道理恋慕

華子

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銃声と花火

銃声と花火7

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 バァァァアアアン!!!!

 耳をかち割るほどの銃声に、今年見られなかった花火が頭に咲く。
 奮い立たせた勇気と共に発射された弾は、10メートルも離れていない敵の脇腹を掠っていった。
 唐突に現れた前面の俺を敵は幽霊にも思えたようで、「ぅぁっ」っと小さく鳴いていた。20代前半に見えた男は、その一撃で体勢を崩して尻から順に地へ落ちる。
 金髪なのに、眉毛だけ黒いのが印象的だった。

 味方の男は俺の目を見てうんうんと頷くと、ゆっくりと息を整えながら歩みを進める。
 脇腹を抱え悶える彼の前、男は手に持っていた拳銃を、金髪と眉毛の真ん中に向けていた。

 ドクン。
 俺の心臓が再び大きく動き出す。
 数メートル先でのドラマは、現実とはかけ離れたシーンだった。何故ならば彼等は金を払わずに逃げただけで、「ごめんなさい、もうしません」で許してあげればいいわけで。
 痛む腹を堪えて両手を上げ、命を乞うているというのに、どうして拳銃を下ろさないのだ。

「なんか、言うことあるんじゃねえか……?」

 男は銃の先端で、金髪を弄ぶ。さらり、さらりと揺れる前髪。時折黒の眉毛が顔を出す。

「す、すみませんでした!偽札だなんて知らなかったんす!仲間が勝手にやったことなんです!」
「それじゃあお前は、悪くないと……?」
「いいえ!俺も悪いっす!でも、でも俺本当に……!」

 もう勘弁してやってくれよ。そう思った時だった。

「愚痴はあの世で、仲間に言いな」
「や、やめてくれ!」

 耳を劈く銃声に、俺はもう1度花火を見た。

 返り血を浴びても動じない俺の仲間は、絶命したであろう男に唾を吐きかけていた。

 嘘……だろ?

 人殺しの現場を見てしまった俺はパニックに陥り、今すぐにでも警察へ通報しようと、スマートフォンを取り出した。

「えっと、ええっとっ……」

 それなのに、警察へと繋がる3桁が出てこない。

「なんだっけなんだっけなんだっけ……」

 右手に頭、左手にスマートフォンを抱え、錯乱するだけの俺。スタスタと近寄ってくる仲間の男には、その汚い手を肩に置かれてようやく気付いた。
 ビクッと跳ね上がる全身。彼に微笑まれて顔が引きつる。

わけえのによくやった。おかげで仕留められたよ」

 そう言うそいつも、まだまだ20代半ばに見えた。

「あ、いえ…」
「たぶんあっちもそろそろ片付くだろう。ちょっと見てくるわ」
「は、はいっ」

 くるりと方向を変えて、小走りする男の背中を見て思うのはこんな事。

 犯罪組織の人間からお礼を言われた俺は、同罪だ。俺は誰がどう見ても、このグループの一員なのだ。
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