原田くんの赤信号

華子

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原田くんは、赤信号みたいな人だ

赤色が似合う原田くん8

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 ホームルーム後の、掃除の時間。美希ちゃんの班よりも早くに掃除が済んだわたしは、昇降口で彼女を待つことにした。すると、叩かれる肩。

「やあ瑠夏」
「あ、エレン先生っ」

 振り向くと、そこには爽やかな笑顔があった。

「誰か待ってるの?」
「えと、美希ちゃんを」
「ああ、美希か。今日も図書室に来てくれてありがとうね。彼女にもそう伝えておいてよ」
「はいっ。明日のお話は、もう決まってるんですか?」
「そうだなあ、特には決めてないけど……ああ、でも今決めた。明日はジョーカーの話にしよう」
「ジョーカー?」
「前に話した、明るい未来に進むための話とちょっと似ているかもね」

 辛い時は、明るい未来を想像すればいい。

 何ヶ月か前のお話会で出てきたその言葉は、イチョウの木の下で、落ち込む原田くんに贈ったことがある。だけどそれは上手く原田くんの心には届かなくて、結局泣かせてしまったけれど。あの時の原田くんの涙のわけは、一体何だったのだろう。

「おっといけない、教頭先生に呼ばれてたんだ。早く行かないと」

 急いで職員室の方へと向かうエレン先生にお辞儀をして、再びひとりになったわたし。そこで、はたと気付く。

 あれ?今わたし、全然緊張しなかったな……

 エレン先生は大好きな人だから、いつも話すとなると緊張して、上手に口がまわらない。隣に美希ちゃんがいてくれて、ようやく言葉を発することができるのに、今のわたしはすらすらと、会話ができていた。

 もしかしてわたし、もうエレン先生のこと……

 好きじゃないのかも。と思ったその時だった。

 あ、原田くん。

 ふと背中に刺さった視線を感じて振り返ると、そこには壁にもたれかかった原田くんがいた。彼を発見した途端に、ぎゅうっと詰まる胸。かちりと視線がはまっている間は、時が止まっているような気がした。

「は、原田くんばいばいっ!」

 原田くんは、鞄を持っていなかった。だからまだ、彼の班も掃除が片付いていないのかもしれない。美希ちゃんが来れば学校を出るわたしだから、ここで手を振ったけれど。

「え……」

 けれど、原田くんに無視された。彼は無表情のまま反転すると、廊下を進んで行ってしまった。どんどん小さくなっていく彼の後ろ姿。そしてそれが見えなくなった時、涙が一粒落ちていった。この涙が意味することを、わたしはまだ知らない。
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