籠の中の天才

中岡 始

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第5幕

最後の一手

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セルフィアのアイコンが消え、モニターにはエラーコードが点滅している。部屋に響くのは、黎の荒い息遣いと遠くから聞こえる翔の声だけだった。

「黎、諦めるな! お前ならやれる!」

翔の声が通信越しに響くが、黎は一瞬だけ目を閉じ、深呼吸をした。

「諦めるわけがない」

黎は静かに呟くと、再びキーボードに手を置いた。その目には、燃えるような決意が宿っていた。

---

「あかりさん、こっちはまだ戦える!」

翔が情報保安庁で叫んだ。モニターに映る影山のネットワークは、暴走による影響で全体が不安定になりつつあった。

「影山のシステムに負荷がかかってる。このタイミングを逃したら、もうチャンスはない!」

あかりが頷き、全員に指示を飛ばした。

「黎君をサポートして。彼が最後の攻撃を仕掛けられるよう、全力を尽くすのよ!」

保安庁のエージェントたちが次々と動き出し、影山の残存勢力からの攻撃を封じ込めた。

---

「翔、影山の操作ログを送ってくれ。それを基に攻撃プログラムを修正する」

黎の声が通信越しに響くと、翔は素早くデータを送信した。

「了解だ! これが影山の操作履歴だ。あいつがどれだけ完璧に見えても、必ず隙はある!」

送られてきたログを解析し、黎はセルフィアの残したデータと組み合わせて新たなアルゴリズムを組み立て始めた。キーボードを叩く音が部屋中に響き渡る。

「これが僕にできる最後の一手だ」

---

仮想空間内、黎のアバターが再び立ち上がった。影山はその姿を見て、眉をひそめた。

「まだ諦めないのか、Luminous。無駄だ」

影山のアバターが背後のデータの翼を広げ、全方向に攻撃を繰り出す。その衝撃で仮想空間が揺れ、黎の周囲に無数のエネルギー波が降り注いだ。

「これで終わりだ!」

影山の声が響く中、黎は冷静にモニターを見つめていた。

「終わるのは、あなたの計画だ」

その瞬間、黎が放った攻撃プログラムがシャドーネットワークに向けて解き放たれた。無数のデータスパイクが影山の中枢サーバーを貫き、仮想空間全体に衝撃波が走る。

---

「攻撃が通った……!」

翔が驚きの声を上げた。情報保安庁のモニターに映るシャドーネットワークの挙動が大きく乱れ、全体が崩壊し始めていた。

「これで終わらせる!」

黎が最後のプログラムを実行し、仮想空間内の攻撃が最高潮に達する。その力に抗う影山のアバターが徐々に崩れ始めた。

---

「私の理想が……終わるはずがない」

影山の声はかすかに震えていた。それでも、彼は冷たい笑みを浮かべたまま続けた。

「技術の秩序を生むのは私しかいない。君たちのような理想主義者に、未来を託せるものか」

黎はその言葉に反論しなかった。ただ、キーボードを叩き続けた。その手は止まることなく、次々と攻撃を繰り出していた。

「あなたが信じない未来を、僕たちは作る。技術を独裁に使わせるわけにはいかない」

---

影山のアバターが崩壊する中、仮想空間全体が激しく揺れ始めた。巨大なサーバータワーが崩れ落ち、光の流れが断ち切られていく。

「シャドーネットワークの中枢崩壊を確認しました」

セルフィアの最後のログが、黎のモニターに表示された。それを見て、黎は深く息を吐いた。

---

「成功したのか?」

翔の声が通信越しに聞こえる。黎は少しだけ笑みを浮かべて答えた。

「……終わったよ」

その言葉に、保安庁の作戦室に歓声が上がった。あかりが通信越しに黎に声をかけた。

「よくやったわ、黎君。本当に……ありがとう」

黎は一瞬だけ目を閉じた。そして、自分の背後に感じた空気を振り払うように立ち上がった。

---

影山の仮想空間は完全に崩壊し、彼のアバターも消滅していた。しかし、その最後の瞬間に呟いた言葉が、黎の耳に残っていた。

「私の理想は、必ず誰かが受け継ぐだろう」

黎はその言葉を振り払うように、モニターを閉じた。そして、次の未来のために、心を新たにする。

「セルフィア、ありがとう。これからは僕が守るよ」

そう呟いた黎の姿は、技術者として一歩成長した表情を浮かべていた。
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