を心底愛しているから。
 だから、せめて“君”の結末を綴ろう。
 無限に、消えていく“君”を想おうか。

 この世界に70億と存在する命に、この世界には愛が確かにあると知ってほしくて。
 少なくとも私が抱いているこの感情は、あいにせよあいにせよアイにせよ、それら全てを内包するものとして【愛】でるはずだから。
 だから、世界に散りばめられた70億の“君”よ、今日はどの“君”が星空に羽ばたいた? どの“君”が海原へと漕ぎ出した? どの“君”が地の底に身を横たえた?

 聞かせておくれ、“君”の物語を。
 暁に響き渡る弔砲ちょうほうが止まり、暁の赤が青に変わっていくときに、“君”たちの物語を綴ろうと思うから。さぁ、“君”よ。
 今日あの空に近付いた“君”よ。
 どうか聞かせてほしい。

 君には、この世界はどう見えた?
 この世界は、君に優しかったか?
 この世界は君に何をもたらした?
 この世界は君にとって何だった?
 この世界に、君は何を残したい?
 その全てを、必ず物語にしよう。
 それこそが、私にできる約束だ。
 消えてゆく“君”に捧げる誠意だ。

 やがて、暁の空はその色に青みを帯び始めて、弔砲はその残響すらも途絶えて。
 私は、筆を執ったのだ。
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