籠の中の天才

第５幕

データの荒野での対決

黎がアクセスしたシャドーネットワーク中枢の仮想空間は、圧倒的なスケールの世界だった。地平線の彼方まで広がる荒野に無数のデータストリームが流れ、巨大なサーバータワーが天空を突き刺すようにそびえ立つ。空間を駆け巡る光の線は、ネットワークの情報がリアルタイムで流れる様子を表していた。

「ここが……影山の中心か」

黎が仮想空間内に立つ自分のアバターを見下ろしながら呟いた。その声は仮想空間に溶け込むように静かに響いた。手元にはセルフィアが生成した操作端末があり、これを通じてネットワークを解析し、攻撃する準備が整っている。

「君がここまで来るとは驚いたよ、Luminousルミナス」

低く冷たい声が響き渡り、黎の前に影山の仮想アバターが姿を現した。影山のアバターは、黒いスーツに身を包み、背後には無数のデータの翼が広がっている。その目には冷酷な光が宿り、彼の支配欲が露わになっていた。

「影山……」

「歓迎しよう、ネットワークの心臓部へ。だが、ここに来たところで何ができる？ 君の技術がこのシステムを揺るがすことなど不可能だ」

影山はゆっくりと歩み寄りながら言葉を続けた。

「技術とは混沌を統制し、秩序を生むための道具だ。個人の手に渡れば、それは破壊と混乱を招くだけだ。私の計画は、世界に真の秩序をもたらすものだ。理解できるか？」

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黎は一瞬だけ影山の言葉に耳を傾けたが、すぐに冷静な声で答えた。

「技術は人を支配するためのものじゃない。それは、人を助けるためにあるべきだ。あなたの言う秩序は、ただの独裁だ」

影山が笑った。その笑いは冷たく、不気味な響きを持っていた。

「助けるためだと？ 君は本気でそんな理想論を信じているのか？ 人間という存在は愚かだ。技術を与えれば争い、破壊を繰り返す。だからこそ、私のような存在がその力を正しく使う必要があるのだ」

「その正しさを決めるのは、あなた一人なのか？」

黎は影山を見据えたまま、挑むように言い返した。

「技術を独占して世界を支配することが正義だと言うなら、僕はその正義を否定する。人を信じられないあなたに、未来を任せるわけにはいかない」

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影山の目が細まり、彼の背後のデータの翼が激しく揺れた。

「ならば、見せてみろ。君のその理想が、私の現実に勝てるのかどうかを」

その言葉とともに、影山が手を振ると、巨大なデータの波が黎に向かって押し寄せた。その波は仮想空間を震わせるほどの威力を持っていた。

「セルフィア！」

黎が呼びかけると、セルフィアが即座に応答した。

「防御プロトコルを展開します」

黎の前に光の盾が出現し、影山のデータ攻撃を受け止めた。しかし、その衝撃は圧倒的で、光の盾が徐々に崩れ始める。

「この力が、私の構築した秩序の証だ。君の理想など、この場では通用しない」

影山の言葉に、黎は歯を食いしばりながら反論した。

「なら、その秩序を壊してみせる！」

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黎はセルフィアと連携し、反撃のプログラムを実行した。操作端末の画面に無数のコードが流れ込み、データの槍が影山に向かって放たれる。影山はそれを軽くいなすように動き、再びデータの波を送り返した。

「見事だ、Luminous。しかし、それでは私には届かない」

「まだだ……！」

黎は再びキーボードを叩き、セルフィアが新たな解析結果を提示する。

「影山のシステムには、負荷が増大する際に隙間が生じます。そのポイントを狙うことを推奨します」

「それだ！」

黎はセルフィアの指示を受け、攻撃アルゴリズムを調整した。次々と影山のシステムに負荷をかけ、脆弱性を突く攻撃が繰り出される。

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影山の表情に、初めてわずかな苛立ちが浮かんだ。

「君がここまで食い下がるとはな……だが、この程度では私を止められない」

影山は両手を広げ、全方向にデータ攻撃を展開した。仮想空間が激しく揺れ、黎の周囲に次々と攻撃が降り注ぐ。

「セルフィア、持ちこたえてくれ！」

黎の声に応えるように、セルフィアが防御を強化する。しかし、攻撃の激しさに光の盾がひび割れ始めていた。

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「この戦いはまだ終わらない」

黎の目に宿る決意は揺らがない。彼は影山の攻撃の隙を突き、さらなる反撃を仕掛ける準備を整えた。

「影山、あなたを止めるのは僕だ。技術の未来を独裁に染めさせるわけにはいかない」

黎と影山の直接対決は、ますます激しさを増し、緊張感が仮想空間を包み込む。果たして、この戦いの行方は――。