道理恋慕

華子

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絶望と憤慨

絶望と憤慨16

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 父親の顔面数センチ手前、俺の拳はゴツゴツとした分厚い手の平によって封じ込められた。

「くっ……!」

 全体重をかけ押し続けているのにもかかわらず、ピクリとも動かない。

 ふざけんなふざけんなふざけんな。あと少しで届くんだよ。もっと底から力を出せ!

「んぐぐぐ………!!!!」

 自分で自分を鼓舞しながら力の限りを出そうと試みる。「無理だよ!」と言ったのは、俺の腰回りにへばり付く桜子だった。

 歯茎を剥き出しに闘っている俺に対し、かたや父親は腕1本。圧倒的な差を見せつけられるが、今の俺に、退散の文字はない。

「ひ弱がっ」

 そんな俺の前、突として制圧の手を緩めたのは父親。同時に俺の拳を解放する。

「え」

 そのカンマ1秒後、横にずらされた彼の上半身。全体重を拳にかけていた俺だから、そのまま全身勢いよく前につんのめり、正面のチェストにぶつかった。

「いっ……!!」

 その衝撃は相当なもので、チェストの上に積まれていた何冊かの雑誌が舞い落ちるほどだった。

 頭をもろに打った俺は、次の体勢を整えるのに時間を要した。殴られてもいないのに痛めつけられる身体。父親は天才だ。

 床にぴたりと頬をつけ真横に見える世界では、桜子が泣いていた。ティッシュで鼻を押さえる母親も見えて、なんと最低な家庭なのだろうかと思う。
 1番手前に見える父親は、いつの間やら立ち上がっていて、大きな地響きと共に俺の方へとやって来た。

 やばい、来る。

 慌てて戦闘体勢に移ろうとするが、時既に遅し。胸倉を先頭に無理矢理起こされて、視界はいつもの縦方向に。

「歯ぁ食いしばれ。血ぃ出んぞ」

 閻魔みたいな父親がそう教えてくれた次の瞬間、俺の頭はアタックされたバレーボールの如く、床へと打ち付けられた。
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