籠の中の天才

中岡 始

文字の大きさ
上 下
47 / 49
エピローグ

チームの絆

しおりを挟む
情報保安庁の一室に、柔らかな光が差し込んでいた。戦いの余波が静まりつつある中で、黎、翔、そしてあかりの三人はテーブルを囲んで座っていた。それぞれが言葉を探しながら、沈黙の中に漂う微妙な緊張感を感じていた。

翔がふと口を開いた。

「なあ、黎」

黎はその声に反応して顔を上げる。翔の表情は真剣そのもので、冗談めかした軽口は一切なかった。

「俺は……お前に謝らなきゃいけない。影山の下で働いてた俺は、お前の邪魔をして、君の技術を無理矢理潰そうとした」

その言葉を聞いた瞬間、部屋の空気が少し変わった。あかりが静かに見守る中、翔は続けた。

「でも、戦いを通じて分かったんだ。お前の技術は、人を助けるためにあるものだってこと。そして、それを守る価値がある」

彼は一呼吸置いて、ゆっくりと言葉を紡ぐ。

「これからは、お前の技術を守る側に立ちたい。影山じゃなくて、お前みたいなやつのそばで、正しい方向で力を使いたい」

その声には揺るぎない決意が込められていた。

---

黎は翔の言葉を黙って聞いていたが、しばらくして口を開いた。

「……影山のもとで学んだことは間違いじゃない。だけど、その力をどう使うかが一番大事なんだ」

彼の声は静かだったが、その言葉には深い意味が込められていた。そして、黎はゆっくりと右手を差し出した。

「君の力があれば、僕たちが守れるものがもっと増えると思う。これからもよろしく頼む」

翔はその手を見つめ、一瞬だけ目を丸くした後、満面の笑みを浮かべて握手を交わした。

「ああ、任せてくれ。俺の力、全て使わせてもらうよ」

その瞬間、二人の間にかつての緊張感は消え去り、本当の信頼が芽生えた。

---

あかりが微笑みながら口を開いた。

「二人とも、よくやったわ。これで、私も少し安心できる」

翔が顔を上げて彼女を見た。

「安心って、どういう意味だ?」

あかりは一瞬だけ言葉を止めた後、柔らかい口調で続けた。

「私の役目はここまでかもしれない、ということよ。これからは、あなたたち自身が技術を守り、未来を切り開いていく番だわ」

その言葉に、黎も翔も驚いた表情を見せた。

「あかりさん、どういうことですか?」

黎が問いかけると、あかりは静かに笑みを浮かべた。

「情報保安庁として、私たちは引き続きあなたたちをサポートする。でも、あなたたち自身がその技術を信じ、未来を守る存在にならないといけない」

その真剣な声に、黎はゆっくりと頷いた。

---

翔が少しおどけた調子で口を開いた。

「まあ、あかりさんみたいな人がいれば安心だな。俺なんかよりよっぽど頼れる」

その言葉に、あかりが小さく笑った。

「それはどうかしら。これからは、翔さん自身が頼られる立場になるのよ」

そのやり取りを聞いていた黎が、珍しく笑みを浮かべた。

「確かに、翔が頼られる存在にならないと、僕も困るからね」

---

部屋の空気はいつの間にか穏やかさを取り戻していた。それぞれがこの戦いで得たものを胸に、次の一歩を踏み出そうとしている。

あかりが最後に口を開いた。

「これで一つの脅威は去った。でも、影山が残したものを完全に消し去るには、まだ時間が必要よ」

その言葉に、黎と翔は頷いた。

「大丈夫さ。俺たちがいる限り、どんな奴が来ても止めてみせる」

翔が力強く答えると、黎も静かに言葉を続けた。

「技術を守ることが、僕たちの役目だ。そのために、僕たちができることを続けていく」

その言葉が、三人の決意を一つにした。部屋の中に、次なる未来への期待が静かに広がっていった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

バベル病院の怪

中岡 始
ホラー
地方都市の市街地に、70年前に建設された円柱形の奇妙な廃病院がある。かつては最先端のモダンなデザインとして話題になったが、今では心霊スポットとして知られ、地元の若者が肝試しに訪れる場所となっていた。 大学生の 森川悠斗 は都市伝説をテーマにした卒業研究のため、この病院の調査を始める。そして、彼はX(旧Twitter)アカウント @babel_report を開設し、廃病院での探索をリアルタイムで投稿しながらフォロワーと情報を共有していった。 最初は何の変哲もない探索だったが、次第に不審な現象が彼の投稿に現れ始める。「背景に知らない人が写っている」「投稿の時間が巻き戻っている」「彼が知らないはずの情報を、誰かが先に投稿している」。フォロワーたちは不安を募らせるが、悠斗本人は気づかない。 そして、ある日を境に @babel_report の投稿が途絶える。 その後、彼のフォロワーの元に、不気味なメッセージが届き始める—— 「次は、君の番だよ」

赤い部屋

山根利広
ホラー
YouTubeの動画広告の中に、「決してスキップしてはいけない」広告があるという。 真っ赤な背景に「あなたは好きですか?」と書かれたその広告をスキップすると、死ぬと言われている。 東京都内のある高校でも、「赤い部屋」の噂がひとり歩きしていた。 そんな中、2年生の天根凛花は「赤い部屋」の内容が自分のみた夢の内容そっくりであることに気づく。 が、クラスメイトの黒河内莉子は、噂話を一蹴し、誰かの作り話だと言う。 だが、「呪い」は実在した。 「赤い部屋」の手によって残酷な死に方をする犠牲者が、続々現れる。 凛花と莉子は、死の連鎖に歯止めをかけるため、「解決策」を見出そうとする。 そんな中、凛花のスマートフォンにも「あなたは好きですか?」という広告が表示されてしまう。 「赤い部屋」から逃れる方法はあるのか? 誰がこの「呪い」を生み出したのか? そして彼らはなぜ、呪われたのか? 徐々に明かされる「赤い部屋」の真相。 その先にふたりが見たものは——。

ナガヤマをさがせ~生徒会のいちばん長い日~

彩条あきら
ミステリー
中学生徒会を主役に、行方不明の生徒会長を探し回るミステリー短編小説。 完全無欠の生徒会長ナガヤマ・ユウイチがある日、行方不明になった!彼が保管する文化祭実行のための重要書類を求め、スバルたち彩玉学園中学生徒会メンバーは学校中を探し始める。メンバーたちに焦りが募る中、完璧と思われていた生徒会長ナガヤマの、知られざる側面が明らかになっていく…。 ※別サイトの企画に出していた作品を転載したものです※

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

virtual lover

空川億里
ミステリー
 人気アイドルグループの不人気メンバーのユメカのファンが集まるオフ会に今年30歳になる名願愛斗(みょうがん まなと)が参加する。  が、その会を通じて知り合った人物が殺され、警察はユメカを逮捕する。  主人公達はユメカの無実を信じ、真犯人を捕まえようとするのだが……。

処理中です...