道理恋慕

華子

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刺青と鬼胎

刺青と鬼胎4

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「ほんとにパケの中身、覚醒剤だろうな?こんなガキんちょに渡して貰うのなんて初めてだぜ」

 俺が袋を差し出すやいなや、見た目がホストの若い男はそう言った。『ガキんちょ』という単語には、こめかみの血管が僅かに浮き立つ。

「すみませんけど、こんな派手な街、警察もウジャウジャいるんで早く金寄越してくれませんか?」
「まあ待て。中を確認してからだ」
「え、こんなとこで広げるんすか?」
「パケの数を確かめるだけだ」

 戸惑う俺をよそに、男はその場で大胆にも「いち、にい……」と手の平にパケ袋を乗せて数え出した。

「ちょ、ちょっと早くして下さいよっ。ちゃんとありますからっ」
「そんなひよっこの言う事、信じられっかよっ」

 れる俺、冷や汗が滲み出す。

 ここがいくら衆目を避けた非常階段だといっても、いつ何時なんどき人が通るか分からない。警察だってどこかに潜んでいるかもしれないし、常に警戒心を抱いていなければならないのに。

「まじで兄さん、早くっ」
「分かった分かった、ほれよっ。ちゃんとあったから金払うよ、ご苦労さん」

 ポケットから無造作に財布を取り出したその男は、親指の先を舌で濡らし、十数枚のさつをカウントしてから俺に手渡す。

「またよろしくなー」

 カンカンと足音を響かせながら階段を上っていく彼の、なんて無防備な後ろ姿。
 縁が濡れた札に目を落とし、俺はこう思う。見かけでナメられぬよう、外見だけでも父親に近付きたいと。
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