道理恋慕

華子

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守護と殺人

守護と殺人20

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 大和、家族を守れ!

 ふいに脳天を揺さぶった声は、父親ではなく己の心の叫び声。静止のけた蓮が拳銃のグリップを持ち直したからだ。

「蓮!」

 俺は咄嗟に声を出す。同時に踏み出した1歩は、絶命した父親を踏まないよう気をつけながら。

「兄貴、来るな!」

 飛びつき、蓮の腕を弾いた衝撃で、拳銃は床へ落ちるとフローリングで滑る。ガチャン!とそれが止まったのは、手を伸ばしても届かない壁際だ。
 腰を下ろした状態だった蓮は、両手と両膝を足代わりにそこへ進む。俺はそんな蓮の背中に覆い被さると、彼を床へ貼り付けた。

「くそ……!」

 しかし力加減が甘かったのか、器用に反転されてしまい、俺と向き合った蓮に1発蹴りをお見舞いされる。見事に鳩尾にヒットして、グホッと内臓を吐きたくなった。

 けれどもうこれ以上は、家族に危害は加えさせられない。

 必死に掴んだ蓮の両腕。決して放さまいと動きを封じる。もう1発蹴られる前に、俺は叫ぶ。

「桜子!銃を取るんだ!こいつに取られる前に!」

 壁際で寝転ぶ殺人兵器。あれを奪わなければ安心できない。それなのにもかかわらず、未だ恐怖の最中さなかにいる桜子は、「え」と小さく溢すだけで行動しない。
 俺にはフラストレーションが溜まっていく。

「早くしろ!銃を拾え!」

 分かる、分かるよ桜子。あんなもの、触るのですら怖いよな。だけどこの状況を見れば、判断できるだろう?死体が産まれたこの部屋で、次に銃を持つ者があくだったとしたら、俺等に待ち受ける運命がなにかって。

「頼む桜子!」

 でも、それでも桜子は動かない。ひっくひっくと泣き出して、怯えている。

「桜──!!」

 お願い頼むよと、彼女に集中してしていれば、いきなり身体が吹っ飛んだ。それは蓮が隙を見つけたから。妹への指示で一杯一杯になってしまった、俺の隙を。

 痛いと思うよりも先に、胸付近から聞こえたのはポキッと何かが折れた音。居間の中央でやり合っていたはずの俺は、今カーテンに背を付けている。
 蓮が放った右ストレートがもろに胸板を打ち砕き、同時に発射されたキックが俺の身体を寸時、ちゅうに浮かせた。

「へへっ。組長と素手で闘う羽目になった場合も想定して、毎日鍛えてたもんで」

 ぐったりとした俺を鼻で笑った蓮は、おもむろに立ち上がり、壁へと向かう。

「ま、待て……蓮……」

 待ってくれ、話をしよう。お前がまだ殺したいと言うのなら、俺が犠牲になるからさ。だからどうかお願い、母さんと桜子は。

 物申せるのは心の中だけで、身体は全く言う事を聞かない。蓮はあと3歩も歩めば、銃を再び手にしてしまう。

「父さん、たす……」

 父さん、助けて。

 遺体に乞うほど落ちぶれた自分は、床に爪を立てるだけ。
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