道理恋慕

華子

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守護と殺人

守護と殺人21

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 父親の亡き骸を目に、過ぎた日々を偲ぶ。どうにか彼が蘇る方法でもないものかと、そんな事まで考え出した時、俺の正面を凄まじい速さで何かが通り過ぎた。

「か、母さ……」

 父親を跨ぎ越して行ったのは母親だった。彼女が両手で作ったひとつの穴には、グッと包丁の柄が握られている。
 背後で感じた違和感に振り向いた蓮は目を見開き、向かってきた刃物を避けようと、姿勢を低くする。

 が、時既に遅し。

 躊躇わず、猪の如く猛進もうしんした母親は蓮とぴったり身体を重ねると、同じスピードで壁へと激突した。あまりに突然の事で、苦しみよりも唖然がまさっているのは蓮の表情。
 包丁の銀色は、彼の腹へ吸収されていた。

「か、母さん……」

 驚いているのは俺も然り。まさか彼女がこんな行動に出るなんて思ってもみなかった。しかし更に度肝を抜かれる出来事が、次の瞬間にすぐ起こる。

「大和!」

 叫ばれた名前と共に、シュルシュルと床を滑り、目の前へと来た拳銃。これは母親が意図的に、俺の方面へと蹴ったから。

 これでもまだ襲ってくるようだったら、撃ちなさい。

 彼女の意思が伝わった。
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