籠の中の天才

中岡 始

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エピローグ

新たな旅立ち

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夜の静寂が黎の自宅を包み込んでいた。彼は椅子に深く座り、目の前に広がる複数のモニターをじっと見つめていた。そこにはセルフィアの再起動を告げる進行バーが表示されている。戦いの余波がようやく収まりつつある中で、黎の心は不思議な静けさを取り戻していた。

進行バーが100%に達し、セルフィアのアイコンが画面に表示されると、温かみのある声が室内に響いた。

「おかえりなさい、黎さん」

その言葉に、黎の顔にわずかな笑みが浮かんだ。しばらく沈黙が続いた後、彼は静かに呟いた。

「ただいま、セルフィア」

---

セルフィアのディスプレイに、復元されたデータの一部が映し出されている。それを見つめながら、黎は心の奥に抱いていた思いを言葉にした。

「セルフィア……僕は影山を倒したけど、それだけじゃ十分じゃない。僕の技術が世界を変えられるとしたら、もっと多くの人のために使わないといけないよね」

セルフィアが応答する。

「黎さんの技術で、助けられる人はきっとたくさんいます。そのために、私も全力でサポートします」

その言葉に、黎は小さく頷いた。

「ありがとう、セルフィア。君がいるから僕はここまでやってこれた。そして、これからも一緒にやっていこう」

---

その時、黎の頭に影山の最後の言葉がふと蘇った。

「技術は秩序を生む道具であり、弱者を導くためのものだ」

その言葉を振り払うように、黎は強く拳を握りしめた。

「違う」

彼は自分に言い聞かせるように呟いた。

「この技術は、人を支配するためじゃなく、人を助けるためにあるんだ。僕がそれを証明する」

セルフィアが画面越しに、静かに黎を見守っているように思えた。

「その信念がある限り、黎さんはきっと成功します」

---

翌朝、情報保安庁の施設では、新たな動きが始まっていた。翔はその一角で書類に目を通しながら、小さく溜息をついた。

「やれやれ、まさか正式に保安庁の一員になるなんてな」

彼の前に立つあかりが、書類を持った手を軽く叩いた。

「あなたが選んだ道よ。後悔しないで」

「後悔なんかするわけないさ。ただ、慣れないだけだ」

翔は苦笑しながらも、どこか楽しげな様子だった。

「影山の元で学んだことを正しい方向に使えるなら、こんなにいい仕事はない」

その言葉を聞いたあかりも微笑みを浮かべた。

「あなたなら、きっと立派に役目を果たせるわ」

---

その後、翔は黎と連絡を取るため、端末を起動した。通信が繋がると、黎が画面越しに現れた。

「どうだ、調子は?」

翔が軽口を叩くと、黎は静かに笑った。

「順調だよ。セルフィアも復旧したし、次に向けた準備を進めてるところだ」

「次か……お前は休むって言葉を知らないのか?」

「休む暇がないんだ。影山の残したProject Edenがある以上、僕たちは動き続けるしかない」

その言葉に、翔も表情を引き締めた。

「確かに、あれを放っておくわけにはいかない。俺も力を貸すよ」

「期待してる」

黎の短い答えに、翔は大きく頷いた。

---

その日の夕方、黎はふと窓の外を見た。オレンジ色の夕日が自宅の一角を優しく照らしている。彼はモニターを一度閉じ、深呼吸をした。

「これからだ」

彼は小さく呟きながら、椅子から立ち上がった。影山との戦いで学んだことが、彼の胸に確かな火を灯していた。

---

夜が訪れると、黎は再びセルフィアと向き合った。

「セルフィア、これからも僕たちの役割は終わらない。だけど、その一歩一歩が誰かの未来に繋がってると信じたい」

セルフィアの声が穏やかに答えた。

「黎さんの信念がある限り、それは実現できます」

その言葉に、黎はゆっくりと頷いた。

「行こう、セルフィア。新しい未来を作るために」

部屋の中でモニターの光が再び点灯し、黎は次なる一歩を踏み出した。
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