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序章

音信不通

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優子は500万円を大谷に送金してから、彼のプロジェクトが順調に進むことを心待ちにしていた。彼との未来を思い描き、彼の成功が二人の安定した生活へと繋がることを信じていた。毎日のように彼からのメッセージが届き、仕事の進捗や近況を報告してくれていた彼が、優子にとってはかけがえのない存在だった。

しかし、ある日を境に、彼からの連絡がぴたりと途絶えた。最初はただ「忙しいのだろう」と気楽に考えていたが、彼の温かい声や励ましの言葉が届かないことで、優子はどこか寂しさを感じ始めていた。

「最近、忙しいって言っていたし、きっと仕事に追われているんだろう……」

優子はそう自分に言い聞かせ、彼からの連絡を待ち続けた。しかし、数日が経っても、彼からの返信はなかった。電話をかけても留守番電話に切り替わるだけで、メッセージを送っても既読がつかない。少しずつ不安が募り始め、優子の心に微かな疑念が生まれた。

「まさか、何かあったのかしら……」

彼の身に何か不測の事態が起きているのではないかという不安が胸を締めつけ、優子はますます心配になっていった。SNSにも姿を見せず、メッセージアプリにも反応がないまま日が過ぎていく。優子は心のどこかで、大谷が自分を見捨てるはずがないと信じていたが、ふとした瞬間に浮かぶ疑念を振り払えずにいた。

---

数週間が過ぎても音沙汰がない状況に、優子の不安は限界に達していた。毎晩のように彼の安否を気にかけ、眠れぬ夜を過ごす日々が続いた。そして、ある日、優子は思い切って彼のことを調べることにした。彼のSNSや、過去に話していた内容を頼りに、少しでも彼の消息を掴もうと決意したのだ。

優子はまず、大谷が使っていたマッチングアプリを再び開き、彼のアカウントを探し始めた。しかし、彼のプロフィールは既に削除されており、彼がそこにいた痕跡さえ残っていなかった。その事実が、優子の胸に冷たい恐怖を植え付けた。

「どうして……こんなに突然、消えてしまうの?」

不安と疑念が交錯する中、優子は他の手がかりを探し続けた。やがて、彼が利用していた別のSNSの投稿を一つずつ見返し、過去に彼が話していた情報と照らし合わせながら、彼の交友関係やアクティビティに変化がないかを調べた。

その途中、彼が以前に何気なく話していた友人の名前や、趣味についての発言が引っかかり、優子はさらに深く探ることにした。そして、マッチングアプリの掲示板にある口コミや噂話が集まるスレッドを閲覧していたとき、驚くべき情報を目にすることになった。

そこには、「同じプロフィールで別の女性と交際していた男性がいる」という書き込みがあり、彼の特徴がことごとく一致していた。優子の心は凍りつき、動悸が激しくなるのを感じた。

「まさか……」

掲示板に記されていた内容は、大谷が複数の女性と同時に連絡を取り合い、「結婚を前提に交際したい」と言っては金銭を要求しているというものだった。優子はその書き込みが彼のものだと確信せざるを得なかった。信じたくない気持ちが強かったが、これまでの彼の言動、そして現在の状況が、その事実を裏付けるかのように冷酷に重なって見えた。

「そんな……そんなはずない……」

涙が自然に溢れ、優子はスマートフォンを手に持ったまま震えていた。彼との思い出が走馬灯のように蘇り、彼が投げかけてくれた言葉の一つ一つが、自分を欺くためのものであったのだと思うと、心が引き裂かれるような思いだった。

---

しばらくして、優子は一人で警察署を訪れ、彼との一連のやりとりと失踪について相談することにした。しかし、警察からは「証拠が不十分なため、捜査は難しい」と告げられ、事件性が認められない可能性があると冷たく対応された。

「そんな……私が信じた人が、どうして……」

警察からの返答に、優子は自分の無力さを痛感した。彼が自分にしてきた行為が詐欺である可能性が高いと知っていても、証拠がないために追い詰めることができない事実が、彼女をさらに絶望の淵へと突き落とした。

彼の嘘の言葉に従い、夢見た将来のために貯金を託した自分が、今はただ馬鹿にされ、利用されただけだという事実が突き刺さるように痛んだ。彼のためにと信じて提供した500万円が、まるで自分の手の中で崩れ落ちていくような虚無感に包まれ、優子はその場で涙を堪えることができなかった。

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帰宅後、優子は自分の部屋で膝を抱えて泣き続けた。彼が投げかけてくれた温かな言葉も、将来を一緒に歩もうと言ってくれた優しさも、全てが幻のように思えて、心が壊れてしまいそうだった。彼との将来を夢見たことが、何もかも虚しく、ただの幻想だったと知る現実が、優子の心を深くえぐり続けた。

一人きりの部屋で、優子は何度も彼との思い出を振り返り、なぜこんなことになってしまったのかを自問し続けた。
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