道理恋慕

華子

文字の大きさ
上 下
125 / 196
懺悔と離別

懺悔と離別6

しおりを挟む
 人が疎らな神社はひっそりとしていたけれど、この街にはもう生存していないだろうと思っていた蝉が、ジリリと鳴いていた。

「うっちゃんお願いごとしてくー?ふたり揃って高校受かりますようにーって」
「いや、いいや。金持ってないし」
「私あるよ」

 ゴソゴソと財布を漁り出した芽衣を目にしていると、君は茶色の硬貨を1枚取り出す。

「これでふたり分でもいいかなあ?5円と5円で、足して10円」

「ケチかなあ?」と自嘲する芽衣に、俺の顔も綻んだ。「ご縁にかけたんだろ?」と、その硬貨を一緒に賽銭箱に放り投げたかった。しかし俺は、それを出来ない人種だから。

「芽衣。俺、硬貨それ投げられない」

 繋いでいた君の手を、矢庭に離したんだ。

「え……?」

 鈴へと歩んでいたふたりの足も、同時に止まった。ぽかんと俺を見上げる君。何も知らないうぶな瞳で見つめられれば、グサリと刃物が胸を抉る。

「なんで?たったの10円だし、気にしなくていいのに」
「10円でも千円でも、俺は投げられない」
「どうして?うっちゃん」

 素朴な疑問、けれどそれは重い質問。

「俺……」

 頑張れ、大和。

「俺、高校には行かないから」
しおりを挟む

処理中です...