「三条美玲の炎上」スピンオフ・田中翔の業務日誌

2024年5月11日

2024年5月11日

美玲様がチェックアウトしてから一日が経った。館内は普段の落ち着きを取り戻しつつあったが、私の心の中にはまだどこかざわつく感覚が残っていた。朝の業務が始まり、フロントでの対応をしていると、隼人が少し遅れて姿を現した。普段と変わらないように見えるが、少々疲れた表情が目に留まる。あの隼人が、いつも通りの冷静さを保ちつつも、その内側に何か重たいものを抱えているように見えるのだ。

「おはよう、隼人。大丈夫か？」  
私は自然な感じで声をかけた。昨日の出来事が彼にどれほどの負担をかけたのか、正確には分からないが、確かに何かがあったのだろう。

「おはよう。うん、大丈夫。少し疲れが残ってるだけさ」  
隼人はそう言って軽く笑ったが、その笑顔にはいつもの力強さが欠けているように思えた。私は彼が無理をしているのではないかと、ますます心配になった。彼はプロフェッショナルとしての自負が強く、たとえどんな状況でも自分の感情を表に出さないタイプだ。しかし、今回の一件で彼がどれほどの精神的な負担を感じているかは、長年の同期としての直感で何となく感じ取れる。

美玲様の件が、彼にとってただの業務の一環ではなく、心の中に引っかかる何かを残しているのかもしれない。特に彼女のSNSでの影響力と、それによって隼人自身が不本意にも注目の的となってしまったことが、彼にプレッシャーを与えているのではないだろうか。

午前中の業務が進むにつれ、隼人は次第にいつものペースを取り戻しているように見えたが、それでも私は彼のことが気にかかっていた。フロントチームとして連携を深めていく中で、少しでも彼の負担を軽減できるように、自分にできることを探してみようと考えた。彼がプロとしての誇りを守りながらも、少しでも楽になるように支えたいという思いが、自然と湧き上がってきた。

仕事を終えた後、再び隼人と話す機会があれば、もう少し踏み込んで彼の気持ちを聞いてみるべきだろうか。彼が何も語らなくても、私は彼の傍にいることで少しでも安心してもらえれば、それでいいのかもしれない。そんな風に考えながら、私は今日の業務に集中することにした。