73 / 101
原田くんは、赤信号みたいな人だ
赤色が似合う原田くん8
しおりを挟む
ホームルーム後の、掃除の時間。美希ちゃんの班よりも早くに掃除が済んだわたしは、昇降口で彼女を待つことにした。すると、叩かれる肩。
「やあ瑠夏」
「あ、エレン先生っ」
振り向くと、そこには爽やかな笑顔があった。
「誰か待ってるの?」
「えと、美希ちゃんを」
「ああ、美希か。今日も図書室に来てくれてありがとうね。彼女にもそう伝えておいてよ」
「はいっ。明日のお話は、もう決まってるんですか?」
「そうだなあ、特には決めてないけど……ああ、でも今決めた。明日はジョーカーの話にしよう」
「ジョーカー?」
「前に話した、明るい未来に進むための話とちょっと似ているかもね」
辛い時は、明るい未来を想像すればいい。
何ヶ月か前のお話会で出てきたその言葉は、イチョウの木の下で、落ち込む原田くんに贈ったことがある。だけどそれは上手く原田くんの心には届かなくて、結局泣かせてしまったけれど。あの時の原田くんの涙のわけは、一体何だったのだろう。
「おっといけない、教頭先生に呼ばれてたんだ。早く行かないと」
急いで職員室の方へと向かうエレン先生にお辞儀をして、再びひとりになったわたし。そこで、はたと気付く。
あれ?今わたし、全然緊張しなかったな……
エレン先生は大好きな人だから、いつも話すとなると緊張して、上手に口がまわらない。隣に美希ちゃんがいてくれて、ようやく言葉を発することができるのに、今のわたしはすらすらと、会話ができていた。
もしかしてわたし、もうエレン先生のこと……
好きじゃないのかも。と思ったその時だった。
あ、原田くん。
ふと背中に刺さった視線を感じて振り返ると、そこには壁にもたれかかった原田くんがいた。彼を発見した途端に、ぎゅうっと詰まる胸。かちりと視線がはまっている間は、時が止まっているような気がした。
「は、原田くんばいばいっ!」
原田くんは、鞄を持っていなかった。だからまだ、彼の班も掃除が片付いていないのかもしれない。美希ちゃんが来れば学校を出るわたしだから、ここで手を振ったけれど。
「え……」
けれど、原田くんに無視された。彼は無表情のまま反転すると、廊下を進んで行ってしまった。どんどん小さくなっていく彼の後ろ姿。そしてそれが見えなくなった時、涙が一粒落ちていった。この涙が意味することを、わたしはまだ知らない。
「やあ瑠夏」
「あ、エレン先生っ」
振り向くと、そこには爽やかな笑顔があった。
「誰か待ってるの?」
「えと、美希ちゃんを」
「ああ、美希か。今日も図書室に来てくれてありがとうね。彼女にもそう伝えておいてよ」
「はいっ。明日のお話は、もう決まってるんですか?」
「そうだなあ、特には決めてないけど……ああ、でも今決めた。明日はジョーカーの話にしよう」
「ジョーカー?」
「前に話した、明るい未来に進むための話とちょっと似ているかもね」
辛い時は、明るい未来を想像すればいい。
何ヶ月か前のお話会で出てきたその言葉は、イチョウの木の下で、落ち込む原田くんに贈ったことがある。だけどそれは上手く原田くんの心には届かなくて、結局泣かせてしまったけれど。あの時の原田くんの涙のわけは、一体何だったのだろう。
「おっといけない、教頭先生に呼ばれてたんだ。早く行かないと」
急いで職員室の方へと向かうエレン先生にお辞儀をして、再びひとりになったわたし。そこで、はたと気付く。
あれ?今わたし、全然緊張しなかったな……
エレン先生は大好きな人だから、いつも話すとなると緊張して、上手に口がまわらない。隣に美希ちゃんがいてくれて、ようやく言葉を発することができるのに、今のわたしはすらすらと、会話ができていた。
もしかしてわたし、もうエレン先生のこと……
好きじゃないのかも。と思ったその時だった。
あ、原田くん。
ふと背中に刺さった視線を感じて振り返ると、そこには壁にもたれかかった原田くんがいた。彼を発見した途端に、ぎゅうっと詰まる胸。かちりと視線がはまっている間は、時が止まっているような気がした。
「は、原田くんばいばいっ!」
原田くんは、鞄を持っていなかった。だからまだ、彼の班も掃除が片付いていないのかもしれない。美希ちゃんが来れば学校を出るわたしだから、ここで手を振ったけれど。
「え……」
けれど、原田くんに無視された。彼は無表情のまま反転すると、廊下を進んで行ってしまった。どんどん小さくなっていく彼の後ろ姿。そしてそれが見えなくなった時、涙が一粒落ちていった。この涙が意味することを、わたしはまだ知らない。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子
ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。
Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。
極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。
猫菜こん
児童書・童話
私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。
だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。
「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」
優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。
……これは一体どういう状況なんですか!?
静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん
できるだけ目立たないように過ごしたい
湖宮結衣(こみやゆい)
×
文武両道な学園の王子様
実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?
氷堂秦斗(ひょうどうかなと)
最初は【仮】のはずだった。
「結衣さん……って呼んでもいい?
だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」
「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」
「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、
今もどうしようもないくらい好きなんだ。」
……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。
余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました
結城芙由奈
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】
私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。
2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます
*「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
※2023年8月 書籍化
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる