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抵抗と棄却
抵抗と棄却11
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全力疾走もしていないのに、はあはあと乱れる呼吸。
「はぁっ…はぁ……っ」
身体の内と外って、リンクしているんだな。
ガタンと席を外した父親は、真っ直ぐ台所に向かったかと思えば、煙草を手にすぐさま戻って来た。
「煙草なら換気扇の下か外で吸えよ。桜子が嫌がってんの知ってんだろ」
彼はそんな俺の言葉など全く無視で、咥えた煙草に着火する。
ふーっと長く吹き出す煙は、敢えて俺の顔面に。歪んだ顔を見せつければ、ははっと薄笑いを浮かべられた。
「大和も随分とイキった顔するようになったんだなあ。お前も偉くなったもんだ」
「お、俺はべつに、父さんと争いたいわけじゃない。理解してほしいだけなんだよ」
「理解か……それは父さんに歩み寄れって意味か?」
「歩み寄れって言うか……」
「あ?」
父親の刺すような目つきが、痛い。
父さん。大好きだった父さん。どうして……
「俺、すごく嫌だったんだ……」
「なにが」
「人が、殴られるところを見るの」
廃墟の男は、生きているのだろうか。
「はっはっは。殴り合いなんて、男なら人生1度くらいあるだろう」
腹は微かに動いていた気がしたけれど、今頃はもしかしたら、病院でも棺桶でもなく、とっくに墓石の下にいるのではないだろうか。
「それに、関係のないお婆ちゃんを騙すのもすごく心が痛かった」
「そんなんその婆さんが悪いだろう。ニュースも新聞もろくにチェックしていない証拠だ。そんなことでいちいち沈むな」
父さんは変わってしまった。共に笑って泣いてくれたあの頃の父さんは、もう微塵も感じない。
「はぁっ…はぁ……っ」
身体の内と外って、リンクしているんだな。
ガタンと席を外した父親は、真っ直ぐ台所に向かったかと思えば、煙草を手にすぐさま戻って来た。
「煙草なら換気扇の下か外で吸えよ。桜子が嫌がってんの知ってんだろ」
彼はそんな俺の言葉など全く無視で、咥えた煙草に着火する。
ふーっと長く吹き出す煙は、敢えて俺の顔面に。歪んだ顔を見せつければ、ははっと薄笑いを浮かべられた。
「大和も随分とイキった顔するようになったんだなあ。お前も偉くなったもんだ」
「お、俺はべつに、父さんと争いたいわけじゃない。理解してほしいだけなんだよ」
「理解か……それは父さんに歩み寄れって意味か?」
「歩み寄れって言うか……」
「あ?」
父親の刺すような目つきが、痛い。
父さん。大好きだった父さん。どうして……
「俺、すごく嫌だったんだ……」
「なにが」
「人が、殴られるところを見るの」
廃墟の男は、生きているのだろうか。
「はっはっは。殴り合いなんて、男なら人生1度くらいあるだろう」
腹は微かに動いていた気がしたけれど、今頃はもしかしたら、病院でも棺桶でもなく、とっくに墓石の下にいるのではないだろうか。
「それに、関係のないお婆ちゃんを騙すのもすごく心が痛かった」
「そんなんその婆さんが悪いだろう。ニュースも新聞もろくにチェックしていない証拠だ。そんなことでいちいち沈むな」
父さんは変わってしまった。共に笑って泣いてくれたあの頃の父さんは、もう微塵も感じない。
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